トランプ大統領の票集め、米中貿易戦争における農産物がネックに？

2019.8.23

経済

関税引き上げ合戦は2年目に突入

「当社は生きるか死ぬかの瞬間に直面している。任務が遂行できないのなら、戦車が走るための道を備えよ。戦車に赴く気があるなら、戦車にロープを巻き付けて走れ。社員一人ひとりに相応の覚悟が求められる」

8月20日、こう社員宛のメモを発出したのは米中貿易戦争の象徴となっている華為科技（ファーウェイ・テクノロジーズ）の任正非CEO（最高経営責任者）だ。ファーウェイの今年度上半期の決算は好調だが、任氏は「それは中国人顧客が同情して支払い期日を守ったに過ぎない」と悲観的だ。ファーウェイは中国政府のスパイ活動に協力しているとの嫌疑をかけられ、今年5月の禁輸措置発動以降、米国市場から締め出し食らっている。

昨年夏に米トランプ大統領が中国に対して宣戦布告した関税引き上げ合戦は、まさに泥沼の様相を呈している。トランプが高関税というバズーカ砲をぶち込めば、中国の中近平国家主席も同等のミサイルを打ち返す。そのプロセスを振り返るといかに両国の対立が抜き差しならないものであるかがわかる。

追加関税はついに一般消費に直結する品目にまで

2018年7月、アメリカはロボットなど約800品目・340億ドル相当の中国からの輸入品に25％もの追加関税を課せば、中国は間髪を入れず、大豆など約500品目・340億ドル相当のアメリカからの輸入品に25％の追加関税を課した。以降、両国の打ち合いは続く。

2018年8月には、アメリカが半導体など約300品目・160億ドル相当に25％、中国が自動車など約300品目・160億ドル相当に25％。2018年9月に、アメリカが家具、家電など約5700品目・2000億ドル相当に10％、中国が液化天然ガスなど約5200品目・600億ドル相当に5～10％とエスカレートしていった。

そしてトランプ氏は今年8月1日に第4弾として対中輸入品3000億ドル相当に10％の追加関税を9月1日から課すと表明した。今回の第4弾の対象は、スマホやパソコン、ゲーム、玩具、衣料品など一般消費に直結する品目だけにこれまでとは異質で影響は大きい（その後、年末商戦への影響を考慮して、スマホやパソコン、一部の靴・衣料品などは12月15日に延期されたほか、健康や安全保障に関連する項目は除かれた）。

トランプ大統領の関心は来年の大統領選、最大の焦点は農産物

では、こうした追加関税合戦はいつまで続くのか、そしてどちらの国が勝つのか。この点について、国際情勢に詳しいエコノミストは、「トランプ氏の頭の中は、来年11月の大統領選で再選されることでいっぱい。対中貿易戦争はそのための国内向けのアピールにすぎない。裏を返せば大統領選前に打ち方止めとなる可能性もある」と指摘する。だが、どちらが勝つのかについては、「共に負け戦」と見る。米中の産業界とも痛手を受けるためだ。

その最大の焦点は農産物にある。トランプ氏は中国に米農産物の購入拡大を繰り返し迫っており、追加関税の発動をちらつかせたものの、中国が購入を増やさなかったことに怒り心頭だ。第4弾の追加関税は、農産物の購入を拡大しないと中国が表明した直後に発表されたほどだ。この点について日本の農業関係者は次のような見方を披露する。

「アメリカにとって、中国への農産物の輸出で最大なのは大豆だ。これは大豆そのものを食べるのではなく、食用油を採るため。中国料理にとって油は不可欠の食材で、大量に消費されている。数年前に油の価格が高騰し、取り合いから殺人事件が起こったほど重要な品目。その輸入に対し、中国は第1弾で25％もの追加関税を課す一方、カナダやブラジルからの輸入を急増させている。トランプ氏の顔は丸つぶれになったようなものだ」

トランプ氏にとって、農業は大きな票田だ。大豆などの中国向け輸出が競争力を失い、輸出量が激減することは致命傷となりかねない。このため、トランプ氏は、農家に対して300億ドル近い補助金を出すことを約束した。「日本円で3兆円を優に超す補助金で、すべて“真水”といわれている」（先の農業関係者）という。

米中貿易戦争は、両国とも疲弊するなか、お互いに関税をかける対象は尽きつつある。しかし、国の威信がかかったこの戦いにおいて、話し合いで解決しないようであれば、さらなる報復合戦のステージに進むことになるだろう。