IoT&サブスクで化粧品もパーソナライズされる時代へ 資生堂の新たな挑戦

2019.8.27

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IoT&サブスクで化粧品もパーソナライズされる時代へ 資生堂の新たな挑戦

写真・画像/小池彩子、資生堂

さまざまな分野で進むIoT化とパーソナライゼーションの波は、化粧品業界にも及んでいる。化粧品大手の資生堂が7月に本格展開を始めた新商品「Optune(オプチューン)」は、スマートフォンアプリとマシンとの連動で、一人ひとりの肌状態に最適化したスキンケアを提供できるサービスだ。しかも、資生堂としては初となるサブスクリプションを採用。

 

この挑戦に満ちた新しいプロジェクトについて、開発の中心となった資生堂ジャパン次世代事業開発部「Optune(オプチューン)」ブランドマネージャーの川崎道文さんに話を聞いた。

使うほどに自分に最適化されるIoTスキンケアサービス「Optune(オプチューン)」

資生堂のIoTパーソナライズスキンケア「Optune(オプチューン)」は、スマホアプリによるデータ分析と専用マシンにより、個人に最適化したスキンケアを提供するサブスクリプション(利用期間に応じて料金を支払う定額制)型のサービスだ。

スマホにダウンロードした専用アプリ(現在はiPhoneのみ)で肌を撮影すると、キメ、水分、皮脂、毛穴などの肌測定データ、気温、湿度、紫外線などの環境データ、そのときの気分や睡眠データによる体内リズムの乱れなどをクラウド上に収集し、独自のアルゴリズムで分析、8万通りもの抽出パターンから、その時の肌に合わせた最適なスキンケアをマシンが提供する。

資生堂「Optune」撮影して測定

資生堂「Optune」測定データ
測定したデータは蓄積され、振り返ることも可能。

マシンにセットするスキンケアカートリッジは、初回登録時の情報からセレクトされ、日々の測定データによってよりパーソナライズされたものが自動配送される。使うほどに精度が高まる仕組みだ。

資生堂「Optune」カートリッジ

既存のものではない、まったく新しいビジネスモデルを

オプチューンプロジェクトは、2017年1月の組織改編の際、資生堂ジャパンの杉山繁和社長より、「これまでの資生堂にはない、新しいビジネスモデルを開発してほしい」という課題を受けたことから始まった。

「生活者のことを考えた新しいものを、という使命のほかに、1年以内に実現するという条件があったので、とにかくスピーディーに動く必要がありました。ちょうどその頃、研究所の美容機器開発の関連で、パーソナライゼーションを用いた取り組みへの検討がスタートしたので、これをコアにした新しいビジネスモデルのプロジェクトを立ち上げようということになりました」(川崎さん、以下同)

資生堂ジャパン株式会社 次世代事業開発部 デジタルフューチャーグループ ブランドマネージャー 川崎道文

新しい可能性を模索したいという杉山社長の意気込みを感じた川崎さんは、その1カ月後にはオプチューンプロジェクトを立ち上げ、社長自らにプロジェクトオーナーを引き受けてもらった。

「通常、新ブランドを立ち上げた場合は月に1度のマーケティング会議で提案、承認を受けてから進めていきます。まったく新しいコンセプトの商品がここまで早く開発できたのは、プロジェクトオーナーの社長に随時相談しながら進行できたことが大きいと思います」

これまでにないコンセプトの商品の開発にはどんな苦労が伴ったのだろうか。

「基本的に資生堂は化粧品メーカーなので、化粧品を作るためのスペシャリストは各部署にいます。ただ、今回はIoT、アプリの開発など、これまでになかった要素の開発があったため、外部のスペシャリストの助けを借りました。プロジェクトのマネージメントが私たちの仕事なので、時間のないなかでの優先事項を決めることが大変でしたね」

そんな努力の甲斐あって、その年の11月にはマスコミ向けに新商品のβ版を発表。そして翌年3月、実際にユーザーを限定して募集し、β版が始動した。

資生堂「Optune」β版
「オプチューン ゼロ」と名付けられたβ版のマシンには画面が付いていたが、「スマホで見られる」という声で現在のスマートなデザインに。

β版から見えてきたこと サブスクリプション採用へ

β版は月額900円で、最初に行う問診と肌測定の結果によってセレクトされる5本のカートリッジが一本2800円。カートリッジがなくなったら、その都度、ユーザーが発注するシステムになっていた。

「そのうちにユーザーの方から、結局は買うものなので、定期的に届けてほしいという声をいただいて、本格展開する際にはサブスクリプションとして提供することにしたんです。資生堂のビジネスモデルにどれだけマッチするかは未知数だったのですが、サブスクリプションを採用することによってお客様との関係をより良くすることができました」

約1年間のβ版の運用によって、ターゲットについても明確化された。本来ならばスキンケア商品に強い関心があり、新商品を試してみたいと思う層がメインターゲットとなるはずだが、「オプチューン」では、反対にスキンケアにかける時間がなく、なるべく短い時間で自分に合った効果を得たいと考える人たちから熱い支持を得ることになった。

「例えば、仕事や子育てを頑張っていて、スキンケアを選ぶ時間もなく、手間もかけられないと感じている人たちにとっては、マシンが最適な量を調整してくれ、手っ取り早く美肌が手に入る『オプチューン』はぴったり。β版の募集には想定の10倍ほどの応募があり、20代の学生からシニアの方まで幅広い層に使っていただきましたが、それによって30代後半〜40代の方の中に『オプチューン』のロイヤルユーザーがいると絞り込むことができました」

資生堂「Optune」マシン
コストを払ってでも“考えなくていい”という利便性を取る人は今時少なくない。

本格展開からは、価格もサブスクリプション化に合わせて月額1万円の定額制に設定。コストパフォーマンスはどうなのだろうか。

「この価格設定はもしかしたら高いと思われるかもしれませんが、化粧品は、ひと月半くらいで使い切る設定のものが多く、今使っている化粧水や乳液などのスキンケア用品が全部で15000円以上になるなら、結果『オプチューン』の方が安価になります。

また、マシンが最適な成分を随時調節してくれるので、自分で分量を考えずとも効率的に美肌が得られる。朝晩使って一日300円、一回あたり150円程度になります。この価格を高いと見るか、安いと見るかということになりますが、時間をかけずに美肌を得られることを実感していただければ、納得できる価格帯ではあると思っています」

日々に寄り添うパーソナライゼーションへ

スキンケアの分野で個々のユーザーに合わせた商品を提供するというカスタマイゼーションは、これまでもポーラによる「APEX(アペックス)」、米ニュースキンによる「genLOC Me(ジェンロック ミー)」などが実現されてきたが、日々の肌のコンディションの変化にまで対応したのは「オプチューン」が初めて。

「日々、肌が変わるのなら、化粧品も変わらなければという発想です。ユーザーが毎日の肌の状態をチェックすることで、それをデータベース化することもできます。パーソナライゼーションは、ブランド・ロイヤリティを高めるといわれていますが、お客様との関係性を最適なものに随時アップデートできるという点でも、大きな可能性を秘めていると思います。

これまでは、お客様がどんな商品を買ったかというところまでは追えても、購入後どのように使っているかということまでは追いかけることができなかった。IoT、サブスクリプションによってその部分まで追いかけて分析することができるようになったのは大きいと思います」

資生堂 S/PRESS

資生堂 S/PRESS(オプチューンショップ)
資生堂の新サービスやデジタル技術を展示しているショールーム「S/PRESS」(浜松町クレアタワー1階)。チームラボが制作を手掛けた巨大なタッチパネルが印象的。「オプチューン」のコーナーではアプリのお試しもできる。8月1日(木)~9月20日(金)まで期間限定のオプチューンショップ(下)となっている。

対面販売によるデータ蓄積が生きた

ユーザー一人ひとりの商品の使い方まで分析できれば、CRM(顧客関係管理)にも大きな貢献が期待できる。まさに現代のテクノロジーの恩恵という印象だが、川崎さんは以下のようにも語る。

「パーソナライゼーションを実現したデータベースは、従来から店頭で販売員がお客様と会話しながら蓄積してきたもので、資生堂はやはり店頭というお客さまとの接点を持っていることが最大の強みだと思います。紙ベースだった頃から、そうしたデータを活用してきましたし、以前から“パーソナライズド・ビューティー”というキーワードを発信してきました。

『オプチューン』のような新しいシステムは、これまで培ってきたパーソナライゼーションのテクニックが、ネットやスマホなどのデジタル技術を背景として、さらに高度化する時期に入ってきた、ということを表しているのではないかと思います。このシステムを使った商品はスキンケアだけでなく、ファンデーションとも親和性が高いのではないかなど、まだまだ試してみたいことがたくさんあります」

将来的には蓄積されていくパーソナルデータをもとにAI(人工知能)を用い、肌測定のアルゴリズムそのものもアップデートされていくシステムの実現にも期待を寄せる。

ユーザーに「オプティマイズ(最適化)」し、「チューニング(調律)」することから、生まれた「Optune(オプチューン)」。資生堂が踏み出したこの一歩は、将来、化粧品業界にとって大きな一歩となる可能性を秘めている。

資生堂「Optune」
「Optune(オプチューン)」公式サイトはこちら