ファンケルがサプリ研究の集大成「パーソナルワン」を実現するまで

2020.4.14

企業

0コメント
ファンケルがサプリ研究の集大成「パーソナルワン」を実現するまで

一般に「サプリメントは怪しい」といわれていた1994年、株式会社ファンケルは“高品質・低価格”をテーマに掲げ、サプリメント事業を開始。医師や大学・医療機関等と提携して臨床試験を行うなど、研究開発に並々ならぬ力を注いできた。その26年間の集大成が、2月20日に発売された「パーソナルワン」だ。

 

パーソナルワンは、食習慣や生活習慣に関するアンケートと尿検査から、その人の健康状態を分析し、オーダーメイドで最適な種類・量のサプリメントを提供するサービス。ファンケル創業者の池森賢二氏の悲願ともいえる“サプリメントのオーダーメイドシステム”が誕生した経緯と、サプリメントのパーソナル化の重要性について、開発者に取材した。

自分に合ったサプリが毎月届く便利なサービス

 

ユーザーの興味関心や嗜好、属性などに合わせてサービスを最適化する“パーソナライゼーション”は、今のマーケティングを語るうえで欠かせないキーワードだ。ファンケルが挑戦するパーソナライゼーションの究極は、サプリメントのオーダーメイドサービス「パーソナルワン」。

その人の健康状態や健康悩みに応じて、最適な種類・量のサプリメントを提案してくれるサービスで、「サプリの種類が多すぎて、どれを選べば良いか分からない」や「今飲んでいるサプリが自分に合っているのか分からない」、「無駄なサプリは飲みたくない」といったユーザーの不安や悩みが解消される。

複数のサプリメントが1回分ずつ個包装されているため、種類が多くても飲み忘れを防ぐことができるうえ、外出や旅行の際にケースに自分で詰めて持ち歩くといった手間も省けて便利だ。さらに、30日分(1日2回分で60袋)が毎月定期的に届くので、買い忘れてサプリメントを切らす心配もない。

30日分(1日2回分で60袋)が毎月定期的に届く

サプリメントが日本に根付く以前から、見据えていた現在地

ユーザーにとっては痒い所に手が届く利便性の高いサービスだが、その実現には長年の試行錯誤があった。パーソナルワンの企画を担当する三原千延氏に、サービス開発の経緯を聞いた。

パーソナルワンの企画を担当する三原千延氏(マーケティング本部 健康食品事業部 サプリメント開発第二グループ係長)

「創業者の池森は〈サプリメントの最終形は、パーソナルサプリだ〉と長年にわたって目標を掲げてきました。これまでも何度か挑戦してきたのですが、ソフト面・ハード面の両方で体制が整わず、なかなか実用化には至りませんでした。こうして一つの信頼性のあるサービスとして皆様に提供できるようになるまでに、四半世紀以上かかっています」

開発に立ちはだかった、ソフト面・ハード面でのハードル

ソフト面での課題には、たとえば様々な健康悩みに対応したサプリメントの開発や、複数の異なる剤形のサプリメントをワンパックにした時に長期間品質を担保するための技術開発があった。人によって健康状態や必要な栄養素は千差万別のため、すべての人をカバーするには、多種多様な組み合わせでサプリメントを提供できるようにする技術開発が必要だったのだ。三原氏は言う。

「パーソナルワンで用いるサプリメントは現在33種類あり、粒数や種類による組み合わせは10億通り以上にもなります。細かく種類と量の調整ができるため、その人にベストなサプリメントを提供することができるのです」

一方、ハード面での課題には、ユーザーの体内の基本栄養素の充足度を判定する検査法の確立や、検査結果にもとづいてサプリメントを取捨選択するロジックの構築、判定結果や健康アドバイスをユーザーに分かりやすく伝えるための“見える化”の工夫などがあった。

パーソナルワンでは、現代人に不足しがちな10の栄養素(ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンD、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、DHA)を調べるために、まず生活習慣や健康悩みをヒアリングする45問のWEBアンケートを行う。

生活習慣や健康悩みをヒアリングするWEBアンケート

その際に尿検査の申し込みをし、検査キットが届いたらユーザーが自分で採尿して、郵送で検体を送り返す。1週間ほどすると、分析結果がメールで届く。

分析結果

「健康状態の分析ロジックの開発は、医療法人財団健康院理事長で健康院クリニックの細井孝之院長に監修いただきました」と、三原氏は分析結果の信頼性にも自信を見せる。

マイページに行くと、ユーザーの体内の基本栄養素の充足度がグラフ化・スコア化され、一目で“何の栄養素がどれくらい足りていないか”が分かるようになっている。結果にもとづいて、生活改善のための食事や運動などのアドバイスが示されるとともに、最適なサプリメントがおすすめの順にリストアップされる。

最適なサプリがリストアップされる

「リストにあるサプリメントを全部買わなくてはいけないということではなく、各栄養素についてのアドバイスをもとにユーザーが飲みたいと思うものを選んで購入することができます。たとえば、カルシウムはサプリメントを摂る代わりに乳製品を多めに摂るという場合は、カルシウムを選択しないなど、ユーザーが自分でサプリメントの内容や価格を決めて、納得して購入できるようにしました」

尿検査で亜鉛・鉄の過不足が分かる、世界に先駆けた新技術!

ハード面の開発で特に注目したいのは、尿検査による「鉄」と「亜鉛」の分析技術の実用化だ。

実は、従来の尿検査ではこれらの成分を測定する技術がなく、ファンケルが独自で開発した。世界に先駆けた尿検査の技術が、パーソナルワンでは用いられているのだ。

その開発の中心人物である雄長誠氏にも話を聞いた。

パーソナルワン開発の研究担当である雄長誠氏(総合研究所 ヘルスサイエンス研究センター予防医療研究グループ 主任研究員)

そもそも、なぜ尿検査で6つの栄養素(鉄、亜鉛、ビタミンB1、ビタミンB2、カルシウム、マグネシウム)を調べることになったのか。

「血液検査では調べる方法があるのですが、採血には痛みが伴います。それに、ユーザーが自分で採血するというのも、ハードルが高いと考え、以前から体を傷つけずに鉄・亜鉛の充足度を知るための検査をする研究を続けてきました。そして、体を一切傷つけず、誰でも簡単にできる方法として〈尿検査で6つの栄養素全てをぜひやりたい〉と三原からオーダーが入ったのです。この6つの栄養素は日本人が特に不足しがちな栄養素です」

とはいえ、尿から体内の亜鉛と鉄の充足度を推定できるかどうかは、「開発を開始した時には、やってみないと誰も分からなかった」と、雄長氏は言う。

「従来の測定技術でも鉄と亜鉛を検出すること自体はできるのですが、尿から検出された量をもとに、体内で鉄・亜鉛がどれだけあるかを知る方法はありませんでした。特に体内の鉄がどれだけあるかは、尿に含まれる鉄を測定しても分からない事が従来から分かっていたので、その代わりとなる新しい指標を探し出すところから研究を始める必要があったのです。

その結果、鉄自体を測定するのではなく、体内に貯蔵されている鉄の量を示すたんぱく質である、フェリチンを測定すればよいという事に行きつきました。そして、その測定法の開発を行いました。

また、尿から体内の鉄・亜鉛の充足度を知るための計算式やロジックもありませんでした。そのため、研究への同意をいただいた20代〜60代の日本人男女数百人から検体を集めて、尿からの検出量と体内の充足度との関係性を計算式に変換する研究を行いました。体を傷つけずに測定できる方法の開発を開始してから計算式を確立するのに、約4年半かかりました」

尿の分析で大変だったことを聞くと、分析器の負荷の問題があったという。

「ビジネスとして展開するには何百もの検体を安定して分析できなくてはなりません。ビタミンB1やB2を測定するのにHPLCという分析器を用いるのですが、事業上の目標の検体数を目標の時間内、限られた設備で分析しようとすると、機械に負荷がかかりすぎてしまい、分析できません。この条件の設定には苦労しました。しかし、研究所の製品の安全性や品質を分析によって評価するグループと連携することで、安定して分析できるようにカスタマイズできました」

他にも、カルシウムとマグネシウムの充足度の推定についても従来使われてきた手法が実は正確ではないことが判明し、自分たちで改良しなくてはならなかった。また、尿を郵送で送る際に変質しないようにするための安定剤は、特許の問題をクリアしなければならかった。

そういった問題点を1つ1つ克服して、ようやくパーソナルワンが完成したのだ。

パーソナルワンの尿検査キット

栄養不足を補うだけでなく、健康の悩みにもアプローチ

ところで、パーソナルサプリは他社でも始めているところがある。ファンケルならではのサービスの強みとは何か。

三原氏は1つめの強みとして、次の点を挙げる。

「一般的なパーソナルサプリは、あらかじめ用意された組み合わせのパターンから提供されますが、当社ではお客様ひとりひとりに最適なサプリメントの組み合わせを完全オーダーメイドで生産し、提供いたします。また、足りない基本栄養素を補うための“ベースサプリ”に加えて、その人の健康悩みをサポートする“健康悩み対策サプリ”も提供するところが特長です」

ベースサプリとは、体に不可欠なビタミン・ミネラルを補うサプリメントのこと。健康悩み対策サプリは、ダイエットやストレスが多い、寝つきが悪い、健康診断の数値が気になる、目のピントが合いにくいなどといった、健康上の悩みをサポートするサプリメントだ。

「また、サプリメントを提供するだけでなく、食生活の改善もサポートしたいという思いから、パーソナルワンを購入した方に、食事管理アプリ『あすけん』のプレミアムサービスと同等のサービスを無料で提供しています。『あすけん』は食事を撮影するだけで栄養素の分析やカロリー計算ができます」

2つめの強みとして、雄長氏は「商品開発の信頼性の高さ」を強調する。

「ファンケルはサプリメント会社の中でも研究開発に多くの投資がなされている点が特長です。機能性や信頼性のための研究や検証を重ね、安心安全で機能性の優れた製品開発を追求しています。たとえば、パーソナルワンで使われている個包装のフィルム一つをとっても、サプリメントが変質・変色しないか否かについては実際に研究員が検証を重ねた技術が使われています。サプリメント開発の総合力では、日本一・世界一だと自負しています」

フィルムひとつにも独自技術がつかわれている

人生100年時代をまっとうするためのオーダーメイドサプリの活用

サービス開始から約1カ月が経ち、世間の反応はどうか。三原氏によれば、サービス開始前は健康への関心が高い50代60代がメインターゲットになると思われたが、実際には40代50代のユーザーが多いという。

「アンケートやサプリメント購入などをウェブで行うことから、インターネット・リテラシーの高い世代との相性が良いことが分かりました。今後は〈店員と対面で相談して購入したい〉という層にも訴求できるよう、直営店舗での展開も考えています。アジア圏を足掛かりに海外展開もしていきたいですね」

ストレスの多い現代社会では普通に生活をしているだけでは、多かれ少なかれ不足する栄養素が出てきてしまうものだ。忙しい毎日を過ごしていると、不規則な食生活で栄養が偏ることもある。

自分に足りない栄養素に気付き、サプリメントを活用して過不足なく補っていくことが、人生100年時代を元気に生きる秘訣の一つになってきそうだ。

「サプリメント市場は中高年が消費の中心ですが、20代30代の若い人たちにもパーソナルワンを知ってもらい、美容や健康に役立ててもらえれば嬉しいです」