賛否両論のオンライン授業 大学での学びとはいかなるものか

2020.6.4

社会

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コロナ禍によって学校教育にオンライン授業の導入が進んでいる。大学では4月からオンライン授業を導入した東京大学を筆頭に、ほとんどの大学でオンライン授業の導入が決定した。これをきっかけにコロナ終息後も学校教育のオンライン化が進むと見る向きも大きく、内容についての議論が盛んだ。しかし、オンライン授業は時代に即した便利な教育システムだと肯定的に語られることが多い一方で、意外にも当事者の大学生からは不満の声も大きい。

オンライン授業に学生が感じる不満

「正直、オンライン授業で実感しているのは悪いところばかりです。授業を受けているという実感がまったくありません」と否定的に語る山田さん(仮名)は、都内の国立大学に通う3年生だ。

「例えば授業中にネットの回線が落ちると大事なところを聞き逃してしまいます。また、オンライン授業中にマイクを入れて質問しようとすると、周りの注目を浴びすぎてしまうので億劫になってしまいますね。

そもそも、私が履修している授業の7割近くがオンライン上の講義すら開催されず、レポート課題を提出するだけのものになっています。高い学費を払って、ただレポートを書くばかりの日々には納得がいきません」

学生である筆者の周りでも、満足のいく教育を受けられていないとの声は大きい。4月には学費の減額を求める署名が各大学で盛り上がったが、例年通りの学費に納得がいかないというのは当然の感情と思える。

また、5月26日には複数の大学で導入されている履修登録サービス「Moodle(ムードル)」に接続できなくなり、閲覧できなくなるという事態も発生。授業に関する情報が手に入らなくなり、オンライン授業を受けられない学生が続出した。

Twitter上では学生による不満の声が殺到し、「Moodle」がトレンド入りするまでになった。大学とはいえネット環境設備が間に合っていないところも少なくないのだ。

また、実験系や美術系などの実習がメインの授業では、オンラインでは本来の授業が再現できない。やはり、なんでもオンラインというわけにはいかず、教授と学生のコミュニケーションが重要な少人数教育では対面でないと良さが生かせないだろう。

オンライン授業、学生の賛否を分けるもの

一方、もちろんオンライン授業を歓迎する声も大きい。

東京大学に通う田中さん(仮名)は「登校の必要もなく、家で自由なスタイルで受けられるのでオンライン授業は本当に楽です。録画して見返すことも出来ますし、コロナ収束後もこのままがいいですね」とその便利さを強調する。

続けて「オンライン授業をいち早く導入した東大では、他大で聞くような問題はあまり起きていません。大学のIT化がもともと進んでおり、教員のIT習熟度が高かったのではないでしょうか」と語った。実際、当初からIT化が進んでいた理系の大学ではオンライン授業は比較的スムーズに行われる傾向がある。

個人の好みも大きいだろうが、学ぶ内容や環境によってオンライン授業の賛否は分かれている。

大学は便利さだけを追い求める場か

私自身、日本の大学はIT化が遅れていると感じていて、学内のWi-Fi環境の不整備や、ウェブの履修登録サービスの脆弱さなどは以前から指摘されていた。

とはいえ、今回のコロナ禍で一気に大学のIT化が進んだこと自体は歓迎すべきことだろう。通信環境や、教員の不慣れなどの問題は徐々に解消されていき、コロナ収束後は実情に合った形でオンライン授業の導入が進むと見る向きが強い。

しかし、もろ手を挙げてオンライン授業を歓迎するような風潮には注意が必要だろう。大学教育においては、便利さと合理性だけを追求するべきとは思わないからだ。

そもそも大学生は、ただ授業を受けて知識を吸収するためだけに大学に通うのだろうか。大学での学びとは、知識を身につけること以外に、大学内外でさまざまな人と出会い行動し、その活動の中で得たものや経験も含まれる。

オンライン授業では、授業終わりに学生同士で授業内容について話すことも、教授に話しかけて雑談することも出来ない。対面でのコミュニケーションが減ることで、大学生自身が無自覚のうちに多様な学びの機会を失うことになりかねない。

オンライン授業は、教育のシステムとしてはとても便利な代物だろう。しかしその普及には、これまで大学生が享受してきた、授業にとらわれない自由で多様な学びや文化が、消えていく危険性を孕んでいる。便利さといったメリットだけに目を向けるのではなく、大学生にとって広い意味で学びの機会を奪うことにならないか、一度立ち止まって慎重に考える必要がある。