不便益になじむ温故知新の「新しい生活」

2020.08.06

社会

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写真:森田直樹/アフロ

現在起こっているコロナパンデミックは、医学・医療や科学だけでは解決できない厄介な問題を多く抱えています。緊急事態宣言の発出、社会生活が制限され、経済状況が悪化、まさに第2次世界大戦後、最大の国難、世界的危機に直面していると言っても過言ではありません。不要不急の外出制限、学校の休校、ストレスによる心の問題・DVや虐待の増加、店舗休業補償、雇用確保、資金繰りなどの融資、経済安定策などなど、多くの課題が山積しています。この経験をもとに、これからの未来社会の行く末を熟慮することが肝要です。コロナパンデミックに隠された闇を照らすことが求められているようにも思います。今回は、withコロナ時代を生きるために“本当に必要な”新しい生活様式とは何か、考えてみたいと思います。

厚生省が「新しい生活様式」を示したが……

さて、目に見えないウイルスの脅威、いつまで続くかわからない闘いが続くなか、ご承知のように、政府の専門家会議(廃止され分科会)の提言を踏まえ、厚生労働省は5月に「新しい生活様式」の実践例を示しました。手洗いやマスクといった一人ひとりの基本的感染対策や、3密回避、テレワークや時差通勤を活用した働き方の新しいスタイルなど。

「働き方の新しいスタイル」について詳しく述べると、ICT(情報通信技術)を活用しての実践がいま急速に拡大しています。消費や契約はeコマース(電子取引)、外食はフードデリバリー、観光や不動産のVR、金融はオンラインバンキング、医療は遠隔医療・ネット診察、公共機関はeガバメント、教育はオンライン授業、テレワークやローテーション勤務、オンライン上での会議や名刺交換、時差出勤や自転車通勤などなど。とはいえ、ICT(情報通信技術)に頼るためには、それなりの情報環境基盤が必要であると同時に、それを使いこなす人間の考え方も重要になると思います。

別の視点からの「新しい生活様式」

さて、これらの「新しい生活様式」を掲げることは結構なことですが、しかし、実際に取り入れるには、本来的に、新しいものの考え方や価値観がそこに伴っていなくてはならないでしょう。また、「新しい生活様式」と「旧来の生活様式」のメリットとデメリットの吟味も必要と思います。

科学・科学技術の長足な進歩と経済の発展に支えられた近代文明、人類の生活は高度化し、豊かで便利な生活を享受してきました。何から何までもが肥大化し、グローバルな世界ができ上り、それにすっかり慣れっこになってしまっています。今回のコロナパンデミックでは、社会生活の変容、縮小を余儀なくされましたが、これからは縮小のままでいいのではないかとさえ思います。便利な生活に慣れてしまった現代人、もう元に戻れないのですが、少し前の不便な生活をすべきではないでしょうか。

昔は、これほどのコンビニ、スーパー、外食店などは皆無でした。今回のように、不要不急の外出制限となれば、客足が減り、途端に景気が悪化するのは自明なことです。政府は、経済のV字回復を主張しますが、もう右肩上がりの時代でなくてもいいのではないでしょうか。昭和・平成は、科学・科学技術万能の時代、金満日本・物質欲・金銭欲肥大化の時代、経済一辺倒・欲望の資本主義の時代、だが、我が国の社会構造の瓦解、はては人間のこころの崩壊に注意を払うべきであったように思います。本当にわれわれ国民のための政治・行政・経済が行われていたのでしょうか。「令和」の時代、今までの経済成長信奉の陰で何が惹起されているのか思慮する必要があります。経済成長こそが人々を幸せにするという経済成長主義の価値観、成長への偏愛を捨てる去るときが来ているように感じます。

これ以上、豊かで便利な生活をしなくてもいいのではないか、むしろ昔の不便な生活に戻ることが肝要でしょう。「進歩的経済成長主義」と決別し、「脱成長主義」を勧めたいと思います。勧めたいというよりは、そうするしかないように思うのですが。

人間らしい、“温故知新の新しい生活様式”

「不便益」という言葉があります。科学・科学技術の進歩により便利な生活を手に入れた人間ですが、失うものも多くあったように思います。車を捨てバスを利用、歩くことを覚え、今まで見えなかった道端の景色が見え、しかも街行く人との会話が成立する。これも不便に伴うメリット「不便益」です。

また、老子の思想に「知足(足るを知る)」があります。あまりにも豊かになった生活、何でも欲しいものが手に入る時代、有難みが分からない。貧しいながらも豊かさを感じた時代もあったはずです。

昭和・平成と、我が国は「GDP=国の豊かさ」をひたすら追い求めてきました。その結果、モノがこれだけ溢れ、物質的には確かに豊かになりましたが、人の幸福感は高くなったでしょうか。国連の関連団体が、国際幸福デーの3月20日に、「世界幸福度ランキング2020」を発表しました。各国の国民に「どれくらい幸せと感じているか」を評価してもらった調査に加えて、GDP、平均余命、寛大さ、社会的支援、自由度、腐敗度といった要素を基に幸福度を計るそうです。2020年は世界の153カ国を対象に調査をした結果、日本は2018年の54位、2019年の58位から4つ順位を下げ62位でした。経済成長至上主義をひたすら走り続けてきた我が国、GDPをはじめとする経済指標などでは測れない目に見えない幸福の価値観を見直すべきだと思います。

近代文明の陰で、科学だけでは解決できない多くの問題が生まれています。環境問題はそれらの範疇の一つであり、今回のコロナパンデミックは元々ウイルス感染症で医学や医療の問題ですが、近代社会文明の仕組みに密接に関係しています。近代文明には脆さもあり危機感を覚えます。人間の心を取り戻さなければならないようにも思います。ウイルスの変異は速いが、人間はそう簡単には変われません。人間の本来の生き方、「しなやかなに、ゆらぎの中で、あるがままに生きる」を取り戻さなければならないでしょう。そのような思考パターンを持ちながら、近代的な「新しい生活様式」を実践することが必要ではないでしょうか。将に、“温故知新の新しい生活様式”です。

コロナパンデミックの真っ只中を生きる時代、「モノを怖がらなさ過ぎたり、怖がり過ぎたりするのは優しいが、正当に怖がることはなかなか難しい」、寺田寅彦の言葉が身に沁みます。