障がいのある人を在宅SEとして養成・雇用。三菱商事太陽が目指す共生社会

2021.3.1

社会

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コロナ禍で急速に普及したテレワーク。通勤からの解放や家事育児との両立など、その恩恵を受けている人は多いのではないだろうか。しかし、通勤することが当たり前だった人たち以上に、在宅での働き方を必要とする人たちがいる。例えば、身体や精神に障がいがあり、通勤自体が難しい人たちだ。

やる気はあるが、通勤の問題で就労ができない。そんな課題に立ち向かうべく、三菱商事太陽では、テレワークが浸透する以前の2014年から障がいのある在宅勤務者の採用をはじめており、2018年には在宅SE養成コースを始動。これまで働くことを諦めていたり、労働形態が限られていたりした障がいのある人を“即戦力のSE”として育成し、全国的なIT技術者不足の解決にもつながる仕組みをつくった。

障がいのある人もない人も、ともにストレスなく活躍できる共生社会を目指す。多様性社会において、三菱商事太陽が目指す「働き方」のあり方を聞く。

三菱商事太陽が行う「在宅SE養成コース」

コロナ禍によるテレワークが一般的に浸透した令和2年、大分県別府市に本社を構える三菱商事太陽が「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」を受賞した。

テレワークを社会に周知することを目的とし、テレワークの活用によって労働者のワーク・ライフ・バランスを向上させている企業を表彰する「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」。これは、厚生労働省が2015年度に設立した表彰制度だ。

賞の種類としては「優秀賞」「特別奨励賞」「個人賞」があり、三菱商事太陽が2020年に「特別奨励賞」を受賞したのは、テレワークの導入にあたっての工夫が他の企業への模範になると認められてのこと。

三菱商事太陽は、社会福祉法人太陽の家と三菱商事の合弁にて1983年に設立されたIT企業。太陽の家を設立した故中村裕博士の「保護より機会を!」、「世に身心(しんしん)障害者はあっても仕事に障害はあり得ない」という理念に三菱商事が賛同し同法人への支援を決めたことが設立のきっかけとなった。設立当初は三菱商事のシステム開発がメインであった業務内容も会社の発展とともに拡大し、現在ではネットワーク構築・運用、各種アウトソース業務等多種多様な業務を行っている。

またユニバーサルデザインを積極的に取り入れ、身体に障がいのある人にとっても業務しやすい職場環境を整えてきた。

障がいのある人も働きやすいオフィス

そんな同社が在宅勤務制度を取り入れたのは、2014年のこと。対象となったのは、重度の身体障がいがある社員で、データ入力を主な業務内容としていた。在宅でも働ける環境を整えるため、遠隔での就労サポート体制の構築や、ウェブシステムによる勤務時間や実作業の管理など、ノウハウを蓄積した。

さらに、2018年からはプログラミング業務を担う在宅ワーカーの養成を開始。このプロジェクトを発足したきっかけについて、開発部副部長兼ワークサポート室長の井本さんは、次のように話す。

「当社では職員の高齢化による、SEの人材採用についての課題がありました。そんなときに、『intra-mart』(分散して構築されているシステムを統一し、効率化を図る技術)を使った大型案件の受注が見込まれたのです。近隣地域で経験者の募集を行いましたが応募がなく、その一番の理由は拠点を別府へ移すことにあると考え、在宅での採用に舵を切りました」

また、採用後に実際の仕事となるintra-mart技術を使ったWebアプリケーション構築は専門の訓練が必要だったため、三菱商事太陽は、インターネットを利用した技術習得プログラムを受講希望者に無償提供。実務研修の修了後、サポートチームが自宅訪問や通院同行を実施し、より働きやすい就労環境を整えた。

在宅勤務社員一人ひとりに合わせて整えた就労環境

障がい者雇用の課題

障がい者雇用にあたっては、採用や昇格、賃金等の不当な差別をなくすことや、職場環境や体調への配慮、業務内容のマッチングといった課題がある。

課題はそれだけにとどまらず、実際に三菱商事太陽が在宅勤務SE養成コースを開始すると、既存の採用要件に当てはまらない求職者の多様な特性や事情に直面することとなった。

同社では精神障がいのある人については2007年より就労支援体制を整備し雇用を進めてきたが、在宅勤務は取り入れていなかった。しかし、今回の求人を通して、彼らが通勤して働けない理由に、「対人関係のストレス」「聴覚過敏」「口頭によるコミュニケーションの取りづらさ」があること、地方には障がいをオープンにして働くことのできる会社が少ないことがわかったため、精神障がいのある人の応募も受け付けた。

精神障がいのある応募者には就労意欲が高く、スキルの高い人材がいたことから、在宅勤務形態での採用を積極的に行った。2018年8月から3期に分けて研修を実施し、28名が履修。現在は、身体障がいのある社員4名(内1名は重度)、精神障がいのある社員6名がこのコースにより就労している。

本社社員と在宅勤務社員は常にコミュニケーションを取りながら仕事を進めている
本社社員と在宅勤務社員は常にコミュニケーションを取りながら仕事を進めている

在宅ワーカーとして三菱商事太陽で働く人の声

開発部ITソリューション第二チームに所属する、発達障がいのある福岡県在住の41歳女性は、これまでに美容師やSEとしての経歴を持つ。

「美容師だった時は、マルチタスクが苦手なため、お客様と会話しながらの施術がうまくできずに苦労しました。SEの時は、通勤時の電車や街中の多くの人の気配から強迫観念を抱いてしまいました」

どちらの仕事でも、「人とのコミュニケーションが苦手」という点が共通していた。やむなくSEの仕事を辞めたがプログラミングの楽しさを忘れられず、インターネット上で「障がい者」「SE」「求人」などの単語で検索していたところ、在宅SE養成コースを紹介するサイトを見つけ、三菱商事太陽の在宅SE養成コースの受講を決めた。

無事に採用された女性は同社での仕事について、「質問のやり取りもリモートで行っています。文字でのコミュニケーションに最初は苦労したものの、それ以上に仕事ができるという喜びは大きく、通勤のストレスもないので、楽しく働けています」と話す。就業時間は9時から15時。週4日の時短勤務だ。

「過集中の癖があり、就業後はとても疲れているため、時短勤務の今は就業後の休憩時間が多く持てるのがありがたいです。人との会話で緊張しやすく、TV会議が苦手なのですが、取引先との会議で私が緊張しないよう、上長が間に入って会話を繋いでくださるなど、いろいろ配慮していただき助かっています」

三菱商事太陽が目指す働き方、共生社会

三菱商事太陽の在宅SE養成コースは、働きたいけれど就労の機会のなかった人がスキルを身につけられる画期的なプロジェクトだ。

前出の開発部副部長兼ワークサポート室長の井本さんは、「オフィス勤務・在宅勤務いずれもフィットしない障がいのある人もいるため、サテライトオフィスでの勤務や、週7日のうち勤務する曜日を選べる働き方など、さまざまな働き方の可能性を探っていきたい」と、働き方はひとつではないと言及した。

また今後は、在宅SE養成コースの仕組みをSE以外の職域にも広げていく予定だという。

コロナ禍により一般的にもテレワークが浸透したが、同社のノウハウは障がいのあるなしに関わらず、これからのワークスタイルに生かされるのではないだろうか。人材不足の企業の課題も、障がいのある求職者の課題も、「働き方」を見直すことで解決することは多いのかもしれない。「働き方」を通して、三菱商事太陽は、真の共生社会を目指していく。

三菱商事太陽 開発部副部長兼ワークサポート室長

井本忠

2007年三菱商事太陽入社。入社以来開発部にて複数の大型案件に携わり、多くのプロジェクトを成功に導いてきた。また、障がいのある部下の指導経験を活かし2018年より就労支援担当部署「ワークサポート室」の室長に就任。開発の知識を活かし輝くテレワーク賞受賞のきっかけとなった「在宅SE養成コース」を立案・実施。IT分野における障がいのある人の就労機会拡大のため日々奮闘している。

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