周知のように、日本の人口は減少の一途をたどっている。それにともない、地方では過疎化や限界集落が進み、空き家・空き地の問題が深刻化しているが、最近では東京都内の空き家率も10%に達しているともいわれ、都会でも問題となりつつある。そのようななか、北海道では中国資本や中国人が土地や建物を買収する動きが顕著になっている。中国資本は何のための北海道の土地を買収するのか。買収が進むとどのようなリスクがあるのか考えてみたい。
格安で買収される北海道のリゾート施設
北海道といえば広大なジャガイモ畑や牧場などを思い浮かべるが、近年、中国系企業はそういった広大な畑や貴重な水源、スキー場やゴルフ場などのリゾート施設を次々に買収し、そこへ新たに宿泊施設や娯楽施設を建設するなどリゾート開発を進めている。
過去には、中国・上海を拠点とする投資会社「復星集団(フォースングループ)」が「星野リゾートトマム」や「クラブメッド」を買収したり、今の鈴木直道北海道知事が夕張市長だった2017年に、夕張にある「ホテルマウントレースイ」など4つのリゾート施設が、中国系企業「元大リアルエステート」の子会社にたった2億2000万円で売却されたこともある。
現在はコロナ禍だが、近年、ニセコなど有名なリゾートエリアでは、中国系不動産開発会社やホテル会社の活動が活発化し、中国人観光客の数が激増している。多くの観光客はスキーやゴルフ、温泉などを楽しんでいるが、なかには地元の不動産会社を訪れ、建物や土地の購入を検討する人もいるという。こういった状況に対して、地元住民からは、いつかチャイナタウンになってしまうのではないか――と懸念する声も聞かれる。
以前、筆者は北海道東部の網走周辺を訪れたことがあるが、その際、バス停周辺に公共施設など目立った建物がないため、付近に住む住民の名字がバス停の名前になっていたのをよく覚えている。また、住民が少ないため、バスに乗っている最中に“土地無料”を強調する看板をよく目にした。要は、それほど人口の割に広大な敷地があるということだ。
現地の実状を考慮すると、中国を中心とする外国資本が買収し、それが地域経済の活性化につながるのであれば、それを歓迎する動きは地元の不動産会社を中心に決して少なくないだろう。地元経済の活性化のためにと、中国人富裕層向けのサービスを強化している不動産会社もあると聞く。
空港・自衛隊基地周辺では安保上の懸念
だが、北海道にある自衛隊基地や空の玄関口となる新千歳空港の周辺でも同じような動きがみられ、安全保障上の懸念が広がっている。例えば、最北端稚内市の野寒布(のしゃっぷ)岬には海上自衛隊の基地があるが、数年前に中国人が社長を務める会社が同基地から1キロしか離れていない場所に広大な土地を購入したとされる。
日本最北限の国境の都市である稚内の同基地には、ロシアや中国の動きをとらえる上でも国防的に重要なレーダーサイトがあるが、中国資本の物理的な接近は何を意味するのだろうか。安全保障専門家の間では懸念の声が広がっている。
北海道ルートは北極進行への足がかりか
一方、中国では3月5日から11日の日程で全人代(全国人民代表大会 )が開催された。そこで決定された第14次5カ年計画(2021~25年)の中で、習政権は北極へのアプローチをこれまでなく強化する方針 を明らかにした。
同5カ年計画では、北極の実務協力への参加が明記され、氷上のシルクロードの建設強化が謳われた。中国は2018年に初めて北極白書を公表し、自らを北極近隣国と位置付けている。北極海の海底には世界で未発見の石油の13%、天然ガスの30%が埋蔵されているといわれ、北極航路は、欧州とアジアの結ぶスエズ運河経由の航路と比べると大幅なショートカットとなる。
そして、中国が北極へ接近するとなれば、それは必然的に北海道周辺がルートとなるのだ。中国の北極シーレーンは、東シナ海から対馬海峡、日本海、津軽海峡(もしくは宗谷海峡)などを通ってベーリング海へとつながる。日本海から津軽海峡を抜け北海道東部と通る東ルート、日本海から奥尻島や礼文島、利尻島などの西側を抜け宗谷海峡を通過する西ルート、どちらが氷上のシルクロードの拠点となるかはわからないが、今後強化される習政権の北極開拓を意識するに当たっては、北海道の安全保障について官民の枠を超え注視していく必要があろう。
アジアやアフリカなどの途上国では、債務が返せず中国の侵食(中国系企業に地元経済が支配されるなど)とも揶揄される動きが現実のものとなっている。いま北海道では起こっていることの長期化は、地元経済の活性化とは裏腹に、安全保障上大きな問題になる可能性がある。