グローバル・ブリテンを目指すイギリス、太平洋経済への関与強化

2021.7.5

社会

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グローバル・ブリテンを目指すイギリス、太平洋経済への関与強化

最近の世界情勢を見ていると、イギリスの対外的な方針や戦略に大きな変化が見える。周知のとおり、イギリスはEUから離脱し、国際社会にどう関与していくかを模索している段階にあり、現在はグレートブリテン(Great Britain、正式な国名)からグローバル・ブリテン(Global Britain)に変化しようとしている。グローバル=地球規模を目指し、新たな方針を示すイギリスの動向に注目したい。

インド太平洋に重きを置くグローバル・ブリテン構想

イギリスは3月16日、EUから離脱後の国家ビジョンを記した戦略報告書「Integrated Review」を発表し、その中でグローバル・ブリテンについて言及した。グローバル・ブリテンとは、簡単に訳せば“地球規模の中でのイギリス”となるが、イギリスが新たにインド太平洋地域に戦略的重心を移し、同盟国や友好国と政治経済的な結びを強化し、インド太平洋地域から形成される新たな秩序作りに関与することを意味する。このイギリスが目指すグローバル・ブリテン構想は、最近の動きからも見てとれる。

例えば、5月22日に南部ポーツマスから出発した最新鋭の空母クイーン・エリザベスを軸とする空母打撃群が、今後、地中海を抜けてインド太平洋地域に展開する予定で、日本や韓国、インドやシンガポールにも寄港する予定となっている。イギリスはディエゴガルシア島などインド洋に海外領土を有しているが、日本やアメリカなどと同じく中国の海洋覇権に強い懸念を示しており、今後は安全保障的にも日本やインド、オーストラリアなどとの軍事的な協力を強化する可能性が高い。

また、経済的にもイギリスはインド太平洋に積極的に関与している。日本やカナダ、オーストラリアなど環太平洋連携協定(TPP)に参加する11か国は6月2日、TPPへの参加を目指すイギリスについて本格的に協議を開始することを全会一致で決定した。イギリスのトラス国際貿易相は、2021年1月に、TPPに正式に加入する方針を明らかにしている。また、イギリスはすでに日本とオーストラリアとの間で経済連携協定(EPA)を締結しており、今後、太平洋経済の中でイギリスがどのように活躍するかが注目される。

政治的にも、イギリスのインド太平洋重視の姿勢は明らかだ。イギリスは6月に開催した先進国首脳会議(サミット)に韓国・オーストラリア・インド・南アフリカを招待し、計11ヶ国で会談を行った。サミットの前哨会議となる外相会合(5月3日~5日)にも韓国・オーストラリア・インドの外相が参加し、インド太平洋の重要性が指摘された。

さらに、イギリスのラーブ外相は2020年2月上旬、EUから離脱後初の外遊先として日本とオーストラリア、シンガポールとインドを選び、日本の茂木敏充外相との会談でもインド太平洋地域を重視する姿勢を強調した。

以上のように、軍事・安全保障、経済、外交の面からみても、太平洋からは彼方遠くに離れているイギリスがインド太平洋を重視し、グローバル・ブリテンを目指していることは明らかだろう。

中国との対立は避けられない

しかし、このグローバル・ブリテンは中国の政策や方針と対立することになる。イギリスは、香港国家安全維持法やウイグル人権問題などにおいて、民主主義や自由、人権といった概念を重視する姿勢を鮮明に示し、中国に制裁を発動するなど正々堂々の姿勢を見せているのだ。

また、5月に英内務省が明らかにした情報によると、イギリスが2021年1月末から受付を開始した香港からの移住者のための特別ビザ(査証)の申請者数が4月末までで3万4,300人に上った。若い世代を中心に数が増えているという。

2020年7月に香港で国家安全維持法が施行され、これまでの一国二制度から、事実上、一国一制度になったと指摘されるなか、イギリスには1997年の香港返還の際に中国と交わした約束(2047年までは香港の高度な自治を維持するとした一国二制度)が破られたとする不快感があり、今後両国の関係がいっそう冷えこむ可能性が高く、経済の領域で摩擦が激しくなる恐れがある。イギリスは3月にアメリカやカナダとともに、新疆ウイグルでの人権抑圧を理由に中国当局関係者へ制裁を発動している。

イギリスは人口的にも経済規模的にも、他の欧州諸国を圧倒しているわけではなく、アメリカや中国と比べると規模はフランスやドイツと似たようなものだ。そのフランスやドイツもインド太平洋を重視する戦略を示してはいるが、このようにイギリスほど特徴的な姿勢を示してはいない。やはり、その背景には、EUからの離脱や伝統的な米英同盟、ファイブ・アイズ(イギリスとアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドという英語圏5ヶ国の機密情報ネットワーク)などイギリス特有の有利な環境が影響しているのかもしれない。

まるで、第2のアメリカを見ているようだが、グローバル・ブリテンを目指すにあったては、イギリスと中国との経済関係もポイントになりそうだ。いずれにせよ、日本としてはインド太平洋地域の平和と繁栄に貢献すべく、グローバル・ブリテンとの協力を拡大させていくべきだろう。