ミリオンセラーにAKB48……あれだけのヒットを飛ばしておきながら、お互いに惹かれ合う理由を”自己嫌悪があるから”と答えた見城氏と秋元氏。やはり常人には理解できない世界なのか? 前号(第5号)に引き続き、ヒットメーカー2人が大衆に向かう姿勢を打ち明けます。
【前編】ヒットメーカーの憂鬱 幻冬舎・見城徹×作詞家・秋元康×尊徳編集長
矛盾する両極端の気持ち
尊徳 世間では、お二人は企画力で社会に影響を与えられると評価されています。それで社会にメッセージを出して、変えていこうとは思わないのですか?
秋元 まず、自分の力を過信していません。今まで評価を受けてきたことの暫定的な結論としては、秋元は”意外と”できるね、でいいのです。世間での秋元康評は出来上がってしまっているので、いまさら優等生なことを言っても受け入れられないと思っていますから。
見城さんのような人がいて、「秋元って意外といいやつだよ」と思ってもらえれば。だから、世の中を変えようとか変えられるとか思っていません。しかし、たかだかアイドルのAKB48が何か影響を与えられるようなことがあればうれしいとは思います。
見城 ドイツの哲学者・ヘーゲルが使った弁証法の概念で「アウフヘーベン」という言葉があります。これは、矛盾、対立する事象を統合して乗り越える、ということで、「止揚(しよう)する」と訳すのだけど、うまく当てはまる日本語はありません。秋元はアウフヘーベンそのものです。つまり、繊細でしたたか、弱気で強気、アバウトで緻密。
大きな難関は、両極にあるものの間を揺れ動かない限り乗り越えることができません。揺れていれば見えない内面のなかで風が起きたり、熱が発生したりします。人はそこに惹きつけられるし、それがその人のセクシーさや魅力になっていく。常に矛盾する両極を抱えながら葛藤しているから、物事は螺旋状に進行していくのです。
秋元がそこに使う個体のエネルギーは、切ないというか、相当過酷だろうと思います。それをずっと続けていくことを受け止めるというある種の達観を獲得している。僕も常にアウフヘーベンしようとしているのだけれど、成熟がないというか、秋元のようにいい意味で諦められない。だから、いつも憂鬱です。
秋元 例えばね、僕と見城さんが料理人を務める2つのレストランがあるとするじゃないですか。見城さんの店は、厨房から出てくる見城さんとの会話の楽しみも全部含めての料理だと思うのです。僕の店は、厨房が閉じていて、料理に驚きがなければお客さんは来てくれなくなると思っているんです。見城さんのように人間力がないですから。
そういえば、見城さんの人間力ということで面白い話があります。ある晩に僕が誰かと会食したとしましょうか。すると、見城さんは誰と食べたのかをすごく知りたがる。それを聞きたいけど、聞かないのが大人でしょ(2人大笑い)。見城さんも知ってる人と食事したりしたら、その人に「秋元、俺のこと何て言ってた?」と本音を聞きだすのです。みんな誰だって知りたいけど、格好つけてそんなことは聞かないじゃないですか(笑)。でも逆に自分をさらけ出して聞くので、見城さんにはみんな胸襟を開くし、そんなところに惹きつける魅力があるのです。
見城 それはパラドックスでよく言ってくれてるけど、単なるガキでしょ(苦笑)。
秋元 ガキだとしたら、63歳にもなってそういうふうにいられる人は魅力的じゃないですか。
尊徳 僕もそう思います。正直でいいなって。お二人とも言葉の世界で生きているから、言葉の使い方が非常にわかりやすいですね。
人を喜ばせる言葉
見城 秋元は言葉の使い方が見事だと思います。そして、物事の本質を言葉で見抜く天才です。先ほど、秋元と公式のある会議に出ていたのですが、みんな秋元の後に発言するのを嫌がります。的確なことを言って、場を持っていってしまうから。
僕は編集者だから、言葉で人を喜ばせてなんぼの世界で生きてきたし、いつも、「見城と一緒に仕事して良かった」と思わせようと常に考えて来たから、今でもそのクセが抜けなくて、一緒に過ごす時間を「ああ、面白かった。発見があった。刺激になった」と思って帰ってもらわないと気が済まない自分がいつもいるんですよ。
ただ、盛り上げるためとはいえ、本当はしてはいけないことが5つあると思っています。1つ目は「嘘を言ってはいけない」。2つ目は「誇張してはいけない」。3つ目は「人の悪口を言わない」。4つ目は「人の秘密をばらさない」。5つ目は「自慢をしない」です。……と思ってるんだけど、最初の2つしか守れないんだよね(笑)。人の悪口は自分をアピールしやすいし、面白い。それに、秘密をバラせば新しい発見につながるでしょ?
尊徳 見城さんの場合は、「陰口」じゃないから人の悪口も気持ちいいですよ。
秋元 そう。人の悪口を言いながら、その人の前に行くとおべっかを使ったりする人がいますけど、見城さんは本当に嫌いなままですからね(笑)。
見城 その5つを守って、人を楽しませて帰せる人がいたら会ってみたい(笑)。
秋元 見城さんはいつも、誰とでも真剣勝負。でも僕は仕事柄もありますし、自分が避けてた部分もあるのですが、仕事の相手は”大衆”なので、一人ひとりを見ません。もともと人見知りだから、企画書や詞だけをやり取りしている方が楽。だから、見城さんのような人がより魅力的に映るのです。
誰でも共感できるから売れる
見城 秋元とは30年くらいの長い付き合いだけど、一度だけケンカのようなことになったことがあります。今のように深い付き合いになれば理解できるのだけど。こちらはいつもガチンコだから、秋元に向かって「ここをこう直してほしい」と詰め寄るんだけど、秋元も引かないわけ。そりゃそうだよね。秋元は僕の後ろにいる大衆を見てるので、かみ合わない。「ガチンコを受けないやつだなあ」って思ってた。
秋元 見城さんは愛情を持った編集者として言ってくれたのですけど、僕は自分がそう思うかどうかは別にして、大衆にはその方が受けるんだ、と考えてしまいました。若かったですね。
見城 秋元が作る詞は、誰の胸にも突き刺さる匿名性を持っています。どういうことかというと、少年少女の誰もがある時期持つセンシティブな気持ちを、AKB48という器の中で代弁しているということ。AKB48は固有名詞ではなく、センシティブな気持ちの集合体としての匿名性を獲得しているから流通するのです。秋元は本能的にいつも匿名性を考えているし、匿名性をわかっています。
編集者はみんなそうだけど、僕は個体としての秋元を見てから大衆に意識が向かうから、最初から大衆を見ている秋元とは、大衆へのアプローチの方法論がまったく違います。だから、こんなに近くなれるとは思ってもいなかったよ。
死ぬときに後悔したくないからいつも全力で
尊徳 この5年くらいで急速に近くなったとおっしゃっていましたけど、何かきっかけがあったのですか?
見城 2人とも最高ランクで大事にしたい人が一緒だったからかな。あとは2人とも泣き虫で、この場面で秋元が泣いている、というのがとてもうれしい(笑)。良く言えば、2人とも大ロマンチスト。
そして僕は、一応人生の節目を70歳と決めてます。ダラダラしてしまうのは嫌なので、そうしないと逆算して事に当たれないから。あと7年だから、夕飯の回数は7×365回。そう考えたら一瞬たりとも嫌な奴とは一緒に過ごしたくない。異物は飲み込まないとイノベートできないから、それはいいんだけどね。異物と嫌なやつは違うから。根本的なところで価値観が重なる秋元といる時間は大事なんです。
人間、死ぬときは他人がなんと言おうと、自分で〇か✖の判定をして死にたい。僕は自分に〇をあげて微笑して死にたいと思っています。だから〇をあげるために、今何をすべきかを考えています。簡単なことを選べば楽だけど、それだと死ぬときに後悔しそうだから、常に憂鬱な方、困難なことを選んでやってますよ。僕は秋元と違って成熟がないので、常に何かジタバタしてないとダメなのです。
尊徳 成熟されてる秋元さんは、この先どういうことをしたいですか?
秋元 成熟してませんよ(笑)。僕はいい人になりたいです。若いときに売れて、生意気だったから、”いい人ではない”というイメージを持たれてしまったようで。だから、僕なんかでお手伝いできることであれば、何でも引き受けようと思っています。いい人に思われたいから。僕も死ぬときに「あいつ、いいやつだったよな」と思ってくれる人が多くいてほしいのです。
尊徳 それは五輪組織委員会の理事などですね。秋元さんも十分に正直ですよ。
見城 そう。秋元は正直だし、謙虚だよ。舞い上がらない。地に足が着いてる。今、うまくいっている自分は一夜の夢だという認識がある。
秋元 僕はアーティストじゃないから、後悔はしないけど、反省はするんです。アーティストだったら、「俺のことがわからない世間がいけないんだ」みたいな我を通すんでしょうけど。
尊徳 こんな成功者でも悩みもがいている、ということは勇気が出る話です。AKB48は匿名性があるから大衆に受けるという見城さんの分析は見事だし、腑に落ちました。ぜひまた、このお二人の対談をお届けしたいと思います。