メタバースはオンラインショッピングを変え得るか?

2022.1.14

社会

0コメント
メタバースはオンラインショッピングを変え得るか?

凸版印刷が開発したバーチャルショッピングモール「メタパ」 写真:凸版印刷

WBB3.0とともに2021年を代表するバズワードとなったメタバースは、ネット上の仮想空間を意味する。仮想空間と聞くとオンラインゲームをイメージしてしまうが、近年、ショッピングに特化したメタバースが注目されている。アバターの服やアイテムを購入するだけでなく、自分が実際に使う服や自動車までメタバースで購入できるようだ。近い将来、イオンモールに代わって“メタバースモール”が一般的となるかもしれない。

メタバースは3種類

「Metaverse(メタバース)」は「meta(何もない)」と「巨大空間(universe)」を組み合わせた造語で、一般的にはネット上の仮想空間を意味する。もともとはSF作家ニール・スティーヴンスンが30年前に発表した小説『スノウ・クラッシュ』(1992年)に登場する架空の仮想空間サービスの名前だが、近年、多くのサービスが提供されるようになり2021年最大のバズワードとなった。

現在、メタバース関連のサービスは主に「ゲーム」「仕事」「ショッピング」の3つに分けられる。ゲーム分野でいえば任天堂の「あつまれ どうぶつの森」やマイクロソフトの「Minecraft」、そのほか各種オンラインゲームが当てはまる。こうしたサービスではゲーム上で共同生活や対戦ができる。仕事分野ではMeta(旧Facebook)の「Horizon Workrooms」(β版)があり、メタバースで会議やプレゼンができるとしてコロナ禍で注目された。

そして3つ目がショッピング特化型のサービスだ。ゲームのようにメタバースの中でしか使えないアイテムを購入するだけでなく、メタバースで商品を確認、注文することができ後日、自宅に商品が届くサービスもある。ショッピング用のメタバースが普及すれば、出るのが億劫な寒い日でもショッピングする気になるだろう。近年注目されているショッピング特化型のメタバースを見ていこう。

日本発のサービス「バーチャルマーケット」

「バーチャルマーケット2021」より 写真:HIKKY

バーチャルマーケット(Vket)は日本で生まれたショッピング特化型のメタバースだ。お祭りのように一定期間のみ開催され、最新のVket2021は2021年12月に約80社が出展して開催、1stは2018年にはすでに開催されている。マーケットは夏祭りや中東のオアシス、中国の歓楽街、ファンタジーなど多彩な世界観の中で展開される。VRヘッドセットもしくはPC、スマホを持っていればアプリ、ブラウザを介してどこからでも参加でき、VRヘッドセットを使えば実際に街を歩くような体験ができる。

大手企業も多数出展。Vket6に出展したヤマハ発動機はVRシェアライドサービスとしてワールド内で運転できる2種類のバイクを提供。乗ったときの感覚まで完全再現できるわけではないが、バイクは実際に販売されているものもあり大いにブランドの宣伝になるだろう。国内エアガントップの「東京マルイ」からは銃モデルの展示場やVRでサバイバルゲームできるブースを出展。JRからは秋葉原駅を再現した空間が出展されSNSで話題となった。

~2021では秋葉原駅もパワーアップ。Suicaで改札も通過できる 写真:HIKKY

一方で一般サークルも出展しており、サークルはアバターの服やアイテムの販売を主目的としているようだ。

VRアプリのVRChatやゲーム配信プラットフォームのSteamへの登録が必要など少しハードルはあるが、何度でも訪れたなるような面白いワールドが多数あり、メタバースのメリットを大いに生かしたサービスだといえる。これまでのVketでは、企業は収益をあげるというよりも宣伝、話題作りを目的として出展したようだが、100万人以上が訪れるイベントへと育った今後は本格的に販売活動を始めることになるだろう。

まさかの凸版印刷が提供する「Metapa」

凸版印刷が提供する「Metapa(メタパ)」のイメージ 写真:凸版印刷

印刷だけでなく半導体やデジタルサイネージ、製造に関するDXプラットフォームなどデジタル領域にも強い凸版印刷は、メタバースの将来を見据え新たなサービスを提供するようだ。2021年12月15日よりサービスを開始した「Metapa(メタパ)」は仮想空間上で実際のモノをショッピングができるスマホアプリ。

3人称視点で自分のキャラクターを操作でき、実店舗で買い物するように“バーチャル店舗”内を移動して商品を確認する。通常の買い物アプリでは写真を見て商品を判断するしかないが、メタパでは各商品が3DCGとして再現されているため、手に取るようにさまざまな角度から商品を確認できる。

「ポケモン GO」で話題となったAR機能(=カメラ映像越しにCGを映し出す技術)にも対応しているため、商品を自分の部屋に置いたときの感じをつかむことも可能だ。買ってみたけど思ったより大きくて困った、ということが防げるだろう。

ちなみに友人と一緒に店舗を回ることもでき、チャットや音声通話にも対応している。出店する側は一店舗当たり最低300万円からサービスを利用できる。消費者の行動はすべてデータ化されているため店舗へのアクセス数や商品閲覧数を正確に把握でき、商品開発や設置位置の最適化にも活かせるだろう。

24時間営業のメタパは閉店時間を気にする必要はなく、何よりスマホひとつで済むため非常に利便性が高い。提供開始から1カ月程度でまだ未知数だが、少なくとも資金力に余裕のある上場企業は出店するのではないだろうか。今後の普及に期待したい。

現実とリンクした「Obsess」

Obsess(オブセス)は米ニューヨークに本社を置くメタバースのプラットフォーム企業だ。2017年に設立されたベンチャー企業で、出店者向けに“バーチャル店舗”を提供している。実店舗のデータを取り込んだ店舗のほか、完全バーチャルで再現した店舗などがある。ラルフローレンやフェンディ、Leeなどアパレル大手各社がObsessを利用しており、利用客はPCやスマホを使って公式ホームページから訪れることができる。

実際にLeeのバーチャル店舗を訪れてみた。自由に歩き回れる訳ではないが店舗内の各地点をクリックし、カーソルを移動させて360度辺りを見渡すことができる。もちろん商品をクリックすればオンラインでの購入が可能だ。通常のオンラインショップでは自分の探している服の種類を決めてから検索するが、バーチャル店舗では実店舗のように商品が並べられているため衝動買いをしてしまいそうだ。なお、Obsessの公式HPを見るとVRに対応した店舗も設計できるとしている。

やや簡易な作りのためVketのような臨場感を感じることはできないが、消費者にとって容易に利用できるのがメリットだ。敷居の低さが理由でアパレル各社も採用していると考えられる。だが各社の公式HPからしか訪れることができないため、そのブランドのファン以外にリーチするのは難しいかもしれない。

Obsessのプラットフォームを利用したLee(リー)のショップ 写真:Lee

“メタバース版アウトレット”が普及のカギ

ショッピングの目的は「買い物」だけではない。普段歩かない場所を歩き、非日常を感じる楽しさもショッピングの目的といえよう。こうして考えてみるとメタパ、Obsessのメタバースはブランドごとに店舗が分かれており、買い物しかできないため固定のファンしか集まらなさそうだ。

一方でバーチャルマーケット(Vket)は街全体を歩くことができ、買い物以外の楽しさも感じられる。メタバースに人を集めるにはさまざまなブランドの店舗があり、その上で風景を楽しめる“街歩き要素”が必要になるだろう。街やショッピングモール全体を再現した仮想空間が現れれば、メタバースでのショッピングも一般的となるかもしれない。