ウクライナ侵攻で急浮上 核共有論って何?日本に必要?
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ウクライナ侵攻で急浮上 核共有論って何?日本に必要?

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ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、アメリカの核兵器を日本が“共有”する「核共有論」が浮上している。ニュークリアシェアリングとも呼ばれ、日本では安倍晋三元首相が提唱し、自民党の高市早苗政調会長ら保守系議員が賛同。被爆地出身の岸田文雄首相は否定的だが、今後党内で議論が進む可能性がある。日本周辺でもミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮などの具体的な脅威があるなか、国家の防衛に向けて幅広い議論をすることは必要。ただ、国際情勢に乗じて拙速な議論をすることは危険性をはらむ。

ウクライナがNATOに加盟していたらロシアの侵攻はなかった?

「わが国はアメリカの核の傘のもとにあるが、いざというときの手順は議論されていない。非核三原則を基本的な方針とした歴史の重さを十分かみしめながら、国民や日本の独立をどう守り抜いていくのか、現実を直視しながら議論していかなければならない」。安倍元首相は3月3日、自ら率いる派閥の会合でこう説いた。

背景にあるのはロシアによるウクライナ侵攻だ。ウクライナが加盟を目指しているNATO(北大西洋条約機構)ではアメリカの核兵器の共有政策を採用。核保有国ではないドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコの5カ国が領土内にアメリカの核爆弾を配備し、有事になれば戦闘機などに搭載して使用することを想定している。参加する5カ国は核兵器を使用するかどうかの協議に加わることもできる。米ソ冷戦時に米側が核保有国を増やさずにソ連に対抗するために作った仕組みだ。

安倍氏は「ウクライナがNATOに入ることができていれば、ロシアによる侵攻はなかっただろう」と指摘。日本でも領土問題を抱える中国や、日本周辺海域でのミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮などが核兵器を保有していることを念頭に「世界はどのように安全が守られているかという現実について議論していくことをタブー視してはいけない」と語る。

確かに日本は国際的な脅威に対して楽観的すぎるとの指摘は多い。安倍元首相とは政治的立場の異なる自民党の石破茂元幹事長も「『アメリカの核の傘があるから大丈夫』というが、その傘はどれくらい大きな傘なのだろうか。いつ差してくれて、いつ差してくれないのだろうか」と指摘。「『いざとなったら核の傘があるから大丈夫』というのは思考停止ではないか」として、核共有議論の必要性を訴える。

非核三原則の見直しに国民は反対多数

加盟国が攻撃を受けた場合に他の加盟国に防衛義務が生じるNATOと異なり、日米安全保障条約は「片務的」との批判がある。トランプ前米大統領は在任時に「日本が攻撃されれば、アメリカは第三次世界大戦に参戦し、米国民の命を懸けて日本を守る。だが、アメリカが攻撃されても、日本にはわれわれを助ける必要がない。ソニー製のテレビで見るだけだ」と批判。安保条約の見直しを示唆したことがある。トランプ前大統領のように考える米国民は少なくないとみられ、日本が有事に巻き込まれたときにどこまで犠牲を払って日本を守ろうとするのか、日本側にも疑念がつきまとう。

ただ、日本の場合は今すぐNATOと同じような政策を採用するのは困難だ。アメリカの核兵器を国内に配備するのは「持たず、つくらず、持ち込みませず」という三原則の「持ち込ませず」に反するからだ。被爆地の広島出身である岸田文雄首相は国会答弁で「平素から日本にアメリカの核兵器を置き、有事に日本の戦闘機などに搭載、運用する枠組みであるとすれば」と前置きした上で、核共有は持ち込ませずに反するとして「政府としては議論することは考えていない」と明言した。

高市政調会長は有事に限定した上で非核三原則の「持ち込ませず」について議論したい考えを示しているが、唯一の戦争被爆国であり、長い年月をかけて確立した非核三原則を変更するのは容易ではない。日本維新の会の松井一郎代表は「三原則は昭和の価値観」というが、朝日新聞社が3月19、20日に実施した世論調査では「持ち込ませず」の見直しについて「賛成」の35%を、「反対」の54%が上回った。ロシアによるウクライナ侵攻の惨劇を目の当たりにしている現状ですらこの数字なのだから、平時になればなおさら理解を得にくくなる。

配備はせず、使用判断の意思決定を共有?

非核三原則に抵触せずに核共有を実現できるとの主張もある。自民党の茂木敏充幹事長は核共有について「核兵器そのものを物理的に共有する概念ではない。核抑止力や意思決定、政治的責任を共有する仕組みだ」と強調。日本領土内に核兵器を配備せず、使用判断の意思決定に関与する方法を指摘する。使用判断の意思決定を“共有”するだけでもアメリカが政治的な責任を一国で負わなくていいため、抑止力が高まるという指摘もある。

自民党は3月16日に開いた安全保障調査会の勉強会でNATOの核共有について有識者から解説と意見を聴取。有識者からは「核共有は日本になじまず、非核三原則の見直しも『実益がない』との見解が出た」といい、調査会の宮沢博行幹事長代理は「タブー視せずに素直に学んだが『違うよね』というのが今の結論」と語った。

現状、自民党内で核共有が大勢にはなっていないということだが、この日の会合は正式な会議ではなく“勉強会”であり、賛成派もほとんど参加していなかったとみられる。今後、最大派閥を率いる安倍元首相や政策議論を主導する高市政調会長らが“攻勢”をかければ議論が加速する可能性があるが、ウクライナ情勢に惑わされず、日本の国土と国民の防衛に関する情勢を冷静に分析し、冷静に議論する必要がある。