報復か、弱体化か 指導者を殺害された国際テロ組織アルカイダの今後の動向

2022.8.31

社会

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報復か、弱体化か 指導者を殺害された国際テロ組織アルカイダの今後の動向

アフガニスタンのカブールで、車を運転するタリバンの戦闘員。 写真:ロイター/アフロ

バイデン米大統領は8月1日、国際テロ組織アルカイダの現指導者アイマン・ザワヒリ容疑者を、アフガニスタンの首都カブール周辺で7月31日にドローンによって殺害したと発表。アルカイダは2001年9月の米同時多発テロ事件を首謀したことで知られている。当時の指導者であるウサマ・ビンラディンに続き、再びアメリカに指導者を殺害された形となったアルカイダ。国家対テロの戦いの行方はどこへ向かうのだろうか。

殺害されたアルカイダ指導者の影響力の実態

米軍は2022年初めからカブールの高級住宅街の民家にアイマン・ザワヒリ容疑者が家族とともにいることを確認し、居場所を特定していた。米軍はドローンによる攻撃計画を7月になってバイデン大統領に報告。

同大統領は7月25日に作戦決行を承認。ザワヒリ容疑者が殺害されたことを受け、米国務省は8月2日、中東やアフリカなどで活動するアルカイダ地域支部やその支持者らが、米権益を狙った報復テロを行うリスクが高まっているとして注意喚起した。

具体的には各国にある大使館など米関連施設への攻撃が想定されるとしている。では、今後のアルカイダはどうなるのか。これについて学術的なテロ研究の視点から予測してみたい。

まず、指摘しておきたいのは、既にアルカイダは弱体化しており、指導者ザワヒリを失ったとしても報復活動を活発化させる可能性は極めて低いということだ。

ザワヒリ容疑者は2011年5月に初代指導者ウサマ・ビンラディンがパキスタン・アボダバードで殺害されて以降、指導者の立場にあったがビンラディンほどカリスマ性があったわけではなかった。また高齢ということもあり、以前から影響力は強くはなく、後継者問題や幾度か死亡説も浮上していた。さらに指揮命令的役割を果たしてきたわけではなく、やってきたのは動画やメッセージを支持組織、支持者向けに配信するくらいで、象徴的存在に留まっていたといえる。

長年、アフガニスタンの山岳部に身を潜め、いつ通信傍受されて米軍に見つかるか、長い間“かくれんぼ”をしていたと表現できよう。

各地に散らばる武装勢力の動向

一方、今なお、アルカイダを支持する武装勢力は、アフガニスタンの「インド亜大陸のアルカイダ(AQIS)」、イエメンの「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」、北アフリカ・アルジェリアなどの「マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」、ソマリアの「アル・シャバーブ(Al-Shabaab)」、マリを中心にサハラ地域の「イスラムとムスリムの支援団(JNIM)」、シリアの「フッラース・アル・ディーン(HAD)」などが依然として活動している。

しかし、こういった組織の活動は地域レベルにほぼ限定され、9.11同時多発テロのような国際レベルでのテロ活動に主眼を置いていない。彼らはアルカイダが掲げる反欧米感情は組織として共有していても、実態は地元の武装勢力(一部外国人戦闘員も加わっている)でしかない。彼らがザワヒリ殺害への報復として各地で反米的活動をヒートアップさせる可能性は低い。

さらに、こういった組織はインターネット上ではアルカイダ本体と意思疎通、刺激を受けることはあっても実際の活動は独自の方針で行っており、結論としてザワヒリ容疑者の殺害による影響はほぼないといえよう。

今、そこにある危機は国家間問題!? テロ予測は中長期ビジョンへ

国連安保理の対テロモニタリングチームは5月、今後の国際テロ情勢に関する最新のレポートを発表した。それによると、アフガニスタンではアルカイダが引き続き活動しており、少なくとも今年末までは国際的なテロ攻撃を実行できる能力はないものの、国際社会は今後の動向を注視するべきだという。

同レポートによると、インド亜大陸のアルカイダ(AQIS)のメンバーは180人から400人程度いるとされ、アルカイダとタリバンは依然として緊密な関係にあるという。また、他のインテリジェンスとして、アルカイダ関連組織のメンバーは世界に3万から4万人、アフガニスタンにはアルカイダのメンバーが400~600人、インド亜大陸のアルカイダ(AQIS)が150~200人、アルカイダとも協調関係にあるウイグル系過激派が500人程度存在するとの報告もある。

また、近年、中東やアジアでアルカイダなどイスラム過激派の脅威が薄まる一方、アフリカ・サハラ地域ではアルカイダ系やイスラム国系によるテロが年々激しくなっており、治安が悪化傾向にある。

シリアの難民キャンプでは、今なおイスラム国戦闘員の子供たちは過酷な環境での生活を余儀なくされており、将来的にこういった子供たちが過激化するリスクがある。次世代のアルカイダを警戒する専門家も多い。アルカイダの脅威は短期的でなく、中長期的ビジョンで捉える必要がある。

今日、国際政治は米中による戦略的競争、ロシアによるウクライナ侵攻など国家間問題でほぼ占められており、テロ問題への関心は明らかに薄まっている。

アメリカは自国の安全保障を考慮し、ザワヒリ殺害のようにドローンによるピンポイント攻撃を今後も続けるだろうが、中国、ロシアへの対処に時間を割かれてテロの問題が疎かにされれば、アルカイダが息を吹き返すリスクは排除できない。これはイスラム国にもいえることで、今後ともテロという差し迫りはしないが不気味な脅威に国際社会は対処していくことになる。