ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の思惑とは

2022.11.21

政治

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ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の思惑とは

北朝鮮は18日にもICBM級のミサイル「火星17型」を発射したとされる。 写真:Office of the North Korean government press serviceUPI/アフロ

北朝鮮は11月17日午前、東部の元山付近から日本海に向けて短距離弾道ミサイル1発を発射した。飛距離はおよそ240キロ、高度は47キロ程度とされるが、北朝鮮は11月9日にもミサイルを発射しており、これで2022年に入って33回目となる。7回目の核実験も危惧されており、バイデン米大統領は11月半ば、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に対し、今後7回目の核実験に踏み切った場合には日韓を防衛する対策の一環として米軍を前方展開させると警告した。なぜ、北朝鮮は異例のペースでミサイル発射を繰り返すのか。それには主に3つの理由があると思われる。

バイデン米政権への強い不満

2017年1月にトランプ米政権が発足、当初はトランプ前大統領が北朝鮮の金正恩氏を“ロケットマン”などと揶揄し、同年には朝鮮半島危機として緊張が高まったが、それ以降米朝関係は雪解けとなり、両者はシンガポール、ベトナム、そして板門店と3回も会談し、金正恩氏にとっては都合のいい時間だった。金正恩氏はこの時期をうまく利用し、アメリカとの国交正常化までこぎ着けたかったに違いない。

しかし、2020年の米大統領選の結果、オバマ政権と同じく「北朝鮮が核放棄に向けた行動を起こさない限り交渉に応じない」スタンスを重視するバイデン政権が誕生したことで、米朝関係は再び振り出しに戻ることになった。バイデン政権は中国との戦略的競争を外交・安全保障政策の最優先課題に位置づけ、またウクライナ侵攻によってロシア問題が浮上してきたため、対北朝鮮は完全に後回しになった。

先日、米中間選挙も終わったが、バイデン政権1期目の前半、米朝関係は良くも悪くも何も動いていない。アメリカとの国交正常化を求める金正恩氏はこの2年間、バイデン政権への不満を募らせてきた。アメリカに届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発・発射するなどしてアメリカをけん制することで、バイデン政権を交渉のテーブルに引きずり下ろしたいところだが、それがうまくいっていないことも今年の暴走につながっていることだろう。

韓国でユン政権が誕生

北朝鮮に対して融和的な“太陽政策”を重視してきたムン・ジェイン(文在寅)政権に対し、2022年5月、北朝鮮に厳しい姿勢を取るユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が誕生したことで状況は一変した。

ユン政権は対北朝鮮で日米韓3カ国の連携を重視し、米韓による合同軍事演習を強化しており、それが北朝鮮の暴走を誘発していることは間違いない。ユン政権は日米豪印で構成されるクアッド(Quad)、北大西洋条約機構(NATO)などへの接近も図っており、北朝鮮にとっては全てが受け入れがたい行動となっている。

11月6日、海上自衛隊創設70周年記念の国際観艦式が行われたが、海上自衛隊は事前に韓国軍に招待状を送り韓国海軍も参加した。日韓の間ではレーダー照射問題があり関係が冷え込んでいたが、ユン政権になったことで日韓の安全保障上の接近が今後顕著になると思われるが、北朝鮮はそれにも懸念を強めている。

激化する大国間対立

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、国家による国家への侵略が依然として存在することをわれわれに強く示す結果になった。その後、欧米諸国は一斉にロシアへの制裁を強化し、ウクライナを軍事的に支援することになり、時間の経過とともにロシアの劣勢が顕著になったが、これによって軍事的威嚇・挑発のハードルが下がってしまった可能性も否定できない。

“軍事大国ロシアが簡単に軍事的手段に出たのだから、われわれも危機が迫った際は躊躇なく使用できる”という間違ったシグナルを他国に送ることになったとすれば、それはウクライナ侵攻がもたらしたもう一つの負の遺産だろう。

また、今日では台湾有事が叫ばれているが、仮に中国が武力行使に出ることになれば、その流れが他国の軍事行動にも影響を及ぶす恐れもある。ロシアと比べ、今日中国の国際的影響力は大きい。こういった米中対立や台湾有事、ウクライナ侵攻など大国間の対立が激化し、それによってアメリカの力が相対的に低下し続ける現実は、一つに北朝鮮に行動、選択する自由を与えてしまっているといっても過言ではないだろう。

今後、アジアにおいて軍事バランス上中国に有利な環境が訪れようとしている。それが北朝鮮のさらなる挑発に拍車を掛ける結果にならないことを願うまでだ。