米中首脳会談の緊張と緩和 台湾が米中対立の最前線に

11月14日にインドネシアで行われた米中首脳会談 写真:Adam SchultzWhite HouseZUMA Press/アフロ

政治

米中首脳会談の緊張と緩和 台湾が米中対立の最前線に

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米中関係がこれまでになく冷え込むなか、11月14日、アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席がインドネシア・バリ島で会談した。米中首脳会談は実に3時間に及び、両者は米中関係が競争から衝突に発展することを回避するよう努め、常に対話のチャンネルを維持することで一致した。また、地球温暖化や食糧安全保障など米中が協力できそうな分野では高官レベルでの対話を進めていく方針を明らかにした。一方、台湾問題について、バイデン大統領は「一つの中国」を原則としたアメリカの台湾政策に変更はないとしつつも、一方的な現状変更に反対する意思を伝え、習国家主席は台湾問題は核心的利益の中の核心であり、アメリカが超えてはならないレッドラインだと強くけん制した。今回の米中会談から何が読み取れるだろうか。

対話継続で緩和した大国の緊張

まず、互いを大国と認識した両国が衝突を回避するため、対話継続の重要性を確認し合った意義は大きい。8月初め、米国ナンバー3ともいわれるペロシ米下院議長が台湾を訪問し、中国がその報復として台湾を包囲するような軍事演習を活発化させ、中国軍機による中台中間線超えや台湾離島へのドローン飛来などが激増し、台湾を取り巻く緊張がこれまでになく高まった。

中国外務省は強い対抗措置を取ると訪問前から強くけん制し、習国家主席も7月下旬のバイデン大統領との電話会談で火遊びをすれば必ず火傷すると釘を刺していた。

この冷え込みの中でG20首脳会合に合わせて米中指導者が対面し、それによって少なからず緊張が緩和されたことは評価されるべきだろう。この点、自民党の茂木敏充幹事長は「米中両国で率直な意見交換が行われたことは歓迎したい」と一定の評価を示し、松野博一官房長官は「両国関係の安定は国際社会にとって極めて重要で、中国に対して大国としての責任を果たしていくよう働きかけていきたい」と述べている。

慎重な動きを見せる中国

中国としても、経済的視点からアメリカとの必要以上の関係悪化は避けたい。中国の経済成長率は鈍化傾向にあり、ゼロコロナ政策の徹底などによって市民の政権への経済的な不満・怒りが強まっている。

10月の共産党大会の前後、北京市北西部にある四通橋では「PCR検査は要らない飯を食わせろ ロックダウンは要らない自由をよこせ」「独裁の国賊・習近平を罷免せよ」などと赤字で書かれた横断幕が掲げられ、上海でも若い女性2人が「不要」などと書かれた横断幕を持って車道を歩く動画がSNSに投稿された。

また、10月下旬には3カ月近くもロックダウンが実施されるチベット自治区の中心都市ラサで、ゼロコロナ政策に抗議する数百人レベルの大規模デモが発生して一部が警官隊と衝突し、11月中旬にも広東省広州で同様の抗議活動が発生した。外出制限に反対する一部の住民がバリケードを壊し自宅の外に出て、街頭などでゼロコロナ政策に抗議する声を上げるなどして道路を埋め尽くした。この様子は一時SNS上に流れたが、その後当局によってすぐに削除された。

こういった中国各地から高まる反政権的な動きを習国家主席は警戒している。米中対立が深まりアメリカなどから経済制裁が強化されれば、鈍化する中国経済がさらに落ち込む可能性があり、習政権3期目でもアメリカとの必要以上の関係悪化は避けるよう行動してくると思われる。その意味で、習国家主席にとって今回の米中会談は極めて重要だったはずだ。

一方、台湾問題については、習国家主席は改めてアメリカを強くけん制した。10月の共産党大会で習国家主席は「台湾の統一は実現しなければならないし、必ずできる。平和的統一を重視するが武力行使を排除しない」という姿勢を内外に示し、“台湾独立に断固として反対し、抑え込む”ことを党規約に盛り込んだことから、台湾問題ではこれまで以上に強硬な姿勢を堅持する必要性に迫られている。

習政権の負けられない戦い

今回の米中会談で、習国家主席は台湾を“核心的利益の中の核心”と呼んだ。核心的利益とは中国が絶対に譲ることのできない利益で、香港やチベット、新疆ウイグルなどがそれに当たるが、台湾をその上位に位置づけた背景にはいくつかの政治的背景がある。

一つは、台湾が米中対立の最前線、もっといえば民主主義と権威主義の戦いの最前線になっており、台湾が欧米各国と結束を強め、日本やアメリカ、オーストラリア、イギリスやフランスなどが安全保障協力を強めるなか、社会主義現代化強国を目指す習国家主席としては絶対に負けられない戦いとなる。

また、海洋強国を目指し西太平洋での影響力拡大を狙う習国家主席からすれば、第1列島線上にある台湾は対米を意識した軍事的最前線となる。今後とも台湾問題をめぐって米中の対立は続き、場合によっては競争から衝突に発展することを十分に踏まえておく必要がある。