トランプ政権の発足まで、あと僅かとなった。新たなトランプ政権の人事も明らかになっているが、そこで目立つのは相次ぐ対中強硬派の起用である。トランプ政権の外交・安全保障政策を担う国務長官には、中国・新疆ウイグル自治区における人権問題を強く非難し、中国による軍事的脅威に直面する台湾を軍事的に支援する必要性を訴えるマルコ・ルビオ上院議員が起用される。また、安全保障担当の大統領補佐官には、軍拡が進む中国に対抗するため米海軍の増強を訴えるマイク・ウォルツ下院議員が起用され、通商・製造業担当の大統領上級顧問にも対中強硬派のピーター・ナバロ氏が抜擢された。ナバロ氏はトランプ氏の政権1期目で通商政策担当の大統領補佐官を務め、ライトハイザー元通商代表とともに貿易の保護主義路線で主要な役割を担った人物である。こういった人事配置から、トランプ氏が中国に対して基本的には厳しい姿勢で臨むことは間違いないだろう。
トランプ氏は政権1期目の際、蓄積する米国の対中貿易赤字を是正するため、2018年から中国製品に最大25%の関税を課す制裁措置(4回に分けて計3700億ドル相当の中国製品に対して)を次々に発動し、中国も農産物や液化天然ガスなど米国製品に報復関税で応戦したため、両国の間では貿易摩擦が激化していき、それは米中貿易戦争と呼ばれることになった。今回、トランプ氏は政権2期目ということで再選を気にする必要がなく、周辺を自らに忠誠的な人物で固めており、前回以上に大胆な措置を講じるとの見方もある。トランプ氏は就任初日から中国製品に対して10%の追加関税を課す方針を発表しているが、米中関係の行方によってはさらなる追加発動が十分にあり得よう。
では、トランプ氏はバイデン政権下でヒートアップした半導体をめぐる覇権競争にはどう対応していくのだろうか。
バイデン政権は2022年10月、中国がAIやスーパーコンピューターなどに必要な先端半導体を軍事転用する恐れを警戒し、中国による先端半導体そのものの獲得、製造に必要な材料や技術、専門家の流出などを防止するための輸出規制を強化した。そして、米国のみの規制ではそれを完全に防止できないとの判断から、バイデン政権は先端半導体を製造するための装置で世界シェアを誇る日本とオランダに同調を呼び掛け、日本は2023年7月、14ナノメートル幅以下の先端半導体に必要な製造装置など23品目を輸出管理の規制対象に加えた。しかし、バイデン政権は両国による規制のレベルが自らが求めるレベルに至ってなく、両国の半導体関連企業が中国に過去に販売した製造装置の修理や予備部品の販売を続けていることなどに対して、さらに厳しい規制を求めている。例えば、バイデン政権は2024年4月、オランダに対して同国の半導体製造装置大手ASMLが中国企業に販売した装置の保守点検や修理サービスを停止するよう要請し、オランダは9月、ASMLの2種類のDUV液浸露光装置に対する輸出許可要件を拡大し、中国向けの輸出規制を強化した。また、バイデン政権は規制レベルという深さだけでなく、規制参加国という広さにも不満を抱き、韓国やドイツなどの同盟国にも対中輸出規制への参加を求めている。例えば、ドイツのカールツァイスはASMLに先端半導体に必要な工学部品を供給しているが、米国はカールツァイスが中国に関連部品を輸出しないようドイツ政府が主導するべきという立場で、バイデン政権が6月のG7サミット前にもドイツに対して対中輸出規制への参加を要求したという。このように、バイデン政権は先端技術分野における中国排除とも表現できるような姿勢を貫き、同盟国にも同調を呼び掛ける姿勢に徹した。
トランプ氏が重視するのは、アメリカファーストのもと、高関税をちらつかせることで外国から最大限の譲歩や利益を引き出し、外国が持つ負担(紛争など)による米国への影響を最小限に抑え、米国の経済的かつ政治的な繁栄、平和を堅持することである。また、米国が最も強い国家であることにも執着心があり、その立場を脅かしかねない中国に対する政治的、経済的優位性を確保しようとする。これに照らせば、トランプ次期政権は半導体覇権競争においてバイデン政権の姿勢を継承することが考えられる。半導体覇権競争は、言い換えれば先端技術をめぐる米国の対中優位性を確保するための戦いであり、トランプ氏が進めたい政策の一環となるだろう。
ただ、1つ読めない点でがある。バイデン氏は同盟国との協力を重視したものの、トランプ政権1期目の対中政策は同盟国を巻き込むというより、米国自身が単独で中国と戦うというものであり、これに照らせば、今後の半導体覇権競争においてトランプ氏は同盟国への要請をそれほど重視しない可能性がある。一方、同調を求める場合、バイデン氏より強い圧力で足並みを揃えるよう要請してくることが考えられ、その場合は高関税などを同盟国にちらつかせる可能性もあろう。懲罰的な協力要請とも言えよう。