三菱商事と東京YMCAが2014年12月から協働で開催してきた、発達障がい児向けのスポーツ教室「DREAMクラス」が100回目の節目を迎えた。記念すべき100回目は、運動会を開催。当日は多くの親子が集まり、運動会は大盛況! イベントの様子や参加者の声をレポートする。また、運営側の視点からの感想のほか、三菱商事が社会貢献活動にかける想いや活動を継続する意義などを取材した。
三菱商事が取り組む社会貢献活動の3つの軸
三菱商事は「所期奉公」「処事光明」「立業貿易」の三綱領を企業理念として社業を行っている。このうち、所期奉公とは「事業を通じ、物心共に豊かな社会の実現に努力すると同時にかけがえのない地球環境の維持にも貢献する」という意味だ。
1973年には、社会環境室(現在の社会貢献チーム)が設立され、社会貢献活動をより積極的かつ継続的に実践する体制がつくられた。「ただ事業を行うだけでなく世の中へ貢献できる事業・会社であれ」という社会貢献に通ずる考え方は、今も社員にDNAとして受け継がれている。
現在は、社会環境室の後継である社会貢献チームが中心となり、「インクルーシブ社会の実現」「次世代の育成・自立」「環境の保全」の3軸で様々な取り組みを行っている。
社会貢献チームには、チームリーダー以下10名が所属し、施策の立案・運営を行っている。昨今、社会貢献に取り組んでいる企業は多いが、三菱商事では社会貢献専任の組織を設けている点や、単に金銭的な支援に留まらず、施策の中間目標・最終目標の達成度の評価や施策のアップデート、新規施策の立ち上げなどを主体的に行っている点が特徴的だ。
「DREAMクラス」発足とその経緯
2014年10月には、パラスポーツ応援施策「DREAM AS ONE.プロジェクト」を始動。その経緯について、社会貢献チームに尋ねた。
「2013年に2020東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定し、翌2014年が創業60周年という節目の年であったことから、私たちは『社会にどのように貢献できるか』を改めて考え、パラスポーツ支援をさらに充実することを決定しました。」
DREAM AS ONE.プロジェクトの1つとして、同年12月にスタートしたのが、本稿で紹介する「DREAMクラス」だ。主に発達障がいの特別支援学級に通う小学生を対象に、バスケットボールやサッカー、水泳などのスポーツをする機会を提供する。
DREAMクラス誕生の背景には、発達障がいのある子どもたちがスポーツをする機会が非常に限られているという現状がある。見た目には分かりにくい障がいのある子どもたちが、自分のペースでスポーツを楽しみ、継続的に取り組むことができる環境を提供したいとの考えから、DREAMクラスは立ち上げられた。
発達障がいのある子どもにとってスポーツが大切な理由を、社会貢献チームに聞いた。
「学校の体育は集団行動が中心のため、発達障がいのある子どもたちは学校の体育を通した成功体験が得づらいという現状があります。当社はこうした課題に向き合い、誰もが受容され自己表現できる貴重な場の一つとして、DREAMクラスを実施しています。参加してくれる子どもたちが、言葉や学力に頼らずとも『できた』『楽しめた』という成功体験を得られること、そしてその体験を通して子どもたちの可能性が広がっていくことを願っています。」
DREAMクラスの開催にあたっては、以前から社会貢献活動のパートナーとしてタッグを組んできた東京YMCAに共催という形での協力を要請した。YMCAは、古くから青少年の健全な育成や地域社会の発展を目的に活動してきた。障がい児・障がい者に向けては、近郊の野山や河原など自然の中で仲間たちと遊ぶ野外活動、公園でのレクリエーションや街の散策などの余暇活動、個性に合わせて水泳や球技などの指導を行う体育活動などに取り組んできた。彼らの豊富なノウハウを活かすことで、より効果的なプログラムを実現できると考えた。
三菱商事でも運営費用の支援のほか、社員によるボランティアを派遣して運営のサポートを行っている。

DREAMクラス100回記念の運動会当日の様子
DREAMクラスは、コロナ禍で休講を余儀なくされた時期もあったが、毎月開催を重ねて、昨年12月で100回を迎えた。この11年間で参加者は延べ約3400人を数える。
100回の節目にあたる12月7日(日)は、お祝いとして運動会を開催。現役生とその家族に加えて、卒業生とその家族にも参加を募ったところ、当日は幼児から大人まで60名を超える参加者が集まった。朝10時、会場となった体育館は、子どもたちのはしゃぐ声と熱気でいっぱいだ。
「卒業生がどれくらい集まってくれるかと思いましたが、蓋を開けてみれば参加者の約半数は卒業生とその家族でした。卒業して何年も経つのに、DREAMクラスのことを忘れずにいてくれたこと、そして、久しぶりに元気な顔が見られたことがとても嬉しいです」と、当日の司会進行を担当した東京YMCAスタッフの笑顔が弾ける。
いよいよ運動会がスタート。DREAMクラスでおなじみのエビカニクス(エビやカニのポーズを取り入れた体操)で体をほぐした後は、紅組・白組に分かれて競技を行っていく。
1種目は玉入れ。通常のカゴに投げ入れる以外に、スタッフが箱を持ってコート内を動き回り、そこに玉を入れてもOKなルールだ。これなら小さな子やボール投げが苦手な子も楽しめる。

2種目は大玉送り。大人の背丈ほどもある大きな玉を、チームごとに列になってゴールまで送っていくゲームだ。最初はコントロールが難しかった大玉が、回を重ねるごとにまっすぐスピードアップして転がっていく。ほんの10分ほどの短時間でも、子どもたちがコツを掴んで上達していくのが目に見えて分かる。

3種目は綱引き。スタッフも両チームに分かれて参加し、綱を力いっぱい引っ張り合う。大人も子どもも全員顔をゆがめて渾身の力で引っ張っていた。全部で3回戦まであったが、初戦で力を使い果たし、大の字になって伸びている保護者も。一方、子どもたちはまだまだ元気でやる気満々だ。

どの競技も互いの力が拮抗しており、1回戦で赤が勝てば、2回戦は白が「次は負けまい」と底力を出して勝つといった繰り返しで、接戦がくり広げられた。全種目を終えての勝敗は、なんと引き分け。全員で健闘を称え合って運動会は閉幕となった。
その後は、水着に着替えてプールへと移動。泳ぎたい人用のコースで黙々と泳ぐ子もいれば、プール内に設置された滑り台で遊ぶ子や浮き板の上に乗って遊ぶ子など、思い思いのエリアで自由時間を過ごす。スタッフ以外に保護者も一緒に水に入っているので、安全性の面でも安心だ。

プールの後は着替えてホールへ戻り、ちょっと早めのクリスマス会。サンタや雪だるまに変装したスタッフがクリスマスソングと共に登場し、子どもたちにプレゼントを手渡していく。
12時30分、すべてのプログラムが終了。スタッフたちに挨拶しながら帰っていく子どもたちのキラキラした笑顔が印象的だった。

参加した子どもたちから「楽しかった!」「またやりたい」の声
当日参加した子どもたちの中から数名に今日の感想を聞いた。
双子のきょうだいと参加していた男の子(小学4年生)
「YMCAの先生たちが優しくて、DREAMクラスはいつも面白いです。今日は綱引きが一番楽しかった!」
同伴していたお母さんにも話を聞くと、毎月、本人から「今日、予約日だよ」と申し込みを催促されるほど楽しみにしているそう。
「もともと本人は運動があまり好きではなく、学校の体育の授業も走り回って参加できなかったのですが、DREAMクラスに通うようになってから自主的に参加できるようになりました」とも話してくれた。
お父さんと参加していた男の子(小学3年生)
「今日は玉入れが楽しかったです。先生が持っている箱にいっぱい入れました! 普段のクラスではアスレチック(平均台や梯子などのサーキットメニュー)が好きです。」
お父さんにも話を聞いた。
「特性のある子向けの習い事が少ない中で、DREAMクラスやYMCAの障がい児クラスは本当にありがたいです。健常児の中では注意されたり叱られたりすることが多いですが、ここでは個性を認めて伸び伸びとさせてもらえるのが良いですね。」
お母さんと参加していた男の子(小学6年生)
「運動会は全部楽しかったけど、1位は大玉送り。2位は綱引き。赤が好きだから紅組で良かったです。運動が好きで、YMCAのスイミングにも通っています。」
お母さんからも話を聞いた。
「学校以外のコミュニティーができて子どもの世界が広がりました。コロナ禍をきっかけに学校では運動会の綱引きが廃止されたりしているので、子どもに色々な運動を経験させてあげられる点も親として嬉しいです。」
卒業生の女の子(中学3年生)
「DREAMクラスを卒業してから体を動かすことが減ったので、今日は久しぶりに運動しました。現役の頃はプールが好きでした。先生たちに2年以上ぶりに会えたのも嬉しかったです。最近は家で漫画を読んでばかりなので、またこういう機会があればなぁと思います。」
子どもたちがその日書いたアンケート用紙を見ると、心から運動会を楽しんだことが伺える。その一部を写真で紹介する。

運営側の視点からイベントを振り返って
全プログラム終了後、改めて東京YMCAのスタッフに話を聞いた。まず100回を迎えての感想から。
「DREAMクラス発足当時を知る先輩から話を聞くと、初回は児童がたった3人からのスタートだったそうです。しかし、発達障がい児向けのスポーツ教室が希少で、保護者からのニーズも高かったことから、2年目には30人以上になったと聞いています。今ではキャンセル待ちが出る回もあり、2023年には東京西部に2カ所目を開設しました。リピーターの子が多いですが、新規の子もどんどん来てほしいですね。そして、DREAMクラスの活動を通して、一人でも多くの子どもに体を動かす楽しさやみんなと遊ぶ楽しさを知ってもらえたら嬉しいです。」
子どもたちを指導していて、日頃どんな変化を感じるか。
「月に1回の開催でも、回を重ねるごとに少しずつ着実に体の動かし方や道具の扱い方が上達していきます。保護者が一緒に活動することで、『わが子の成長を直に感じられるのが嬉しい』との声もいただきます。中にはずっと走り回っていたり、体育館の隅で座っていたりする子もいますが、それもその子らしさ。どんな子にもこの空間を楽しんでもらうことが大事だと思っています。」
今後も長く続けていくために、チャレンジしたいことや改善点はあるか。
「長く続けていると、どうしてもマンネリ化してしまう点が今の課題です。子どもたちにどんな運動やスポーツをしたいかリクエストを聞いて、できるだけ新しいメニューを取り入れるように工夫をしています。DREAMクラスを卒業すると運動機会が減ってしまうという保護者の意見もよく聞くので、いかに運動を習慣化していくかも考えていきたいです。」
ボランティアとして参加していた三菱商事の社員にも、今回参加した動機や感想をインタビューした。
「私は学生時代からボランティアに関心があり、老人福祉や子どもたちの学習支援など様々な活動をしてきました。DREAMクラスに参加するのは今回で3回目です。親子で一緒に運動や遊びをするというのが、素敵だなと思います。私はボランティアを通して『相手のために何ができるか』を自発的に考え行動する力が養われると感じていて、それは仕事や人間関係にも役立ちます。今後も社内外問わずボランティア活動に励み、その経験や学びを仕事に生かしていきたいです。」

三菱商事が社会貢献活動を通して実現したい社会
草創期から社会貢献活動を続けてきた三菱商事だが、社会貢献活動を通して会社や社員にどのような効果があるのか。社会貢献チームに聞いた。
「社員がイベントやボランティアへの参加を通して様々な経験・価値観に触れることで、より多角的な視点を育むことができます。そうした広い視野や柔軟な思考をもつ社員が増えることは、実業にも良い影響があると考えます。」
最後に、三菱商事は社会貢献を通じて何を目指すのか、そして、その実現のために何をするのか、今後のビジョンを語ってもらった。
「当社では、社会貢献活動の3軸がそれぞれ掲げる目標が調和した、真に豊かな社会の実現を目指しています。そのために継続は重要なことですが、変化の激しい社会において、社会貢献活動の形もその時々で変化することが求められます。施策をただ継続し一方通行に行うのではなく、パートナーとの会話等を通じて時代に即した支援・施策の在り方を常に考え続けることが必要であると考えています。継続性を引き続き大事にしつつも、常にその時々の社会課題を見極め、当社ならではの特色を生かした社会貢献活動を行っていきます。」
