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「量」から「質」へ〜ファンケルスマイルが切り拓く、障がい者雇用の未来

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この7月1日から障がい者の法定雇用率が2.7%に引き上げられた。多くの企業が障がい者雇用の課題に直面する中、ファンケルグループでは早くからこの課題に取り組んできた。その1つが、(株)ファンケルスマイルだ。ファンケルグループでは障がい者雇用を単なる社会貢献や法定雇用率の達成ではなく、グループ全体の生産性およびブランド価値の向上につなげる“企業戦略”として位置づけている。本稿では、ファンケルスマイル設立の経緯や狙い、今後の展開などについて取材した。

株式会社ファンケルスマイル 代表取締役社長

齋藤 潤 さいとう じゅん

株式会社ファンケルスマイル代表取締役社長
株式会社ファンケル執行役員人財本部本部長
1995年4月、新卒で株式会社ファンケルに入社、人事部に配属される。その後、店舗運営や通信販売、流通営業などのマネジメント職を経て、2025年6月より現職。

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障がい者に活躍の場を!~ファンケルスマイルの設立

ファンケルスマイルは、ファンケル創業者の池森賢二氏が1999年2月に設立した特定子会社だ。特例子会社とは、障がい者の雇用の促進と安定を目的に、障害者雇用促進法に基づいて設立される特別な子会社のこと。

同社の設立以前から、池森氏は定期的に重度心身障がい者の通所施設「訪問の家」を訪れ、障がいのある人たちとの交流をはかっていた。その中で、知的障がいのある人たちは職業訓練を受けても就職先が少なく、社会的・経済的な自立が難しい現状に問題意識を抱く。

池森氏は「それならファンケルで活躍できる場をつくればよい」と考え、同社を立ち上げた。これはファンケルグループの創業理念である「正義感を持って世の中の『不』を解消しよう」の実践といえる。

福祉施設ではなく「株式会社」を選んだ、池森氏の戦略

障がい者福祉を「社会貢献」の文脈で考える場合、デイサービスや入居施設などをつくり、生活支援をするという選択肢もある。しかし、池森氏はあえて「企業戦略」の文脈で捉え、株式会社として“障がい者雇用の場”をつくった。

同社の代表取締役・齋藤潤氏は言う。

「法人格を株式会社にするということは、利益追求を目的とし、企業の社会的信用度を高めていくということです。池森の中に『障害のある人たちが企業の一員として働き、成果を出すことで自立していく仕組みをつくる』という明確な意図があったことがうかがえます。」(以下「」は斎藤氏の発言)

ファンケルスマイルで働くメンバーと支援スタッフ

では、実際に同社では障がい者たちがどのように働いているのかを見ていく。

まず、同社では障がいをもつ社員(以下、メンバーと呼ぶ)と彼らを支援する社員(以下、支援スタッフ)がいる。支援スタッフのうち、ファンケルからの出向社員はメンバーに割り振る仕事の切り出しや設計が主な業務だ。ファンケルスマイルの契約社員はメンバーが働く現場に同行し、日常的な支援を行う。

主な作業内容としては、サンプルセット作業、製品セット作業、容器リサイクル作業、清掃、研究所での器具洗浄、本社でのメール便の受配、クッキー製造販売など、幅広い業務を担っている。

「軽作業が中心ですが、メンバー一人ひとりの特性や希望適正などに合わせてメンバーの配置を行い、長く働ける環境づくりを重視しています。」

早くて正確な仕事で、グループの本業に貢献

同社の創業時から続くメイン業務がサンプルセット作業だ。ファンケルの製品サンプルを台紙に貼り付けたり、製品をセットにしてパッケージに入れたりする。

作業している様子を見ていると、集中力の高いメンバーや手先が器用なメンバーが多く、非常に手際が良い。ズレや歪みがなくキレイに貼り付けられたサンプルがどんどん出来上がっていく。1人で日に700~800枚、多いときで1000枚も仕上げるというから驚きだ。

「軽作業や清掃は他社に外注するとコストがかかりますが、同じグループ内で行うことでコストの節約ができます。つまり、彼らの特性が発揮できる仕事を設計することで、質の高い仕事を低コストで実現でき、本業に貢献できるのです。」

クッキー製造販売

オリジナルクッキーは製粉から成形、焼き上げまですべて手作り。ファンケルの発芽米を使ったグルテンフリーで、バターも北海道生乳100%のものを使っている。プレーン、チョコ、ナッツ、チーズの4つの味がある。

販売も自分たちで行う。自社内で販売する他、栄区役所や近くの企業に出張販売することもある。

「お客様から『この前買っておいしかったよ!』と声を掛けてもらうことも多く、メンバーたちのやりがいになっています。コミュニケーションが苦手なメンバーも少しずつ打ち解けていくなど成長する姿を見るのも嬉しいです。」

クッキーの製造販売を行っている背景には、体を動かすのが好きなメンバーや細かい作業が苦手になったメンバーにも活躍の場を与えたいという思いがある。同社では1999年の創業当時からの古株メンバーもまだまだ現役だ。

今後は「量」より「質」を追求したい

創業から約30年。独自のやりかたで「企業も障がい者も幸せになる」方法を実現してきたファンケルスマイルだが、今後はどのような成長を目指すのか。

「社員数を100人にするとか、雇用率5%を目指すといった“量”ではなく、社員が働いてやりがいが持てる、成長実感があるなどの“質”を追求していきます。」

障がいのある人たちは、どうしても守られる側・支えてもらう側に偏りがちだ。だからこそ、「自分は社会の一員として役に立つ存在である」「成長していける」と感じる体験は重要で、それが自尊心や生きがい、さらなる成長意欲につながっていく。また、就職できなかったり最低賃金未満で働く障がい者も多い中、給与体系や福利厚生がしっかりしていて、経済的な自立ができることの意味は大きい。

働きがいや成長実感を育てる取り組み

“労働の質”を高めるための具体的な施策として、次のような取り組を行っている。

【チャレンジできる風土づくり】

業務の割り振りについては、支援スタッフがメンバーの適性に合わせて割り振るのが基本だが、近年はメンバー自身がやりたい仕事に手を挙げてチャレンジする方法も取り入れている。

「以前はみんなで同じことをやるという“平等の風土づくり”をしていましたが、メンバーによって能力の差や適性が違うので、できる者ややる気のある者にはチャレンジできる風土づくりもしていきたいと考えるようになりました。本人の努力や成果に応じて報酬も上げていくほうが、自立にもつながると考えます。今後はメンバーがリーダーを担うことも視野に入れています。」

【資格取得の支援】

同社ではメンバーの資格取得も積極的に後押ししている。最近ではビルクリーニング技能検定3級や品質管理検定4級、フォークリフトの運転業務に係る特別教育などの資格・検定に複数名がパスした。また、スポーツや英会話などの活動もバックアップしており、中には全国大会で入賞するメンバーもいる。

【セミナー講師】

地域の特別支援学校などに赴き、生徒に向けて社会に出るにあたっての身だしなみを教えるセミナー講師の活動も行っている。仕事に誇りを持ち、いきいきと話す彼らの姿は、障がいを持つ生徒たちにとって“憧れ”の対象だ。

「彼らをロールモデルとして『自分も先輩のようになりたい』と思ってくれる生徒が1人でも増えてくれたら。実際、生徒たちの中から当社に実習に来て、就職希望してくれる子もいます。」

障がい者雇用が秘めた可能性を

最後に、ファンケルスマイルの今後のビジョンについて尋ねた。齋藤氏は2035年までの中長期構想として次のように語る。

「当社が目指しているのは、『ファンケルブランドの価値向上や生産性向上に貢献し、グループに欠かせない存在』になることです。その実現のために、まずは自社でできる仕事の種類や範囲を拡大し、グループ内の外注費の削減や人材再配置への貢献度を上げていきます。」

齋藤氏はさらに先も見据えている。

「障がい者による高品質のサービスを適正価格で提供するノウハウが構築できれば、それがわが社のケイパビリティ(強み、組織的能力)となり、将来的にはグループ外へも展開していけると考えます。」

そうなれば、ファンケルグループの新規事業が誕生し、ブランドの新価値創造になるだろう。ファンケルスマイルのこれからの挑戦が楽しみだ。