中国・湖北省で6月1日に起きた客船「東方之星」の転覆事故に関する中国本土の報道は、官営メディアが李克強首相の陣頭指揮や、軍の兵士らの奮闘ぶりを繰り返し報道し、当局の対策は万全であるとアピール。
共産党機関紙、人民日報の3日付朝刊のトップ記事では、習国家主席が「全力で救出するよう指示した」と報道されています。死者や生存者の数など事故の事実関係は後回しにされ、当局の対策の遅れなどを批判する家族の声も、ほとんど報じられていません。
こうした報道規制の背景には、習近平指導部がメディア対策を慎重に進める姿勢が見え隠れします。SNSによって交通当局の不誠実な対応ぶりが白日の下に晒された2011年の高速鉄道衝突事故や、2014年4月の韓国セウォル号沈没事故への批判などが教訓となっている模様。
ニュースが”わかる”尊徳編集長の解説
Qなぜ中国はここまで報道に制限をかけるのでしょう? 共産圏は皆そうなのですか?
A共産主義国は基本的に一党独裁で、(かつては)すべてが国営・公営だから。
とはいっても、中国をはじめ、共産主義は崩壊しつつある。ロシアもかつてはソビエト連邦という共産主義国だったからね。中国も政治体制は共産党が支配しているけど、世界の潮流に乗って市場経済を導入しているから、純粋な共産主義国じゃない。
市場経済を導入して超格差社会になってしまったから、低所得の民はいつ爆発してもおかしくない。だからこそ、民衆の不安や不満を取り除いていかないと、民衆の蜂起によって政権が転覆されかねない。
ということで報道規制なんて日常茶飯事なんだ。
Q中国はインターネットにも規制をかけていますよね?
Aそうだね。アラブ社会の政権転覆(「アラブの春」)はネットの威力がそれを拡散させたから、警戒しているだろうね。
「アラブの春」は、チュニジアで失業中の若者が、街頭で果物などを売ろうとしたところ、販売許可がないことを理由に警察が商品を没収したことに端を発する大規模反政府デモ。若者が抗議して、焼身自殺を図った様子がネットで流され、一気に拡散した。そして独裁政権への不満が爆発して、クーデターが起こり、各国に広がった。
中国はこのようなネットの拡散力を警戒しているということ。力でいつまでも抑え続けられはしないけどね。
(佐藤尊徳)
[参考:「中国、政権批判を懸念 『救出は万全とアピール』」(日経新聞朝刊6面 2015年6月4日)]
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