小さくなって消える? ワタミの断末魔

2015.11.10

企業

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大手外食産業の「ワタミ」が断末魔の苦境に喘いでいる。2015年10月2日には成長を続ける介護事業を「損保ジャパン日本興亜ホールディングス(損保JPNK)」に210億円で売却することを発表したばかり。虎の子事業を手放さなければならなかった背景には、赤字を垂れ流し続ける本業の不振と融資金融機関のプレッシャーがあった。

苦肉の策で手放した介護事業

参議院議員の渡邉美樹氏(資産管理会社アレーテーを通じて、2015年11月現在もワタミの実質的なオーナー)が創業したワタミは、低価格戦略を武器に急速に業容を拡大してきたが、ここ数年は主力の居酒屋事業が経営不振に陥り、2期連続で最終赤字に転落した。特に直近の2015年3月期決算では多額の特別損失を計上し128億円もの巨額赤字に転落。決算に「継続前提の重要事象」が記載されるなど存続が危ぶまれる状況にある。

大手信用情報機関は、「一連の特別損失は主力の外食事業『ワタミフードシステムズ株式会社』に係る株式評価損と貸倒引当金繰入で、同社は店舗関連の減損もあり債務超過に陥っている。この状況が続けば、いずれグループ全体も債務超過となりかねない」と指摘している。

この危機を脱するための窮余の一策がお宝であるワタミの介護株式会社の売却というわけだ。当初は損保JPNKとパナソニックの2社が買収に意欲を示したが、「損保JPNKはワタミの大株主であることから同社に絞られた」(関係者)という。

だが、成長の基幹事業とみられたワタミの介護を売却して果たして再建できるのか。祖業の外食はジリ貧から抜け出せないなか、黒字を計上する頼みの宅配食との相乗効果がある介護事業を手放すデメリットは無視できない。

実はワタミは介護事業を売却したくなかったが、取引金融機関との融資に付された財務制限条項の発動を回避するためには手放さざるをえなかった。ある金融関係者はその背景について次のように指摘する。「2015年3期でワタミは財務制限条項に抵触、本来であれば期限の利益を喪失したとして融資を即刻返済しなければならなかった」。

その財務制限条項とは、「純資産が2012年3月期期末(293億円)の75%以上を維持する」と「経常損益が2期連続で赤字にならない」という内容だった。2015年3月期はすでに経常赤字に転落していることから、このまま赤字が続けば金融機関はワタミに対し最後通牒を突きつける寸前だった。

メインバンク横浜銀行の延命処置

しかし、ワタミを生かしたいメインバンクの横浜銀行は、2015年7月に同条項から「経常損益が2期連続で赤字にならない」という項目を省き、「純資産額を2014年度末(227億円)に対し100%以上を維持する」という内容に変更し延命させた。三井住友銀行、みずほ銀行などほかの融資銀行はこうした横浜銀行の手ぬるい対応に反発したが、「ワタミが事業を縮小することを前提に延命には合意した。結果、介護事業の売却(特別利益)が唯一残された道だった」(先の金融関係者)と解説する。

だが、どこまで取引金融機関が支援を続けるのかは不透明だ。ワタミの外食事業の2015年9月の売上高(既存店)は前年同月比6.3%減、客数が同1.7%減、客単価が同4.7%減となった。これで売上高は42カ月連続で前年同月の実績を下回った格好だ。2015年4~6月の3カ月間に営業利益ベースで10億円の赤字を計上しており、営業を続けるほど損失が積み上がる負のスパイラルから脱していない。

失血が続くワタミを主力の横浜銀行はどこまで支援できるのか。売上が減少するなか、負担となっている人件費や賃料などの固定費を削減するため不採算の既存店を整理する一方、業態転換を図って止血する必要があるが、リストラするにも先立つのは資金の手当てだ。この点、ワタミの短期借入金は164億円あり、同社の現預金などの流動性資産を大きく上回っている。

このためワタミは短期の借入枠を長期借入に振り替えることで資金調達の安定化を進めているが、これとて取引金融機関によれば「長期の融資に切り替えた際、約定弁済を付けて期限が来る都度にロールオーバーせずに残高を落としていく可能性もある」という。メインバンクの横浜銀行以外の取引金融機関は粛々とワタミから撤退する準備に入っているように見える。

一方、メインの横浜銀行は、東京を地盤とする東日本銀行と正式に経営統合すると発表したばかり。2016年4月には共同持株会社、コンコルディア・フィナンシャルグループを発足させる。晴れの統合を前に社会的に知名度の高い「ワタミ」を見捨ててはメインバンクとしての立場がないジレンマに立たされている。

本業の立て直しはいばらの道

ワタミは介護事業の売却で当面の危機を脱したものの、本業の立て直しはいばらの道。そこには「ブラック企業」と名指しされた負のイメージも影を落とす。「ワタミの債務者区分は要注意先債権に分類されている。横浜銀行が本気でワタミを支援するのであれば、いずれ金利減免措置を講じるか、融資を資本に振り替えるデット・エクイティ・スワップを行う必要があろう」(メガバンク幹部)という。ワタミの生殺与奪権は金融機関が握っている。

負のスパイラルに陥ったワタミ

 

東京の中心部の外食やコンビニなど、サービス産業のバイトは、人手不足が深刻で、働き手がなかなかいないというのが現状。外国人留学生が非常に多く、時給も上昇傾向だ。そんななか、「ブラック企業」という烙印を押された、ワタミやすき家では、人件費が更に上昇するのは仕方がない。労働環境が良くなければ人がこないので、賃金を上げざるを得ないからだ。原材料費も人件費も上がれば、低価格が最大の売りであるサービス業は経営的には苦しくなるのは当たり前。

これから、介護事業が伸びていくかどうかは、社会保障費との兼ね合いもあるから何ともいえないが、少なくとも現段階での虎の子である事業を売却するというのは、相当追い込まれている証左だ。

成長分野を手放した企業が、苦しい本業を立て直したという例は、非常に少ない。最近の動きを見ていると、事業の立て直しは相当に苦しいのだろう。ワタミは、悪循環に陥ったようだ。