政治

トランプ旋風

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旋風のような勢いで米大統領選の話題を集めるトランプ氏。過激な発言が目立つなか、一部米国人の支持をしっかり掴む戦略とプライベートでは紳士という人物像は意外と侮れない。このままトランプ旋風が吹き荒れた場合、日本への影響も多大なものになるはずだ。

意外と支持が厚いトランプ氏

米国の大統領予備選挙で共和党のドナルド・トランプ候補の勢いに世界の注目が集まっている。そのきっかけになったのは、2016年3月1日の「スーパー・チューズデー」でトランプ氏が圧勝したからだ。

<米大統領選に向けた民主・共和両党の候補者指名争いは(3月)1日、予備選などが集中する「スーパーチューズデー」を迎え、首位を走る共和党のトランプ氏(69)と、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(68)が快勝した。トランプ氏は11州中7州で圧勝。クリントン氏も7州と1地域で勝利し、優位な戦いを展開する見通しとなった。>(3月3日「毎日新聞」朝刊)

もっとも、4月5日のウィスコンシン州の予備選挙で、共和党主流派が支援するクルーズ上院議員(45)が勝利したので、トランプ氏が7月の党全国大会前に、指名獲得に必要な代議員総数の過半数確保が不透明になった。

トランプ氏は、単なるポピュリスト(大衆迎合主義者)ではない。テロ対策としてのイスラム教徒の入国禁止や不法移民の国外追放は、米国人の多くが公の場で口に出してはいけないこととされているが、腹の中では思っていることだ。トランプ氏に対する支持基盤は、知識人、イスラム教徒、黒人、アジア系以外の間では、意外と厚いと筆者は見ている。”異質な人々によって虐げられてきた、本来の米国人に権利を取り戻す”という、トランプ氏の基本戦略は、一部の米国人の心に強く訴える力があることを過小評価してはならない。

佐藤優
ドナルド・トランプ氏の基本戦略は、一部の米国人の心に強く訴える力があることを過小評価してはならない。(佐藤優)

良い選択肢で現実的な選択肢という見解も

トランプ氏についての人物評のなかでは、1994年から2001年までニューヨーク市長をつとめ、同市の凶悪犯罪撲滅と治安強化で大きな業績をあげたルドルフ・ジュリアーニ氏の見解が興味深い。

<米大統領選の共和党候補者指名争いで、元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏(71)は旧知の実業家、トランプ氏(69)に投票すると、米メディアが伝えた。ニューヨーク州は割り当て代議員数が全米で4番目に多い大票田で、4月19日の予備選はトランプ氏が勝利した。/ジュニアーニ氏はニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで、トランプ氏について、党内レースで2番手のクルーズ上院議員(45)より「よい選択肢」で、最下位のケーシック・オハイオ州知事(63)より「現実的な選択肢」と話した。また、トランプ氏の全ての政策に賛同するわけではないが「私の知っている彼は、みんながテレビで見ている男とは違う。彼は紳士で良き父だ」と述べた。>(4月8日「朝日新聞」デジタル)

ジュリアーニ氏が指摘するように、トランプ氏の方がクルーズ氏よりもはるかにまともな候補者である。例えば、クルーズ氏の選挙宣伝用の動画で「自動小銃(マシンガン)のベーコン」というものがある(You Tubeでmachingun beaconと入力すれば視聴できる)。テキサス州のスーパーマーケットで購入したベーコンを自動小銃に巻き付け、その上にアルミホイルを被せて、銃を乱射する。その熱によって、こんがりと焼けたベーコンをフォークで摘んで口に入れたクルーズ氏が「マシンガン・ベーコン」と感想を述べるという政治性、思想性のかけらもない内容だ。全米ライフル協会のメンバーを標的にした宣伝であるが、トランプ氏よりもはるかに煽情的で無思想だ。

普天間基地移設問題が解決する可能性

外交政策について、トランプ氏の本音は孤立主義だ。日本との関係や、トランプ氏の見解について、冷静に検討してみよう。

<米大統領選の共和党候補者指名争いで首位のドナルド・トランプ氏(69)が、日本の核兵器保有を容認する考えを示唆した。米紙ニューヨーク・タイムズが3月26日に掲載した同氏のインタビューで、在日米軍などの大幅削減を主張する一方、核兵器開発を進める北朝鮮に対抗するため、日本の核保有もありうるとの見通しを示した。/同氏はインタビューで、「もし日本に(北朝鮮による)核の脅威があるならば、(日本の核保有は)米国にとっても悪いことだとは限らない」と語った。/また、「我々が攻撃されても日本は何もする必要がないのに、日本が攻撃されれば米国は全力で防衛しないといけない。これは極めて一方的な合意だ」と日米安保協力に不満を示した。/さらに「米国は『世界の警察官』ではいられない」とし、「私は(他国と関わりを持たない)孤立主義者ではないが、アメリカ第一主義だ」と主張。日本が在日米軍駐留経費負担を増やさない限り、在日米軍を撤退させる考えも示した。>(3月27日「朝日新聞」デジタル)

核兵器の保有並びに使用は憲法上、禁止されていないというのが日本政府の公式見解だ。それを踏まえれば、トランプ氏の発言は、日本の取りうる選択肢の一つを示したものと言える。トランプ氏が大統領に就任すれば、米国が駐留なき日米安保という方向に舵を切るかもしれない。その場合、米海兵隊普天間基地も日本から引き揚げることになるので、普天間基地移設問題と辺野古新基地建設問題、それ自体がなくなる。

世界全体が変革を求めている証だと思う

米大統領選で、泡沫候補とみられていたトランプ氏のような過激発言をする人物が、共和党候補争いのトップを走っているということは、米国というか、世界全体が変革を求めている証だと思う。

オバマ氏というアフリカ系の大統領が誕生したときに、その一端が見えたが、それ以上に価値観の転換が起きているということだろう。頻発するテロ、不安定な金融市場など、様々な問題を抱えた世界が自浄作用を即しているように見える。

現在も、トランプ氏は最後に負けるだろう、という識者が大勢だ。でも、僕はそう思わない。行き過ぎた金融資本主義や、多様な価値観が生む変化を是正していくには、極端なリーダーが必要だと思う。それがトランプ氏だと言い切ることはできないが、少なくとも、平時ではないのだから、僕は本気で彼が勝ったら面白いと考えている。その影響で、日本もかなりの変革が必要になるからだ。

ただ、米国人以外のエスタブリッシュメントは、彼に当選しないで欲しい、と思っていると思うが。