この3年半で何をした? 安倍政権の成績表 since 2012.12

2016.5.10

政治

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前の退陣から数年を経て2012年12月に改めて発足し、この3年半の行政を担ってきた安倍政権。アベノミクス、安全保障関連法案、TPPなどのキーワードは耳に入ってくるが、実際何を行い、何ができなかったのか。経済、外交、安全保障、社会保障などの各方面からその政策実行力を探る。

経済
アベノミクス 三本の矢[1]大胆な金融政策

長引く景気低迷の閉塞感から脱却するカンフル剤として、緩やかな物価上昇を唱え「インフレ年率2%」を具体的に掲げる。これに呼応する形で日本銀行の黒田東彦総裁がさっそく、市中に出回るお金(マネタリーベース)を現行の138兆円(2012年末)から、2年間で一気に倍増する「異次元の金融緩和」を発動、デフレ脱却に挑んだ。結果、1ドル=120円台、日経平均株価2万円台の円安・ドル高を実現。あまりの即効性から世間では「黒田バズーカ」との揶揄も。

輸出が増え企業の収益がアップすれば、必然的に国民の所得も上がって消費支出も上昇、GDPも跳ね上がる、という、いわばマクロ経済の王道に挑む。だが実際はインフレ率も期待通りに上がらず、実質賃金も伸び悩み、1人当たりの実質消費支出も2年連続微減。これには2014年4月に行った消費税率8%による消費の冷え込みも響く。

一方、大企業は軒並み史上最高の高収益を叩き出すが、これが十分に投資へと回らず、内部留保額も史上最高を記録。このため、2016年1月、日銀は日本史上初の「マイナス金利」を断行、企業や投資家、富裕層が溜め込む利益の”吐き出し”を期待するが、一方で市中では金庫がバカ売れし、早くもタンス預金へシフトするという弊害に悩まされている。

経済
アベノミクス 三本の矢[2]機動的な財政出動

これまで歳出削減の旗印の下で建設・土木の公共事業は圧縮の憂き目にあったが、この政策を一転、「国土強靭化戦略」の看板を掲げ、防災・耐震、国土保全をメーンとした公共事業に毎年数兆円規模の予算を注ぐ。これにより市中にお金が出回り、また失業率も低下すれば消費はアップし景気が上向くとそろばんを弾くが、これまでの公共事業縮小の弊害で、建設・土木関連のマンパワーが足りない上、東日本大震災の復旧・復興のためにこぞって動員されているため、人材の奪い合いや人件費高騰という問題も発生。

また、これらの歳出は建設国債で賄われるため、すでに1000兆円を超えている国の借金をさらに積み増す結果となっている。

経済
アベノミクス 三本の矢[3]民間投資を喚起する成長戦略

前述の2本の矢が短期的な効果を目指した”即効薬”なら、こちらはジワジワと中長期にわたり効果が持続する”漢方薬”。「投資促進」「グローバル化」「人材の活躍強化」「新市場創出」からなり、法人税引下げや中小企業へのテコ入れ、女性の活躍推進、インバウンドの招致、海外へのインフラ事業輸出などが柱。

この中でもインバウンドに関しては、「2020年に2000万人」とした目標を2015年にほぼ達成。しかし、ほかが未達のまま「新3本の矢」を放ったのは、「旧三本の矢」の限界を示しているとも考えられる。

新3本の矢

2015年9月に打ち出した「3本の矢」の続編。

[1]希望を生み出す強い経済、[2]夢を紡ぐ子育て支援、[3]安心につなぐ社会保障からなり、それぞれ[1]2020年頃の名目GDP600兆円(2015年500兆円強)、[2]2020年代初頭に希望出生率(国民の希望が叶った場合の出生率)1.8(2014年の合計特殊出生率は1.4)、[3]2020年代半ばに介護離職ゼロ(年間10万人)という目標を掲げる。
ただし、[1]を達成するには名目GDP成長率で毎年3%アップが必須。だが昨今の数値は同0.5%であるため、何か劇的な景気浮揚策がなければ困難。

また[2]は、今後10年余りで実質0.8ポイントの上昇が必要だが、多くの移民を受け入れているアメリカのような国でない限り、成熟社会となった先進国でこれを実現するのは至難の業だ。一部には子育て手当の増額で何とかなるという楽観論もあるが、保育所、保育園・幼稚園の増設・完全無料化や、高校までの学費無償化、さらには子育て世帯への各種補助や、結婚支援策など、これまた劇的な施策を早急に具体化しない限り難しい。

[3]に関しても、これまで政府は在宅介護の推進で社会福祉予算の圧縮に挑んでいた。それだけに、施設介護への方向転換 となれば、ただでさえ膨張する同予算はさらに膨張し、財源確保で頭を悩ますという呪縛に陥りかねない。

経済
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)

オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、アメリカ、ベトナムの計12カ国で進めてきた貿易自由化を目指す経済連携協定。2015年10月に5年越しで大筋合意。だが交渉の立役者・甘利明TTP相はスキャンダル発覚で辞任。

経済
ビジット・ジャパン

「外国人旅行者を2020年に2000万人」の目標を5年前倒しし、2015年にほぼ達成。目下「2030年に6000万人」と上方修正。

安全保障
安全保障関連法・集団的自衛権の一部容認

「違憲だ」と野党からの批判を浴びながらも2015年9月に成立、2016年3月29日から施行。ただし、安保法制の肝の一つであるPKOでの「駆けつけ警護」を実際に自衛隊の任務として追加することを夏の参議院議員選挙後に先送りする模様で、早くも政治的駆け引きに使われているとの指摘もある。

社会保障
社会保障と税の一体改革

少子高齢化に伴い急増する社会福祉予算を安定した財源で賄うため、消費税をアップするという施策。民主党政権時代から、民主、自民、公明の3党が合意。安倍政権はこれに従い、2014年8月に消費税を8%にアップ。

また、当初2015年10月に同10%へと引き上げる計画だったが、8%に引き上げた際に消費が落ち込み、デフレ脱却やGDP増加にもマイナスになったことから、半年先送りし2017年4月の導入を確約。ところが、参院選挙への影響も加味してか、安倍総理は増税に否定的なアメリカのノーベル経済学者などをわざわざ招聘して意見を聞くなど、10%アップが徐々に怪しくなってきている。

外交
対アメリカ

歴代政権と同様、日米同盟を基軸とするが、「戦後レジームからの脱却」を標榜する安倍政権は、”アメリカと親密ながら独自の全方位外交”を志向。TPPの大筋合意で対米関係はより緊密になったものの、出口の見えない沖縄普天間基地移設問題が両国関係を阻むボトルネックとなっている。また、尖閣問題で一時、中国と険悪な関係になった際には、対中関係をこじらせたくないアメリカからクギを刺される場面も。

外交
対中国

尖閣問題で一時かなり険悪なムードとなったが、2006年に「戦略的互恵関係」を宣言するなど基本的に中国を重視。一方、南沙問題など中国の軍事的海洋進出に対抗するためか、ASEANやオーストラリア、インドなどと安全保障・防衛分野での協力強化を推進。

外交
対ロシア

ロシアとの関係強化にも積極的で、北方領土の早期返還を目指すが、2014年のクリミア半島併合で欧米とロシアの関係が冷え込むなか、難しい舵取りを迫られている。

外交
対北朝鮮

核・弾道ミサイル開発を強行する北朝鮮に対しては断固たる態度で臨み、米韓とも緊密に連携、国連制裁決議よりもさらに厳しい、全面禁輸措置を独自に推進。ただし、これにより拉致問題の解決が遠のくという懸念も。

外交
沖縄基地問題

2014年11月の沖縄県知事選で、政府が計画する普天間基地の辺野古移設案に賛成の現職・仲井眞弘多氏が破れ、移設反対を唱える翁長雄志氏が知事に就任。辺野古埋め立て承認を取り消すなど、紛糾は激しくなる一方で、解決の糸口はまったく見えない状態。

社会
地方創生

2014年に地方創生担当大臣として石破茂を起用、「まち・ひと・しごと創生法」「地域再生法改正案」など着々とお膳立て。地方の過疎化と東京への一極集中を是正、日本の活力を再生するという壮大な戦略で、安倍総理が悲願とする道州制のための第一歩ともいえる。

社会
東京オリンピック2020

安倍総理が自らプレゼンに赴き、懸念された福島第一原発問題に関し「アンダーコントロール」とアピール、これが功を奏したのか、2020年の東京五輪開催を勝ち取る。しかし、新国立競技場建設をめぐるドタバタやエンブレム問題など、マイナスイメージが絶えない。

社会
議員定数是正

2016年2月、衆院議員定数削減で与党・公明党の了承を獲得。小選挙区の「0増6減、区割り見直し」を先行、比例代表は「0増4減」を目指す。そもそも野田前政権が解散総選挙に臨んだ際の条件として、安倍氏はこれを約束していたが、抜本的な見直しは2020年以降に先送り。

社会
選挙権年齢引き下げ

2015年の「国民投票法」改正による投票権年齢引き下げに伴い、選挙権も18歳以上に引き下げられた。2016年夏の参院選より適用。