世間の認識とずれたサービスや宣伝を実施して、SNSを中心に批判を浴びる企業が増えている。最近で挙げるなら日清のCMとエイチ・アイ・エスのキャンペーン。どちらも企画性が高く、アイデア満載のコンテンツだったが、時勢を見誤ったためにネット拡散力のベクトルがおかしな方向に向かい、思いもよらない(?)被害を被った。似たような案件ながら、結末の違いが企業の特性を印象づけている点が興味深い。
実は計算?炎上が宣伝になった珍しいケース
日清食品 CMに不倫タレントを起用(2016年4月):「カップヌードル」のCM「OBAKA’s UNIVERSITY」シリーズ
最近の”間違える企業”の例といえば、やはり「日清カップヌードル」だろう。ビートたけしが学長を務める大学「OBAKA’s UNIVERSITY」という設定の新シリーズCMを2016年3月30日から放映したものの、不倫騒動の矢口真里や、ゴーストライター騒動の新垣隆を”教授”と起用したことで「不倫や虚偽を擁護しているように見える」などのクレームが殺到。放映から1週間後の4月7日にCM放映中止に追い込まれたのである。
「カップヌードル」は、梅宮辰夫にセーラームーン風コスプレをさせたり、古谷一行に「犬神家の一族」のパロディをやらせたりとかなり”攻めたCM”で知られている。キャッチコピーもずばり「いいぞ、もっとやれ。」。当然、矢口・新垣のキャスティングも完全に”毒のある笑い”を狙ったもので、一部からは「おもしろい」と評価された。しかし、日清側が想定していた以上に、ネットの反発が強かったのである。
なかでも、批判が集中したのが不倫擁護だ。当時、ベッキーの「ゲス不倫騒動」が注目を集めており、ネット世論では、不倫する女性タレントは目に入るだけで不快という声が目立っていた。そこへ、神経を逆なでするようなCMを投入した日清は、完全に”世論を見誤った”といえる。
ただ、その一方で今回の騒動自体が”炎上マーケティング”ではないのかという見方もある。CM放映中止の5日後に発売した「カップヌードル リッチ」がバカ売れしているのだが、これにはCM中止がテレビや新聞でも取り上げられたことが宣伝になった部分も否めないというのだ。
確かに、このCMは”批判によって炎上した”と思われているが実はそうではない。Yahoo!リアルタイム検索によれば、CM放映開始直後のツイートは2000件前後に跳ね上がったものの、以降は右肩下がりで炎上というほどでもない。それが一気に6000件を超えたのは、CMを中止した4月7日。つまり、このCMは放映中止によってはじめて炎上したのである。
日清食品ホールディングスの安藤宏基代表取締役社長・CEOは、2015年11月4日の日経トレンディで自社のブランドマネージャーには、「話題が広がるシナリオが書けるセンス」を求めているとして、理由をこのように語っている。
「重視しているのはSNSでの反応です。ここで話題になれば、テレビCMを打っていたときよりも、売れ行きが3~5倍跳ね上がります」
不謹慎CMは、世論を見誤ったのではなく確信犯的な話題の広がるシナリオだったのか……。真相はわからない。
即日中止の迅速さがヘタレ感を際立たせる
エイチ・アイ・エス セクハラまがいのキャンペーン(2016年5月):「『東大美女図鑑』の学生たちが『あなたの隣に座って現地まで楽しくフライトしてくれる企画』」
企業の常識やモラルが厳しく問われたものの、しっかりと実は取った日清とは対照的に、”ただ叩かれだけ”になってしまったのが旅行会社のエイチ・アイ・エス(H.I.S.)だ。
2016年5月11日、H.I.S.は「『東大美女図鑑』の学生たちが『あなたの隣に座って現地まで楽しくフライトしてくれる企画』」を発表。「東大美女図鑑」とは、東大生が企画運営している写真誌で、”知性と美を兼ね備えた東大美女”が掲載されている。抽選で選ばれると、この東大美女が飛行機の中で隣に座り、それぞれ専攻している分野や雑学について語ってくれたり、子供の夏休みの宿題の手伝いをしてくれたりするというのだ。
ただ、どんなに東大の知性をアピールしても、やはり”空飛ぶキャバクラ”の印象は拭えず、発表直後から「女子大生を売り物にしている」などの批判が殺到。H.I.S.は「不快な思いを感じさせる企画内容で、深くおわびします」とすぐさま謝罪し、その日のうちに中止を発表したのだ。
企業広報の中で、キャンペーン中止騒動で名が挙がるのはUCC上島珈琲だ。2010年、コーヒーに関するつぶやきを察知すると自動でメッセージを送るbot(ボット)を用いたSNSキャンペーンを行なったのだが、開始直後から「スパムを送りつけられた」など批判が殺到。2時間弱で中止を決定し、真摯に謝罪をするという姿勢が”神対応”として評された。
そんな成功事例を真似たのか、わずか5時間でキャンペーン中止をしたH.I.S.だったが、ネット上ではUCCのように評価されるどころか、”ヘタレ”と追い討ちをかけるように酷評されてしまう。これだけ攻めた企画をぶちまけたわりに、思いのほかあっさりと撤回をしたことで、「思いつきの企画だったのか」「なんの信念も感じられない」とH.I.S.の軽さを印象づけてしまったのだ。
実はこのキャンペーンは、”空飛ぶキャバクラ企画”ではなく、知識を持った東大女性が一緒にフライトしてくれるという、”少しの変化”によって旅を大きく変えることができるのではないか、という仮説のもとで、当選者はモニターとしてその後に意見などを述べる検証プロジェクトの一環だった。そのような企業側の意図はほとんど世に伝わっておらず、H.I.S.は”空飛ぶキャバクラ”をキャンペーンにした企業だというイメージがついた。
たとえ批判を浴びようとも、企業としては失敗をした理由や、本当は何をを意図したかったのかをしっかりと説明をしなくてはいけない。それをやらず、とにかく迅速な火消しだけを求めたH.I.S.は二重の意味で”間違えた”といえる。