「候補者と有権者はネットによって”乾いた関係”にならなければならない」マニフェスト提唱者・北川正恭氏インタビュー

2016.09.12

政治

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元三重県知事でマニフェストの提唱者でもある北川氏は、政権批判をするばかりで独自の政策が見えてこない今の野党をどう見ているのだろうか。与野党の正しい関係性と、野党が抜本的に良くなるための改善策を聞く。

 元三重県知事

北川正恭 きたがわ まさやす

1944年11月11日生まれ。三重県出身。早稲田大学第一商学部卒。早稲田大学政治経済学術院教授。三重県議会議員、衆議院議員を経て、1995年三重県知事に当選。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提言。2期務め、2003年4月に退任。

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何よりも”未熟”だった民主党政権

そもそも単一政党主導による政権が54年も続くこと自体が民主国家にしては珍しいことでした。それは、池田(勇人)内閣(1960年~)の高度経済成長がうまくいって、その財産で生き延びてきたからですね。そんななか、2009年に民主党が政権を取って、1955年以来、初めて政権交代したわけです。

政権交代した要因のひとつは、”成長社会”が”成熟社会”になったこと。もうひとつは”紙の文化”が”ネットの文化”になり、デモクラシーのあり方に変化があったこと。

日本の政治は構造的にも発想的にも変わらざるを得ない状況でしたが、54年も続いた既存の権力を変えていくわけですから、相当無理があるわけですよ。そこに初めての政権という経験の無さ、未熟さが表れた。

徐々に自民党が巻き返しを図ってきて、結局2012年の選挙で大敗し、今の安倍政権になっているというわけです。安倍首相はアベノミクスなどの新しい形で問題提起を行ない、株価を上げるという作戦が功を奏しました。

民主党はその後、離党者が続出。初めての政権だからうまくいかないのが当たり前ですが、総理経験者が不必要な発言を繰り返したことで、決定的にマイナスのイメージがついてしまいました。政権失敗の影響はあまりにも大きく、立ち上がれないほどダメージを負ってしまったのが今日の状態ですよね。結果として、野党は力を失ったわけです。

北川
民主国家には「与」対「野」の構図が不可欠

55年体制のなかでは、与党(自民党)の中に野党があるという時期もありましたが、それではあまりにも結論が出なかった。今は逆に安倍首相に権力が一極集中していて、議論されていない。

やはり、「与」に対して「野」がないと民主国家は成り立たないのです。そのためにも今は、抜本的に与野党関係を改めていかないといけない。特に民進党は大きな場面転換が必要です。

まったく新しい政治スタイルの指導者が出るか、4党共闘でいくのか、あるいは独自で確立するか。今はその端境期にあるので、分裂や弱体化はある程度仕方のないことだと思います。

まず、与党に対してのはっきりとしたオポジットが野党にないといけないですよね。考え方としてサプライサイド(供給・企業・資本家)の立場に立つか、ディマンドサイド(需要・労働者・生活者)に立つかというのがある。民進党がつくべきはディマンドサイドだと思うんです。

私は今後、真の意味でのディマンドサイドの政党が生まれてきて、それでサプライサイドの自民党と2つが競っていくことになると思う。今は自民党と民進党と似たような人がごちゃ混ぜになっていてわかりづらくなっていますが、そこは明確に対立軸を出していかないと、民進党はいずれ崩壊してしまうでしょう。

北川
与党と闘うには党内の路線論争が必要

今の民進党ができることは、まず、新しい民進党を打ち出すために国民の理解を得られる人を代表に選ぶこと。ただ、それで独自色が出せなければ意味がない。再編路線で押していって党内を収めないと、元の木阿弥ですから。

例えば、1997年にイギリスの首相になった労働党のトニー・ブレア氏は、当初、党内でも圧倒的に違和感がありました。それを彼は、2年かけて大議論するんです。そして彼は、党内で97%の支持を得るなかで保守党を倒して、18年ぶりに政権を交代させます。

民進党では、そういう党内の路線論争がまだできていない。新代表も一遍それをやって、与党と闘う基盤を作ったほうがいいですね。

 

ネットで変わる政党の形、選挙の形

行政にとって、それぞれが勝手なことを言う国民個人の考え方は厄介なものでした。だから、意見はまとめてくれということで、自治会や農協、医師会などができて、権力構造になっていきます。

そうなると権力の都合で物事は決まっていきます。本来はディマンドサイドである生活者を中心にしてマジョリティを取って決めていくべきなんですけど。

しかし、これからの時代はインタラクティブに情報が飛び交いますから、相当な勢いでデモクラシーが変わると思います。ネットを介してディマンドサイドがモノを言うんです。

都知事選で小池百合子氏が勝ったのはSNSの力が大きかったし、これを完全に使いこなせれば、民主主義の多数はエビデンスや、ビッグデータに基づいて政治をやるということに変わってくると思う。一旦非効率になるかもしれないが、その荒波を乗り越えた先には、効率向上が待っているでしょう。

マニフェストのあり方も変わってくると思います。私が今、取り組んでいる「マニフェストスイッチ」というプロジェクトがありまして、それは簡単に言うとスマホやタブレットから個人のマニフェストを見ることができるものです。

北川

偏差値教育で育ってきた若者がこういったものを見るようになったら、選挙への考え方が明らかに変わってくる。さらに、AI(人工知能)が投票を左右する未来がくるかもしれない。「この候補者はこういう政策が強く、あなたが求めている像とマッチングしているのでおすすめ」というように、AIが総合的に議員のスペックを判断して提案してくれるようになる。そうやって候補者と有権者は、”乾いた関係”になっていったほうがいいんです。

民進党をはじめとする野党は、今後、いかに民衆に対して的確な政策を、SNSに耐えられる方法で打ち出せるかが、選挙に勝つポイントになっていくと思います。