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日本市場を襲う超肉食系ファンド 倫理なき空売りを糾弾せよ

2016.09.12

経済

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超肉食系の空売りファンドがこぞって日本に上陸しつつある。日本の株式市場を攪乱させかねない際物ファンドに行政や金融関係者は眉をひそめ、狙い撃ちされかねない企業は戦々恐々となっている。

違法すれすれな空売りの手口

「限りなく黒に近いグレーなディール(取引)だ。SEC(証券取引等監視員会)は風説の流布として摘発に動かないのか」

大手証券幹部がこう指摘するのは、伊藤忠商事株について事前に”空売り”のポジションをつくったうえで、「(伊藤忠商事は)過年度決算で利益の水増しを行っている」とするレポートを公表し、株価が下落したところで買い戻しを行い、利益を得たとみられる米ファンド「グラウカス・リサーチ・グループ」のことだ。大手機関投資家幹部も「外資ファンドが自社に有利なポジショントークをマスコミに流し、市場が反応したところで売買し利益を得るケースはあるが、ここまであからさまなやり方は見たことがない。証券会社でもリサーチ部門と自己売買部門はファイヤー・ウォールで厳格に分けられている」と呆れる。

グラウカスはコロンビアの石炭事業についてのレポートで、[1]2015年3月期決算で持ち分法投資の対象から外して、減損損失の計上を回避した。[2]2015年、タイのCPグループと共同で2割出資し、中国中信集団(CITIC)を持ち分法適用会社としたが、出資比率からみてCITICに重要な影響を及ぼせず妥当ではない。[3]台湾系食品大手の頂新グループを持ち分法投資会社から非支配株主持分に区分変更し、約600億円の再評価益を計上した――。という3点を不正な会計処理と指摘している。これに対し、伊藤忠商事は鉢村剛・最高財務責任者(CFO)が会見し、「会計処理はすべて適正」と反論した。

大手機関投資家幹部は、「グラウカスは伊藤忠商事の痛いところを突いていることは確かだが、不正な会計処理とはいえず、伊藤忠商事の反論には頷ける」と語る。むしろ問題はレポートに市場が過剰反応し、グラウカスの思惑通りに伊藤忠商事の株価が10%も下落したことだろう。

グラウカスは、米国、香港、インドなどの市場で同様のやり方で22社に空売りをしかけ、うち5社の経営者が証券詐欺罪などで起訴されている。日本についても約1000社の企業を選び、一社あたり500~600時間をかけて調査し、不正を暴くという。その第一号の案件が伊藤忠商事となったわけだが、日本取引所グループの清田瞭CEOも「(グラウカスの取引は)倫理的に若干、疑問がある」と指摘している。

空売りファンド処女地の日本

グラウカスは、空売りファンドとしての規模は小さく、国際的な認知度も低いが、そのグラウカスに続き日本に上陸したのが、中国企業の空売りで世界的に名を上げた「シトロン・リサーチ」だ。血祭にあげられたのは、つくば市に拠点を置くベンチャー企業「サイバーダイン」(東証マザーズ上場)。筑波大学教授の山海嘉之氏によって設立されたサイボーグ型ロボットの世界では著名な企業だ。

シトロン・リサーチの着眼点はシンプルだ。企業実態と株価の異常なギャップを捉え、投資家に売り推奨するレポートを無料で発信して、自らは空売りで儲ける。サイバーダインについても、8月15日に同社の株価は事業実態からみて過大評価されており、株価は大幅に調整されるべきだとレポートした。

サイバーダインは、「当社の事業特性を理解せず、分析も非常に浅いものだ」と反論したが、1週間あまりでサイバーダインの株価は25%も急落、シトロン・リサーチはしてやったりとなった。

アンドリュー レフト氏率いるシトロン リサーチが名を上げたのは2011年~2012年にかけて、中国企業の米国上場企業(ADR)の中に粉飾決算や架空のビジネスモデルがあると指摘したことに始まる。槍玉に挙げられた中国企業の中には株価が暴落し、危機に瀕した銘柄もある。その後、”シトロン・レポート”をきっかけに、しばらくの間、米国に上場する中国企業全般が疑心暗鬼の目で見られたほどだ。

但し、シトロンに対しては、米国でも空売り推奨された企業やアナリストからは、「解釈が間違っている」、「事実無根」との批判も多く、「意図的にネガティブな情報を流布している」という見方も少なくない。大手通信社ではシトロンのことを「空売り事業者」とのタイトルを冠して記事化しているほどだ。

グラウカス、シトロンとも、そうした米国での批判を避けて、空売りファンド処女地の日本でひと儲けしようということだろう。

SECや日本取引所グループなどは摘発に動くべき

空売りファンドには、古くは「エンロン」の空売りを仕掛けた「キニコス・アソシエイツ」のジェイムス チェイノス氏や、「グリーンライト・キャピタル」のデイビッド アイホーン氏などが有名だが、自ら空売りポジションをつくった上で、意図的に売り推奨レポートを発信して利益を上げるビジネスモデルとは一線を画す。

グラウカスの調査ディレクターのソーレン アンダール氏は、日本取引所グループの清田CEOの「倫理的に若干、疑問がある」との発言に対し、「中立であるべき取引所の発言として信じられないほど不適切だ」とした上で、「空売り投資家は企業の経営陣による不正を防止し、そのような行動はあった場合は第一の発見者になるケースが多い。(清田氏の発言は)活発な空売り投資家の世界が市場にもたらす多くのプラス面への無知が露呈した」と糾弾した。

確かに、空売り投資家は市場の売り買いを活発化させ、流動性を高めることは確かだ。しかし、「狼少年のように市場にグレーな情報を流して混乱させ、自身はしっかり儲ける手法には疑問を感じる」(大手証券幹部)という声は強い。

第3、第4の伊藤忠商事、サイバーダインが出る前にSECや日本取引所グループなどは摘発に動くべきだろう。

これは確かにやり過ぎだろう

 

自分で空売りしてからマイナスレポートを出すなど、風説の流布以外の何物でもない。もし、万々が一、伊藤忠商事が不正をしていたとしても、空売りをするなら公表する前に、内々に伊藤忠商事自身に聞くべきだ。しかも、下がったところですぐに買い戻しをしているとしたら、これは違法だと思う。

百歩譲って、グラウカスが公表した内容が真実だったとしても、それが証明された時点で買い戻しをしなければ、倫理的にもおかしい。格付け会社も自己売買はしないし、本文にある通り、証券会社も自己売買部門とリサーチ部門は厳格なファイヤー・ウォールが設けられている(それでも、編集子は反対だが)。

金融市場は巨額なお金が動く場所なので、特に厳格に運営する場所であるべきだ。もし、伊藤忠商事の潔白が証明されたら、グラウカスにはインサイダー取引と同じように刑事罰と利益の数倍の課徴金を徴収すべきだ。

 

政経電論せいけいでんろん

「政経電論」の編集部です。佐藤尊徳(そんとく)編集長の下、若い世代に向けて政治・経済・社会問題を発信しています。イノベーションや働き方改革、北欧型の社会保障、国防、原発、クジラ等に注目中。

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