改正入管法は圧倒的労働力不足に対処するための第3の案

来年4月施行の改正入管法は建設や介護など14業種を対象に、新しい在留資格の外国人労働者を5年間で約34万人を受け入れる。

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改正入管法は圧倒的労働力不足に対処するための第3の案

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2018年12月8日に成立した改正出入国管理及び難民認定法。国会審議で法務省が提出したデータに誤りがあったことや、具体的な内容は省令で決めるとして審議17時間で衆院を通過した拙速さも見え、批判も多かったのは記憶に新しい。今回の改正案の趣旨は何か。発案の中心にいた平将明議員に聞いた。

逼迫する労働力不足をどうやって補うか

今回の出入国管理及び難民認定法、さらに法務省設置法の改正の前提には、今後の日本の人口減、それに伴う労働力不足があります。国立社会保障・人口研究所による生産年齢人口(15~64歳)の推計では、2015年は7728万人いた生産年齢人口が、2065年には4529万人まで落ち込みます。

破壊的な数字です。労働力需給でみると2030年には790万人不足します。女性・高齢者の社会参加や就労促進策、イノベーションなど最大限駆使しても182万人不足する想定になっています。今でも慢性的な人手不足を感じている人は多いのですが、さらに加速度的に深刻な事態が顕在化してくるのはまさにこれからなのです。

私は自民党の経済成長戦略を立案する経済構造改革特命委員会の事務局長を務めていたので、経済成長戦略の観点から話をさせてもらいます。言うまでもありませんが、経済成長は3つの要素からなります。それは「労働力」「資本」「生産性」です。

自民党が政権を奪還してから、アベノミクス政策の下、これらの視点からもさまざまな政策を実施してきました。自民党経済構造改革特命委員会においても、「資本」に関連する分野ではESG投資の推進をいち早く提案し大きな成果を得ています。「生産性」については、まさに「生産性革命」としての政策パッケージをまとめました。

»「生産性革命」を実現する “超”規制改革[平将明の“言いたい放題”]

しかし、自らの反省にもなりますが、「労働力」についての提案は弱い部分がありました。私は成長戦略をテーマにしたさまざまなセッションにパネリストとしてよく引っ張りだされますが、著名なエコノミストたちとのパネルでは、必ず労働力不足の対応について指摘されます。明快に政策で反論できない時期が続きストレスがたまる日々でした。

これからの日本の労働力をどう確保していくか? 少子化対策が最重要なのは言うまでもありませんが、それ以外にも大きな方針としては3つの柱があります。

  1. 女性・高齢者の社会進出の応援と活躍推進
  2. イノベーション、技術革新。AI、IoT、ビッグデータ、無人化、自動走行、ドローン、遠隔教育、遠隔医療といった技術を組み合わせた生産性革命を通じて人手不足を補う。
  3. 外国人労働者の受け入れ

安倍政権の“いわゆる移民政策”はこれを採らないという基本方針の下、これまで政府と自民党の政策は[1]と[2]を中心に議論を重ねてきました。しかし、先に挙げた労働力需給の数字を見れば、それだけでは足りないことは誰の目にも明らかです。

[3]の外国人労働者の受け入れを、先の総理の基本方針との整合性を図りながらどのように実現するかという難題に、いよいよ真正面から向き合うことになったのです。

自民党は保守政党です。自民党の支持者の中には移民政策は絶対反対という人たちは多い。「移民政策」ではなくても、将来的に移民政策につながりそうな可能性のある政策には基本反対という議員が大勢を占めていました。そういうなかで、私が潮目の変化を感じたのは2016年後半から2017年の前半の頃でした。

潮目の変化、国会議員も地方の人手不足を痛感

この頃に国家戦略特区で、外国人技能実習制度を使って、新潟の農業の分野で外国人労働者が働ける仕組みを作りました。

自民党の議員なら誰でも参加できる政務調査会の会議(いわゆる「平場」の議論)に参加したときのこと、また、多くの議員が慎重論、反対論をぶつのだろうと覚悟して行くと、今まで「外国人~」という政策には一律反対していた人たちからも「なぜ農業の外国人実習生の仕組みを特区だけで、新潟だけでやるのか。全国で展開すべきだ」という声が上がりはじめたのです。

ずいぶん空気が変わったなと思いました。やはりそれぞれの選挙区に戻ると、支持者の方々の声から圧倒的な人手不足を実感するのでしょう。それで国会議員の意識も変わってきたのだと思います。

潮目の変化を察知した私は、2017年の年末、衆議院議員選挙の公約でもある「生産性革命」を実現する成長戦略政策パッケージの議論の中で、技能実習制度をベースとした外国人材活用のための新たな就労資格の創設を岸田(文雄)政調会長に提案。その後の経済構造改革特命委員会の議論を経て、今年4月にまとめた今後の成長戦略「経済構造改革戦略:Target4」にこの提案を盛り込むことができました。

外国人技能実習制度を活用して日本で働きたい外国人労働者を確保する

私の提案は、簡潔に言うと外国人技能実習制度の活用です。外国人技能実習制度は本来、人手不足に対応するために作られたものではなく、外国人に日本の技能を勉強してもらい、本国へ戻ったらその技能を活用して国に貢献してくださいという“技術移転”のための制度です。

私の選挙区は大田区で、町工場もたくさんある地域です。ずいぶん古くから外国人技能実習制度で外国人労働者を受け入れています。彼らが滞在している3年~5年の間に、日本語が上手になって、コミュニケーションも取れるようになって、技術も覚えて、ようやく仕事も一人前にできるようになる。でも実習期間が終わって本国に帰ってしまったら、現状では、もう一度その仕組みで日本に戻ることはできません。

彼らが本国へ帰って、その技能を生かして仕事するのであればいいのですが、そのまま日本で働きたいという人もたくさんいます。ようやく仕事も覚えて、日本になじんで、技術も習得したのに、全員帰国するという選択肢しかないというのは、雇用主からも残念というかもったいないという話も受けていました。

であれば、外国人技能実習制度に“おかわり”できる制度を作ったら良いのではないかというのが私のもともとの発想でした。技術移転という制度の本質は生かしながら、それでも長く日本で働きたいという人がいたら対応できるようにする、つまり技術移転と就労の両方の機能を外国人技能実習制度にもたせるわけです。

「特定技能2号」と「高度外国人材」

具体的に言うと、今の外国人技能実習制度は最長5年ですが、それが終わればさらに5年延長し、技術や技能を磨き、他の実習生や外国人労働者たちのマネージャーなど管理職も担える人材に育成する。法律でいうところの「特定技能1号」はこのようなイメージでした。そして10年経ってそれも終えると、日本語も上達し、日本社会との相性や素行も見極められるので、問題がなければ「特定技能2号」の取得が可能となります。

「移民政策じゃないか」とのご批判をいただくのはこの「特定技能2号」の在留資格です。今回の改正は外国人技能実習制度をベースにしています。特定技能2号になるまでは段階を踏んでいくと10年かかります(試験でパスすれば5年)。その間、家族の帯同も認めていません。また、その間に税金社会保険料などを納めているか、犯罪を行っていないかなども見極めていきます。

一方で、現状国内には弁護士や会計士、医者、大企業の役員などの外国人の高度人材がいます。彼らには最短1年、通常でも3年程度(ポイント制、獲得ポイントで異なる)で永住権を認めています。特定技能2号資格まで取得者した人は、日本で育った「高度人材」であると言えるのではないでしょうか。

今回の法律で定めたキャリアを経てきた人にも、高度人材と同じ対応の道が開けることが重要だと私は考えています。今回の制度は、[1]技能に着目、[2]家族の帯同の制限、[3]在留期間の設定(2号資格取得者も毎年更新)の3点を設けることで“いわゆる移民政策”とは一線を画しています。

外国人労働者に選んでもらうための制度設計を

ただ、外国人技能実習制度は問題点もあります。現状は技能実習や技術移転のための制度なのに、今回の改正以前から人手不足を補う手段に使われている実態があったということ。その結果、低賃金でこき使ったり、長時間働かせたりといったことが起きていて、中には失踪した人もいた。制度と現場で“ねじれ”や“ひずみ”があったのです。それはこの機会に徹底的に是正したい。

まず、これからは正々堂々と就労のための資格でもある、ということです。外国人労働者にも、日本人と同じ水準の最低賃金以上の賃金を支払う。さらに、企業には社会保障費も負担してもらって、社会保障を受けられる仕組みにしっかりと改める必要があります。

また、外国人労働者にもマイナンバー制度の活用を検討していきます。顔写真付きのマイナンバーカードを持ってもらう。社会保険や税金などの管理できますし、マイナンバーとひもづければ保険証を貸し借りするといった不正も防げます。

失踪者が多かったのも、今の制度では働く先を変えられなかったことが大きな原因でした。一度この仕組みで入国すると、技能実習生にはもともと決められていた先以外の職場を選択するオプションがないので、逃げ出すという事例が多発しました。新たな制度では流動性を持たせて、同じ技能の業界であれば、移ることもできるなどとします。

「技能実習」という名目で長時間労働をさせる企業や最低賃金や社会保障を担保できない企業は、流動性が高まれば、外国人労働者から選ばれなくなるので、いずれ排除されるでしょう。

さらに、法務省もこれまでは出入国管理を中心に担ってきましたが、改正に合わせて従来の「出入国管理局」から、「出入国在留管理庁」とし外局に格上げしてその機能を強化します。出入国だけでなく滞在もちゃんとモニタリングしていくことになります。

こういった制度をしっかり整えて、永住への道筋も見えるようにすることで、外国人労働者にも日本を選んでもらいやすくなるでしょう。

やれることはすべてやる

もちろん、労働力の確保を外国人労働者だけに頼っているわけではありません。最初に述べた女性・高齢者の活用推進や、イノベーションも重要です。

「OriHime」という分身ロボットがあるのですが、ロボットというとAIなどを想像しますが、これは“分身”というだけあって人間が遠隔で動かすものです。例えば、ある会議室に「OriHime」を置いておけば、別の場所にいながら操作して会議に出席ができる。ロボットがいると、テレビ画面を通すよりも何か“その人がその場にいる感じ”になるのです。

国会改革にも使えますよね。海外にいる外務大臣が分身ロボットを使って国会答弁席に立つ、みたいな(笑)。ちなみに平事務所では、2019年から、私が国会に張りつきになる期間、地元選挙区の蒲田事務所での会議には、この「OriHime」で私は出席することにしました。

実際に中央省庁の職員の方で、病気で身体が不自由になってしまった方がいますが、病院のベッドにいながら役所にいる「OriHime」を操作して働いている例もあると聞いています。

先日、「OriHime」が働く期間限定のカフェをやっていたので石破(茂)さんと行ったのですが、私たちのテーブルを担当してくれた「OriHime」は、日常的に介助が必要で外で仕事ができなくなってしまった女性が島根県の自宅のベッドから遠隔で操作していました。彼女が「OriHime」を介してテーブルでオーダーをとりながら、いろいろな会話もして、私たちも楽しい時間を過ごすことができました。

今のテレワークはコールセンターだったり、あとは専門性を持った知的労働だったりしますが、分身ロボットがあれば、これからは接客業もできるようになります。障がいを持った方たちや高齢で外出しにくい方たちでも、「OriHime」を通して社会参加することができるようになるのです。

労働力不足に関しては少子化対策を最重要課題で取り組んでいますが、それが劇的に効いたとしても労働力の分野での効果は20~25年後の話ですから、今後数十年は、労働力が圧倒的に不足していきます。

やはり、女性・高齢者の活用推進やイノベーション、そして日本で頑張りたいと言ってくれる外国人労働者、そういうすべてのパッケージで成長戦略を進めていかなければなりません。