「生産性革命」を実現する “超”規制改革
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「生産性革命」を実現する “超”規制改革

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第4次安倍内閣の下、「経済構造改革特命委員会」の事務局長として成長戦略をまとめている平将明議員。キーワードはやはり「規制改革」だ。日本の成長を妨げる“何か”を取っ払うイノベーション推進政策について聞いた。

「生産性革命」に欠かせないイノベーション

今回の総選挙で安倍総理は2つのことを言いました。ひとつは北朝鮮の危機にどう対応するか、もうひとつは人口減少のなかでも日本は経済成長ができるのか、ということ。その中で、“2つの革命”をやると言いました。1つ目は「生産性革命」、2つ目が「人づくり革命」です。

「生産性革命」を担う「経済構造改革特命委員会」(以下、特命委員会)は、昨年の9月、当時の茂木敏充政調会長が成長戦略を策定するために新しく作った自民党の特命委員会です。私は事務局長代理として成長戦略をまとました(2017年5月10日 自民党「経済構造改革に関する特命委員会」の最終報告) 。今年の9月に内閣改造に伴う人事で、新たに岸田文雄氏が政調会長に就任し、その下でも特命委員会は続くことになり、私は事務局長になりました。

»異次元の成長戦略~規制ゼロのフリーゾーン特区もつくる

»ビジネスしやすい環境がイノベーションを促す

人づくり革命」の方は、自民党に「人生100年時代戦略本部」ができました。そちらの事務局長は小泉進次郎議員です。2017年度補正予算があるので、成長戦略に関する政策パッケージを取りまとめて政府に出す必要があり、各省庁といま議論を重ねているところです。これにはほとんどの省庁がかかわっています。

各省庁からはエース級が揃っているという。彼らは既存の法律や規制と照らし合わせて政策にアドバイスしたり、問題点を指摘したりする。与党と省庁の間でやり取りをして政策の練度を上げていくわけだ。平氏みたいな人は何を言うかわからないし、勝手に法律を作られたらたまらない。相当真剣になるよね。
野党はこうやってできた政策に文句言うだけだから楽だよな。

生産性革命」と、“革命”というからには飛躍的に生産性が向上しなければなりません。「生産性革命」を起こす最も親和性の高いキーワード、それはイノベーションです。

イノベーションが起きやすくするために最も効果的な政策は規制改革。具体的には、規制改革(全国一律)か、国家戦略特区か、レギュラトリーサンドボックス(サンドボックス型特区)です。

広範囲に影響する規制改革(全国一律)

規制改革(全国一律)としては、「電波(周波数)」に焦点をあてるつもりです。イノベーションの過程のなかで、今後ますます電波の需要が高まります。政府部門、公共部門に割り振られている周波数をしっかりモニタリングして、無駄がないかなどをチェックしながら集約できるところは集約し、結果として半分ほどの周波数帯を民間に放出しようと考えています。

現在、消防、警察、防衛などに周波数を割り振っていますが、高額な使用料を負担してビジネスをやっているわけではないので、効率的に使っているかチェックが必要です。放出可能な政府部門、公共部門の周波数は、一説には3兆円~3.5兆円の価値があるとも言われています。

実はアメリカもイギリスもすでにこういったことに取り組んでいます。アメリカは言ってみれば有機的に、柔軟に周波数をシェアしています。例えばアメリカでは沿岸警備隊が使っている周波数がありますが、内陸部では使うことがありませんので、それらの地域では他の主体にシェアできるようにしたり、普段は民間に開放していて、緊急時には返してもらったりなど、そういったことをやっています。

イギリスも2012年にロンドンオリンピックがあったので、それに向けて割り振りをモニタリングして整理をし、放出させるということをしました。

日本も2020年に東京オリンピック・パラリンピックがありますし、4K・8Kテレビなどの超高画像の放送も普及していきます。さらに、今年10月に準天頂衛星みちびき4号の打ち上げが成功し、来年4月から準天頂衛星の活用が可能になると、GPSの誤差の精度が5センチ程度になるといわれています。自動走行やドローン、遠隔医療、などの社会実装は一気に進むでしょう。

イノベーションのボトルネック解消が成長戦略に

Society5.0やインダストリー4.0といったネットワークが要となる次世代の技術や社会構造を目指す以上は、電波がとても大事になってきます。電波が足りない状況をそのままにしておくといずれイノベーションのボトルネックになってきます。つまり、電波の集約と開放が成長戦略そのものと言っても過言ではありません。

公的電波の次は民間電波に取りかかります。放送用の電波はその価値に比べて十分に有効利用されていないのではないかとの指摘もあり、しっかりモニタリングし、放出できるものは放出してもらって、最もイノベーションが起きやすい分野に割り当てることになります。

電波を管轄しているのは総務省ですが、割り当ては行政の裁量でやっていて、割り当て先でどの程度の電波が使われているかのモニタリングは不十分。そんな状況から、自民党の行革本部では総務省に任せていてはダメなのではないか、モニタリングは独立した第3者機関に任せるべきではないかという意見が出ました。さらに電波の割り当ても内閣主導でやるべきだと。

当然、総務省は大反発しました。私は当時、自民党行革本部長代理でしたが、組織改編には時間がかかるので、まずは総務省に一回チャンスを与えるべきだと主張しました。今後一年間で総務省が結果を出すというコミットメントのもと、総務省に取り組んでもらっています。また、公共の電波はまだしも、民間の放送用電波の放出は、テレビ業界の猛反発が予想されます。今後、どちらの主張が合理的か、皆さんに判断していただく局面が出てくるでしょう。

地域限定の規制緩和、国家戦略特区

生産性革命」の方法のひとつに、価格を上げることで劇的に生産性を高める方法があります。私は内閣副大臣のときに、国家戦略特区(以下、特区)の枠組みの中で近未来技術実証特区や地方創生特区を作ってきました。今度は生産性革命地方創生&クールジャパンの視点から、「クールジャパン特区」を作ろうと思っています。第一弾は“ニシキゴイ特区”です。

ニシキゴイ はこれまでほとんど日本のマーケットしか対象にしていませんでしたが、最近では香港やヨーロッパ、東南アジアの富裕層の間でブームになっています。ニシキゴイの生産者はいけすを作る場所を増やしたいと思っているのですが、今はその場所が足りない。一方で農家の人たちは、耕作放棄地や使っていない水田を貸したいのですが、農地法や農振法(農業振興地域の整備に関する法律)があるためにそんなに自由に貸すことができません。特区は地域限定の規制緩和なので、私はその問題をクールジャパン特区(ニシキゴイ特区)で、農地を流動化させ、解決したいと考えています。

このように、「生産性革命」は決してAIや準天頂衛星などを使わなければできないことではありません。果物やニシキゴイ、盆栽、西陣織、輪島塗、信楽焼などなど、日本が古くから持っているモノをグローバルなマーケットで再評価してその価値を顕在させることも「生産性革命」なのです。

近未来技術実証特区や地方創生特区とスキームは同じです。ローテクや地方、伝統文化や芸術の世界でも「生産性革命」ができることを示したいと思っています。

特区は加計学園問題で問題視されたから、政府や省庁としては触れられたくないところだろうな。ただ、安倍首相自身はイノベーション・マインドのある方だから、ここにも忖度が働いているんだろう。特区自体には有用性はあるわけだし、実行していってほしい。

事前規制型から事後規制型に サンドボックス型特区

特区でもまだまだ規制改革のスピードが遅いということもあります。自動運転やドローンは世界でもいろいろなイノベーションが起きていることもあり、そのために“ハイパー国家戦略特区”を作ろうと思っています。それが、レギュラトリーサンドボックス(サンドボックス型特区)です。

レギュラトリーサンドボックス(サンドボックス型特区)は、“事前規制型”の日本の仕組みから、“事後規制型”の仕組みを入れようというものです。安全をさまざまなアイデアで確保した上で、とりあえずやってみる、そして事後的にチェックする画期的な方法です。

基本的に“とりあえずやってみる”というからには、政府も寄り添ってリスクを取ります。民間がやっていることだから知りません、とはしない。一緒にリスクを取って伴走します。

国家戦略特区のトップは総理大臣です。安倍総理も2014年のダボス会議で、「自ら先頭に立ち、ドリルの刃となってあらゆる岩盤規制を打ち破っていく」と言っていたように、総理が最終責任者になっていただかなければなかなか先には進めません。ですので、私はこのレギュラトリーサンドボックス(サンドボックス型特区)の組織も、国家戦略特区同様に総理がトップであるべきだと主張しています。

仮想エリアとアワード型

レギュラトリーサンドボックス(サンドボックス型特区)にも2種類ありまして、特区的特性の強い地域限定の“エリア型”と、地域ははみ出すが参加者やマーケットの規模等を限定する“プロジェクト型”があります。2種類ある理由は、例えばブロックチェーンやフィンテックなど、金融やITの分野ともなるとエリアで制限することが難しいためです。そこで、物理的なエリアではなく、仮想エリアも対象にできるようにしました。これは国家戦略特区におけるバーチャル特区と同じ発想のものです。

また、以前から提案しているアワード型研究開発も実現したいと思います。賞レースでイノベーションを促す研究開発で、米国防総省の下部組織・DARPA(ダーパ、国防高等研究計画局)の災害救助用のロボット競技大会「ロボティクスチャレンジ」などが有名で、Googleの民間月面探査レース「グーグル・ルナ・エックスプライズ」では日本のチームHAKUTOが勝ち進んでいます。

イノベーションはいつだってベンチャーから起きるもの。日本の大企業中心の産官学の連携は、生産性の向上、業務効率アップなどには有効ですが、ベンチャーが参加しやすいアワード型研究開発を新たにビルトインすることで、よりイノベーションが起きやすくなるでしょう。

法体系次第でイノベーションは起きやすくなる

イノベーションが起きやすいアメリカ・イギリス・イスラエルなどの国の法体系は、慣習法・判例法が主体の英米法であるのに対し、日本の法体系は成文法主義の大陸法。英米法には“やってはいけないこと”が書いてあるので積極的にチャレンジしてどんどん社会実装します。

一方、大陸法には“やっていいこと”が書かれていますが、イノベーションが起きて新たなサービスを社会実装しようとすると、法律にはそれを“やっていい”とは書かれていないため、グレーゾーンになりやすい。日本は法律のお墨付きがないと大企業は動きづらく、社会実装が進みにくい。そこでイノベーションはフリーズしてしまいます。

だからといって、国家を運営するための“基本OS”が異なる英米法と大陸法を置き換えようといってもそれはほとんど不可能。そのため、大陸法というOSに、英米法というアプリをインストールしようというのが国家戦略特区であり、レギュラトリーサンドボックス(サンドボックス型特区)なのです。

この問題はかなり本質的なものです。解決しないとイノベーションはなかなか進みません。制度設計で、国家戦略特区やレギュラトリーサンドボックス(サンドボックス型特区)、アワード型研究開発といった制度を取り入れ、イノベーションが起きやすい環境を作りましょうということです。

自動運転やドローンなど、それまで無かったものが出てきたとき、日本の法律ではすでに存在している法律や規制に無理やりにでも当てはめて管理しようとする。だけど、そうすると規制が歪むし、事業者もよくわからないからやめておこうということにもなる。そりゃイノベーションが起きないわけだ。
規制が無ければ民間は必ず何かを生み出す。“何でもやっていい”というレギュラトリーサンドボックス(サンドボックス型特区)から何が生まれるか、ちょっとワクワクするね。