「野菜を食べれば健康」は思い込み? テクノロジーがもたらす“食”の付加価値

2017.12.04

技術・科学

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食料自給率の低迷で危機的な状況にある食料安全保障、栄養バランスの悪化による生活習慣病の増加、食品偽装によって脅かされる食の安全性などなど。日本の食に関する問題は山積している。そんな日本の食料事情を取り巻く諸問題を解決へと導く可能性を持つ、最新のテクノロジーと科学に注目した。

食料安全保障の危機はすぐそばまで来ている!?

これだけ飽食の日本だが、実は「食料自給率」がとても低い。カロリーベースで示すと、日本の食料自給率は38%。アメリカ130%、フランス127%、ドイツ95%、イギリス63%といった先進国に比べてかなりの低さだ。

食料自給率

国民が摂取する食料のうち、国産でどれだけ賄えているかを示す指標。重量で計算する品目別自給率や、ある“ものさし”で換算する総合食料自給率など算出方法はいくつかある。総合食料自給率は、重量を供給熱量で換算するカロリーベース、重量を金額で換算する生産額ベースがある。

飢餓が起きていないことからも、日本という国だけで見れば食料自給率の低さは大した問題ではない。しかし、世界に目を向ければ、2050年までに98億人に達すると予測(国連、世界人口予測2017年改訂版)される爆発的な人口増加による食料需要の増大、その一方で起きている気候変動による生産減少など、食料供給事情は危機的な状況にある。

解決策はあるだろうか?

農業へのテクノロジーの導入を通して、日本人を取り巻く食料事情の改善を目指しているベジタリア株式会社の小池聡氏は、世界の食料事情を次のように語る。

ベジタリア株式会社 代表取締役社長

小池 聡 こいけさとし

1959年東京生まれ。中央大学を卒業後、サンフランシスコ大学経営大学院留学、スタンフォードビジネススクールSEP修了。ISI電通ホールディングス副社長兼CFOを務め、ネットイヤーグループIncを設立し、シリコンバレーを中心にネットビジネスへの投資、インキュベーション、コンサルティング事業を展開。1999年、ネットイヤーグループ株式会社を日本に設立。内閣府や経済産業省、総務省などでIT関連委員を歴任。その後、ネットエイジキャピタルパートナーズ株式会社の代表取締役社長を兼務し、2社の東証マザーズ上場を実現。2010年にベジタリア株式会社を設立し、代表取締役社長としてIoTセンサ事業や農業生産事業を展開、テクノロジー活用による農業の活性化や食糧問題と向き合う。

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ベジタリア株式会社

ベンチャーキャピタリストであった小池聡氏を中心に、植物科学、IoT/M2M、人工知能、データサイエンス、気候変動のスペシャリストが集まって、2010年に設立された“アグリベンチャー”。内閣府が推進する「戦略的イノベーション創造プログラム(次世代農林水産業創造技術)」や農林水産省が薦める「革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)」へ参画するなど、日本における「スマート農業」の普及を牽引している。

「周知のとおり、日本では人口が減少していますが、世界的には増えています。現在76億人の世界人口は、2050年には98億人になると言われています。ということは、およそ30年後には22億人分の食料需要が増えるわけです。現在の約3割にあたる数字を増やすというのは、一朝一夕でどうにかなるレベルではありません。一方で、国連も警告を出していますが、耕作可能地域が激減しています。気候変動の影響も懸念されますが、これまでの作物が育たなくなる可能性も示唆されています」(小池氏)

食料の需要は大幅に増えるが、供給は減少する可能性があるという。そのなかで、日本の食料自給率38%という数字は危機感を伴って響く。実際、食料の安定供給に対する国民の不安は高まっている。

ただ、米の自給率に関しては、政府が保護政策を続けてきた関係もあり、98%と高い。農林水産省の資料によると、自給率の高い米消費が減少し、飼料や原料を海外に依存している畜産物や油脂類の消費量が増えたため、カロリーベースの食料自給率は長期的に低下傾向にあったが、ここ20年ぐらいは横ばい傾向で推移している。

主食であるコメの自給率の高さが、日本人の自国の食糧自給率に対する意識を遠ざけているとも考えられるが、危機はすぐそばまで来ていることは覚えておかなければならない。ただ、22億人分の食糧を増やすことなど途方もないことに思えてくるが……。

「農業にテクノロジーを導入することで、労働効率を上げることができ、農業の大規模化や参入障壁の引き下げが可能となり、食料生産力は上がります。加えて、植物病理学の研究成果とテクノロジーを融合させることにより、植物の病害虫対策も格段に進歩します。全世界で栽培されている作物の3分の1は、病害虫によって失われています。これは世界の飢餓人口と同じ8億人の年間食料に相当します」

衰退した農業に革新を テクノロジーが生んだ「スマート農業」

「野菜を食べれば健康」は思い込み? 現代の野菜は栄養素が激減

食料安全保障の観点からすると、低水準の食料自給率は、国を挙げて解決しなければならない問題。しかし、食料に関して、もう一つ解決が必要な数値がある。野菜の摂取量だ。

日本人の平均野菜摂取量は約290gで、世界平均こそ上回っているが、肉ばかり食べているイメージがあるアメリカ人は350gと、日本人を上回る結果に。同じ東アジアの中国や韓国は、日本の2倍近くの野菜を摂取しているという。厚生労働省が推奨する1人当たり1日350gの野菜摂取量をクリアしている人は、国民全体の3割に過ぎない。日本人は野菜を食べないのだ。

日本人が今よりもバランスよく栄養を摂るには、もっとたくさん野菜を食べることが重要――、と思いがちだが、50年前と現在の国産野菜を比べると、実は野菜ひとつあたりの栄養価は半減している。

「キャベツに含まれるビタミンCは2分の1。ホウレンソウの鉄分は5分の1。国産野菜の栄養価は激減しています。原因はさまざまですが、旬な時期以外でも野菜を生産できるようになったのも大きいですね。ホウレンソウは冬の植物ですが、栽培技術の進歩で現在は年中収穫できます。旬の野菜と、旬以外の野菜。実は栄養価が大きく違うんです。少ない量でも十分な栄養価を摂取できるようにするには、野菜の栄養価を上げる必要があります」

今の農業は、高収量品種や化学肥料、農薬で大量生産を可能とした半世紀以上前の「緑の革命」のイノベーションがいまだに続いているという。しかし、最先端の植物科学とテクノのジーを駆使すれば、栄養価の高い作物を通年で効率的に生産することは可能だと小池氏は語る。

緑の革命

1940年代から1960年代にかけて実施された農業革命のひとつ。品種改良や化学肥料の投入により、農作物の高収量・大量増産を可能とした。これにより、1960年から2000年までのアジア穀類生産量は3倍に増え、アジア途上国の栄養失調比率は激減した。(内閣府 経済社会総合研究所より)

「植物生理学的には栄養素の生成メカニズムはどんどん解明されています。その知識を農業に活かせば、旬でなくても美味しく栄養価の高い野菜を生産することは可能となります。与える肥料、水の量や土壌・環境の状態もセンサやデータで可視化しモニタリングすることで、生産量だけでなく、栄養価も上げることができます」

ブロックチェーンで実現する“食の履歴書”

日本の食料事情における“食の安全”は、最も身近な問題のひとつだろう。食品を選ぶ際の基準は何か?というアンケートに対する回答の上位は、「鮮度」、「価格」、次いで「安全性」だ。

多くの消費者が、自分たちが食べるものに対する安全を求めていることがわかる。消費者のニーズに応えるため、どこでどんな人が作っているのか“見える化”する努力は続けられている。しかし、信憑性についての最終的な判断は消費者の感覚に委ねられている。

例えば、生産者の情報や写真が貼付された野菜でも、本当にその生産者が安全に配慮して野菜を作っているとは限らない。しかし、食の安全についても、テクノロジーで解決できると小池氏は指摘する。

「ブロックチェーン技術を使えば、生産地や生産方法、原材料、消費期限など、生鮮品に限らず食品全体の情報を可視化することができます。しかも、データの改ざんが現実的には不可能。ここまですれば、食の安全は担保できるのではないでしょうか」

例えば、スーパーの食品売り場に設置された規定のQRコードをスマホで読み込み、ブロックチェーンで守られた食品の生産や製造、流通に関するデータを取得。生産者・製造者から消費者に届くまでの“食の履歴書”が手に入れば、消費者は信頼できるデータをもとに判断できるようになる。

しかも、生産情報だけでなく、食に対する思いなど、生産者や製造者の伝えたいことを届けられるようになるのだ。そうすれば、価格や品質だけではないプラスαの付加価値を生むことも可能となるだろう。

消費者の意識が農業を変える

しかし、農業は国が守らなければならない重要な産業であるがゆえに、規制も多く既得権益も蔓延り、新規参入が難しい分野ともいわれている。政府は農業改革を唱えているが、新しい農業のスタイルがどこまで浸透するのかは未知数だ。

そんななかで、ベジタリアが提唱するテクノロジーの導入は、「食料自給率」「野菜摂取量」「食の安全性」といった、日本の食糧事情が抱えるさまざまな課題を解決する可能性を秘めている。この先、日本の食料事情を豊かにするには、国民一人ひとりが意識を変えるための努力と協力も必要だろう。無理を承知であえて伝えたい。

「ごはんを1日にもうひと口(17g)食べる」

「国産米粉パンを月にもう約6枚(401g)食べる」

「国産大豆100%使用の豆腐を月にもう約2丁(553g)食べる」

「国産小麦100%使用のうどんを月にもう約2玉(594g)食べる」

国民全員が上記の行動をとれば、カロリーベース食料自給率は1%向上するという。たかが1%、されど1%。数十年後に訪れるかもしれない食料危機に備えるならば、きっと実り多き努力となるはずだ。消費者が食品への関心をもっと高め、国産品を意識した食品選択をすれば、日本の農業を変えられるかもしれない。