衰退した農業に革新を テクノロジーが生んだ「スマート農業」
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衰退した農業に革新を テクノロジーが生んだ「スマート農業」

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きつい、汚い、かっこ悪い、3K仕事の代表格ともいわれる農業が、変革の時を迎えている。IoTやデータサイエンスなど最新のテクノロジーを活用した「スマート農業」によって「快適に」「かっこよく」「稼げる」新3Kの農業に生まれ変わろうとしている。農業を成長産業へと押し上げるために必要なことは何か。「スマート農業」を実践するベジタリア株式会社の取り組みを通して、農業の可能性を探る。

最新のテクノロジーが厳しい農業経営を救う?

日本国内の農業は、衰退の一途をたどっている。1985年に約330万戸あった農家の数(販売農家数)は、2017年には約120万戸に減少。しかも農家の高齢化と後継者不足は深刻で、基幹的農業従事者(仕事として自営農業に主として従事した者)の8割近くが60歳以上という数字がある。

農家の高齢化と後継者不足が進む背景には、農業が、きつい、汚い、かっこ悪いと俗にいう3K仕事の代表格とされ、農家に生まれた子どもたちが跡を継がないなどの事実がある。加えて産業構造として”儲からないビジネス”とされていることが拍車をかけている。

農林水産省は新規就農者対策に力を入れてはいるが、新規就農者の半分近くが60歳以上。若者の就農にはつなげられていない。若者に農業を将来の職業に選んでもらうには、まずは農業を産業として活性化する必要がある。そのためには利益が出るビジネス構造にしなければならないが、農家経営は厳しいのが現状だ。

ところが、テクノロジーの進化とともに農業が生まれ変わる可能性が出てきた。IoT、AI(人工知能)、ビッグデータ、ドローン、ネットワークカメラ、ウェアラブルデバイスなど、最新テクノロジーを農業に持ち込み、これまでの農業を効率化し、出荷数の増や品質向上を可能とする「スマート農業」が急速に広がりつつあるのだ。

これらの最新テクノロジーは、農業の抱える問題をどのように解決するのだろうか? 最新の植物科学とテクノロジーで農業向け各種ソリューションを提供するベンチャー企業「ベジタリア株式会社(以下ベジタリア)」の取り組みを通して、「スマート農業」の現状を見てみよう。

ベジタリア株式会社

ベンチャーキャピタリストであった小池聡氏を中心に、植物科学、IoT/M2M、人工知能、データサイエンス、気候変動のスペシャリストが集まって、2010年に設立された”アグリベンチャー”。内閣府が推進する「戦略的イノベーション創造プログラム(次世代農林水産業創造技術)」や農林水産省が進める「革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)」へ参画するなど、日本における「スマート農業」の普及を牽引している。

栽培環境の見える化で安定管理&育成を実現

昔から、勘と経験を頼りに自然と戦い、作物を育成・栽培するのが農業だとされてきた。しかし、ベジタリアが提供するモニタリングデバイス「フィールドサーバ」は、そんな農業の姿を一変させる力を秘めている。

フィールドサーバは、「温度・湿度・照度・降雨量・風向・風速」「水位・水温」「土壌温度・含水率・電気伝導率」「葉面濡れ度合い」「CO2濃度」という5つのセンサを、栽培作物や圃場(ほじょう、農産物を育てる場所)環境に応じて組み合わせ、効果的な農業データを計測できる機器。

フィールドサーバ

農業は、病気との戦いといっても過言ではない。近年、植物科学の分野では、植物の生育や病気のメカニズムが広範囲で明らかになっている。難しいのは発生しにくい圃場を作り出すことだ。

そんなとき、勘と経験が無くても、フィールドサーバのようなIoTセンサを用いれば、栽培管理に必要な各種データを簡単に計測できる。そのデータを分析することで、圃場の環境情報や作物の生育状況を管理でき、病害虫の発生を抑えた最適な栽培環境が実現可能となる。さらにAIを活用すれば、病気、害虫、雑草、天候等の予測をすることも可能だ。

病害虫による被害は激減し、農業の生産効率は飛躍的にアップ、初心者でも短期間で一定の成果が得られるようになるだろう。テクノロジーをうまく使えば、少ない労力で収穫量を増加させることも可能になるのだ。

水位・水温を自動で計測して稲作を効率化

米を主食とする日本において、稲作の需要は大きい。実は、稲はもともと熱帯の植物であり、熱帯でならいつ種を蒔いても成長するが、日本のような温帯では、常に稲の成長に目を配り、きめ細やかな対応をしなければ稲は順調に育たない。要するに、難しい。

水稲栽培では、水田の水を浅くして土の温度を上げたり、気温が低いときには水位を上げて稲を保護したり……と状況に応じて細かい水管理が必要なのだが、この水管理が稲作において最も労力を使う作業。

そこに着目した製品が、ベジタリアの水田センサ「パディウォッチ」だ。水稲栽培に必要な水位、水温を自動で計測するシステム。テクノロジーを利用した水管理が難問とされているのは、水田に電源が無いことも理由のひとつだが、パディウォッチは乾電池1本で田植えから収穫までの9カ月間、データ収集と送信が可能。

しかも、水位はミリ単位まで計測し、LPWA(無線)技術を採用しているため通信料金もかからず、50kmという広範囲をカバーできる。

リアルタイムで水位の状態をチェックすることで、育成に適切な水の調整が可能で、農業従事者の水の見回り回数、および見回りに必要な時間を大きく削減できる。

パディウォッチ

適切な水管理は、高温登熟による品質の低下を防ぐなど、収量や食味にも大きく影響を与える。テクノロジーによって管理された水田で付加価値の高い米を栽培し、高価格で出荷できれば、農家経営は今より圧倒的に効率化される。

ベジタリアでは、水田のモニタリングに加え、給水門、排水門、水路の水量管理などの自動化へ向けての研究開発も進行しており、これまでにないレベルで効率的な稲作が可能となる。

ビジネスとしての農業

ベジタリアの農業支援システム「アグリノート」は、IoTの技術を活用した経営管理も実現している。「アグリノート」は、水稲、畑作、果樹の露地栽培における生産管理に活用できるアプリで、航空写真をベースに農作業の記録を作成。作業記録は一覧から選択するだけで簡単に入力でき、現場で記録したデータは瞬時にクラウドにアップされ情報共有。

しかも、スマホを持って農作業をするだけで、いつ、誰が、どこで作業を行ったかをアプリが自動で記録する「GPS下書き機能」も付いている。

アグリノート

アグリノートで記録した内容(作業記録、農薬、肥料)は、自動で圃場毎に集計されるので、整理したりまとめ直したりする必要もない。

さらに、生育記録は自動で集計・グラフ化。作業記録を一覧表示できるので、未作業の圃場確認や、どの圃場に何回、農薬・肥料を使用したのかが一目でわかる。

農業をビジネスとして安定させるためには、田畑の大規模化とコスト削減も重要なミッションだ。「アグリノート」を使えば、田畑の大規模化が進んでも適切な管理が可能なだけでなく、最適な農薬・肥料の量もデータ化できるため、コスト削減にもつながる。iOSやAndroidのスマートフォン、タブレットで利用でき、外出先での入力も可能なため、空き時間を利用して作業時間を大幅短縮できるという機能盛りだくさんの優れもの。

さらに、農業機械とも連動し、エンジンの回転数から燃費まですべてデータ化、農作業にかかる時間とコストが割り出せる。農業機械を動かすのに最適なルートをナビゲートする機能が付いているが、将来的には農業機械とリンクさせれば、遠隔操作や自動運転も実現できそうだ。

しかも、これだけの機能を盛り込んで、利用料が月額500円というから驚き。

総合的な病害虫の防除で増収・増益

そしてもうひとつ、ベジタリアの取り組みを支えているのが植物病院(R)「ベジタリア植物病院(R)」。最新の植物医科学の知見を生かし、フィールドサーバなどで計測した温度、湿度、葉面濡れデータ、土壌分析と遺伝子診断データを総合的に組み合わせることで、病害虫の発生を高精度で予測し、適切な時期に適切な防除を提案するサービスだ。

栽培する作物の3分の1は、病害虫によるロスともいわれているが、日本植物医科学協会の植物医師認定審査に合格した植物医師による、科学的な診断に基づいた総合的な病害虫の防除は、栽培コスト、労力を低減させ、安定生産と品質の向上を促す。

慣行栽培(従来の農業)では、土壌を消毒してから種を植えるなど、農薬を使った病害虫の撲滅を目指すのが一般的だった。しかし、ベジタリア植物病院では、IPM(総合的病害虫管理)の考え方に基づき、データを駆使して診断、防除。

植物病院

また、世界で初めて土壌の遺伝子診断(LAMP法)を導入し、発病ポテンシャルを推定、最適な防除計画を提案することができる。キャベツやハクサイといったアブラナ科野菜にのみ発生する根こぶ病の診断を提供しており、今後、対象病害虫の拡大が期待される。

トレーダーのように遠隔農業

テクノロジーを最大限に活用した「スマート農業」は、農業の収益性を高め、継続的なビジネスとしての農業を支援する。

「スマート農業」が普及し、今よりテクノロジーが進めば、それこと金融の世界のトレーディングのように、部屋のモニターでデータをチェックしながら、遠隔リモートで農作業できる時代が到来するかもしれない。そうすれば、農業は、最先端の産業に生まれ変わる。若い世代にとって”将来性のある職業”となるのだ。

政府が掲げる政策のひとつに農業改革もある。農業業界へのテコ入れは容易ではないが、一方で、テクノロジーが農業を成長産業へと発展させる可能性は多いにある。「スマート農業」がもたらす農業のイノベーションは、まだまだ始ったばかりだ。