平将明の『言いたい放題』

ビジネスしやすい環境がイノベーションを促す

2016.11.10

政治

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2050年までに労働人口が3000万人減少するといわれる日本にとって、GDP減少の対策として期待されているのが、女性の労働参加、定年延長などの労働人口対策に加え、技術革新、いわゆるイノベーションによって労働生産性を上げる方法だ。しかし、それは今の日本で現実的な方法なのだろうか?

(公社)東京青年会議所の講演より

アベノミクスに組み込まれたイノベーション

日本は1990年代前半にバブル崩壊してから経済が低迷し、「失われた20年」といわれてきました。そして需要不足に陥り、デフレがずっと続いてきました。そういったなかで経済成長もしませんから、学生や若い人たちがなかなか挑戦しづらい世の中になっていました。

そこで出てきたのが”アベノミクス”です。自民党が野党に転落し、民間の知恵を生かして政策を作ろうということになり、民間有識者と議論を重ね政策を作っていきました。そして、マクロ経済の司令塔をつくり、「金融政策」「財政政策」「成長戦略」を統合的に運用して、日本経済を再生するということを政権公約としたのです。

「第一の矢」といわれる金融政策は、消費者物価が+2%になるまで無制限に金融緩和する”異次元緩和”。「第二の矢」の機動的な財政政策では、政権交代してすぐに10兆円の補正予算を組みました。そして「第三の矢」の成長戦略の中味は、「自由貿易の推進」や「規制改革」などです。

成長戦略の中で主役ともいえる「規制改革」は、農業や労働分野、ビザの緩和など、いろいろなものがあります。新たな需要を生み出しますし、イノベーションとの相性もとても良い。私が内閣府副大臣だったときは、地域を限定して規制緩和する国家戦略特区という政策オプションを地方創生の政策パッケージに組み込みました。

ビジネスができる環境作りが大事

国家戦略特区の類型の中に「近未来技術実証特区」というのがあります。これは、自動走行、ドローン、AI(人工知能)、IoT、ロボット、遠隔医療、遠隔教育といったワクワクするような近未来技術の実装を集中的にやるために私が新しく作ったものです。

この近未来技術実証特区のスキームは非常に優れていると思います。イノベーションが起き、その新技術を社会実装しようとすると大抵は既存の規制にぶつかるため、実装する前に規制改革をする必要が出てきます。そこで、大学や企業、地域からいろいろなアイデアを募集し、それを有識者と政務三役からなる近未来技術実証特区検討会議で精査し、必要と認めればわれわれチーム(検討会議)が規制省庁と交渉して、規制改革を進めるという仕組みを作りました。

イノベーションが起きやすい環境というのは、イノベーションの結果生まれた技術を社会実装するときに、スムーズに社会にビルトインすることのできる環境ではないかと私は思います。先回りをして規制改革できれば、”イノベーションがビジネスと直結する”というイメージがわき、自然に人材もお金も集まってくるのではないでしょうか。

政治家がイノベーションに積極的にかかわる

日本にもイノベーションの芽はたくさんあります。例えば、iPS細胞の分野などは日本が圧倒的に強い。

メガカリオンという京都のベンチャー企業は、iPS細胞の技術で人工的に血液を作ることができます。ただ、原材料に血液を使わなければならない。でもそこには法律の規制があって、血液は原則、輸血に使うか、研究対象にしか使えません。

そこで国家戦略特区の仕組みを使って、血液を原材料として使えるように規制改革しました。そもそも大阪を含む関西圏は国家戦略特区の医療特区でもあります。結果として何が起きてくるかというと、そのテクノロジーで献血に頼らない輸血の体制が構築可能になり、近い将来、安全な輸血用血液を世界に供給できるようになるでしょう。

イノベーションにとって何がボトルネックかといったら、とにかく既存の「規制」、時代遅れの「規制」なんです。しかし、もし一民間企業であるメガカリオンが厚生労働省に相談しに行っても、役所の側も「こういう法律があるからダメです。」と言わざるを得ないし、それで終わりです。

だからこそ、われわれ政治家(政務三役)が先頭に立って、企業や大学など民間セクターに代わって規制省庁と議論し、規制を改革するという仕組みをビルトインするのはとても効果的といえます。

産官学ではイノベーションは起きない

日本においてイノベーションが起きにくいのは、政府主導で、産官学で連携して進めるのが好きだからです。イノベーションというのは、進化の過程からあるとき突然、別の場所に起点が生まれることを言います。産官学連携は創意工夫・改善改良が得意であっても、今までの進化を否定するような創造的破壊(イノベーション)には向きません。

例えば自動走行。日本のそら(宇宙)に準天頂衛星が7つ上がる予定で、2018年から運用開始することになっています。そうなるとGPSの誤差が数センチになります。さらにAIの技術が入ってくると自動走行は技術的には可能になると思います。

私が内閣府副大臣で科学技術イノベーションを担当していたときに、それまで日本が目指していた自動運転のレベルをレベル3からレベル4に変えました。レベル3というのは、自動運転だけどドライバーが乗っている状態。レベル4というのはそもそもドライバーがいない状態での自動走行です。

これからの日本は少なくても向こう半世紀、人手不足かつ高齢化です。ドライバーなしの自動走行を実現してこそのイノベーションでしょう。

当初、官僚は「道路交通に関する条約(ジュネーブ条約)」を持ち出して、「それはできません」と抵抗しました。この条約では「車両には運転者がいなければならない」と定めているのです。いつできた条約か聞いたら、真剣に「70年くらい前ですかね」と。だったら変えればいいじゃないですか! 法律でも条約でも、規制は作った瞬間から時代遅れになっていくのですから。

アメリカなどでは、イノベーションを促進するために、達成困難なミッションを示し、大企業、ベンチャー問わず参加が可能で、そのミッションを最も上手にクリアした参加者に賞金を与える”アワード型研究開発”が盛んに行われています。DARPA(ダーパ、国防高等研究計画局)のロボティクス・チャレンジやGoogleのLunar XPRIZEが有名ですね。日本のベンチャー企業も参加し、世界的な脚光を浴びています。

一方、日本は伝統的に産官学の形をとります。自動走行でいえば、国立大学、経産省、大手自動車メーカーなどが連携してやるのですが、その目標は絶対にレベル4になりません。なぜだかわかる?と官僚に聞いたら、「技術が……」「道路交通法が……」「条約が…」と四の五の言っていましたが、そうではありません。

大手自動車メーカーのアイデンティティーなり企業理念なりを見れば、「FUN TO DRIVE」だったり、「Be a driver」だったりします。だから、そもそもドライバーのいないレベル4をそのメンバーが目指すわけがないのです。

さらに言えば、新技術を使った改良改善と、創造的破壊とも言うべきイノベーションとでは似て非なるものなのです。政治家こそその本質的な判断をする必要があります。

エコシステムを作ることが政治家の仕事

日本にはアイデアの種がありますし、お金もある国なので、環境さえ整えてあげれば、いろいろなイノベーションが起きやすい国だと思います。

また、ベストプラクティス(成功事例)がたくさん集まり、「日本はイノベーションを起こしやすい国」という印象を持たれるようになると、お金も人材も集まってくるでしょう。

これからの日本は、TPPやインバウンド、東京オリンピック・パラリンピックで新しい市場や需要が増えます。人手不足を解決するのは、自動走行やドローンなどのテクノロジーのイノベーション、それと民泊やライドシェアリングなどのシェアリングエコノミーですね。これらを今の社会にどう実装していくかが重要です。

自動走行は国家戦略特区の秋田県仙北市で地域のコミュニティバスという形で始まりそうです。また、小泉進次郎議員の地元の神奈川県ではロボタクの実証実験も始まるのではないでしょうか。ドローンは千葉市を特区に指定しました。さらに、同市で建設が予定されているスマートシティでは、テレビによる遠隔医療や服薬指導をやりやすくして、処方された薬もドローンが高層マンションのベランダまで届けられるようにしたいと思います。

私はこういったイノベーションが起きやすい生態系を作る仕組みをさらに強化し、政策パッケージとして2017年の政府与党の成長戦略に入れたいと考えています。自民党の経済構造改革特命委員会で、今まさに議論を重ねているところです。世界で最もイノベーションを起しやすい国「日本」を実現したいと思います。どうぞご期待ください。

成熟社会こそドラスティックな改革が必要

 

ルールは守らなければいけないが、変えてはいけないものではない。これは欧米との考え方の大きな違いだと思う。時代に即したものを機動的に変えていかなければ、変化の激しい現代では、グローバルで戦えない。

また、経済政策だけが政治ではないので、すべてにとはいわないまでも、政治家に実業を経験した人がもう少し多ければいいと常々思う。2代目や3代目として地盤を継ぐ人でも、政治家秘書ではなく、実業を学んでからでも遅くはない。

それと、役人は優秀だと思うが、実業を知らないので、もっと民間に出向させて経験するべきではないか。元役人でもそういう人に、政治に挑戦してほしい。そうしないと、いつまでも内の論理がまかり通り、リスク(変化)を避ける傾向は続くだろう。経済成長が止まった成熟社会だからこそ、ドラスティックな改革が必要だ。