なぜ、投資をするのか―― “運用哲学”の必要性

2016.3.10

経済

0コメント

投資はテクニカルな知識に目が向きがちだが、「何のために投資するのか」という考え方も同じくらい重要だ。いわば自分なりの”運用哲学”。知識を手に入れたら、今度は内なる自分に目を向けよう。

市場変動に動じない”ブレないスタンス”

実際に投資をするにあたっては、”ブレないスタンス”を持つ必要がある。なぜなら、マーケットは常に変動しているものだからだ。

順調に値上がりしていた株価が、ある日、突然、急落することもある。2015年末から2016年初旬に掛けての国内株式市場は、まさにその典型例だ。

年末時点で、徐々に株価は上昇の兆しを見せていたが、年明けから一気に下落トレンドへと向かった。こういう動きに一喜一憂し、「株価が下げたから、もう投資するのは止めた」などと言っていては、いつまでたっても資産形成などできない。

目先の値動きに右往左往することなく、ブレないスタンスで資産運用を続けていくためには、”自分が何の目的のために投資をするのか”を、しっかり考えることが肝心だ。そして、目標設定には、できるだけ長い時間軸を持たせるべきだろう。

自分なりの”運用哲学”を考える

たとえば今、30代の人が自分の老後資産を築くことを目標にするならば、目先、株価が下げたからといって落胆し、投資を止めてしまう必要はどこにもない。運用するための時間がたっぷりあるからだ。

ところが、極端な例で恐縮だが、「来月、出掛ける旅行代を稼ぐ」という短い時間軸で目標を設定すると、マーケットが下げて損をしたとき、それをリカバリーする時間を持つことができず、結局は損をしたままで撤退せざるを得なくなる。成功体験を得ることができず、投資することが嫌になり、本当は必要なことなのに、見向きもしなくなる。

それは、これからの時代を生き延びるための経験値が得られないという意味において、大きな損失だ。そのくらい、投資のスキルは今後、重要になってくる。さらに、長い時間軸の目標を定めたうえで、自分なりの”運用哲学”が持てれば、ブレないスタンスはより強固なものになる。

「この日本を支えるビジネスを応援する」でも、「世界経済が成長するための資金を提供する」でもいい。確固たる運用哲学を持つことができれば、マーケットの上がり下がりに右往左往されることなく、投資を継続できるようになるはずだ。

そして、自分が決めた運用哲学に対して忠実に投資対象を選んでいく。それが、資産形成で成功するための第一歩になるのだ。

Interview 鎌倉投信 代表取締役社長 鎌田恭幸
「100年企業に投資する本当の意味」

鎌倉投信は「結い2101」という、主に日本企業の株式を組み入れた投資信託を運用・販売しています。”良い会社に100年を超えて投資する”ことを謳っているのですが、その真意は、100年続く企業に投資するというよりも、これからの日本に本当に必要とされる”良い会社”に投資することです。

運用開始は2010年3月29日。以来、6年が経過して、2016年1月末の純資産総額は218億円。1万5147人の受益者に支えられています。

一般的に運用会社の投資銘柄選びというと、まずは財務面や業績面の数字と株価を比較し、今の株価水準をみて投資するというプロセスを踏みますが、「結い2101」は、この手のプロセスは後回しで、最初に本業を通じて社会に貢献する会社、社会的課題を解決する要素を、利益を生みだす過程のなかに備えている会社かどうかという点に注目します。

たとえば近年、ダイバーシティという言葉が注目されています。これは多様な人財を積極的に活用しようという意味ですが、こうした社会問題の解決にあたって、”障碍者雇用に積極的か”、あるいは”(女性が多い職種であれば)女性が働きやすい環境づくりに努力しているか”、といった点に注意しながら、投資先となる企業を探します。そして、こうした社会問題の解決に積極的であることを確認したうえで、財務や業績を評価し、投資するかどうかを判断します。他の運用会社と違い、数字のチェックは後回しになります。

小さくても強みを持った企業が生き残る

これまでの日本は、経済規模が拡大していくなかでモノやサービスの提供を増やし、それが業績に反映されていく企業が良い会社として評価されてきました。当然、この手の企業は経営規模も大きかったわけですが、これからの日本は人口減少社会に転じていきます。そのなかでは、規模の大きな会社が必ずしも良い会社であるとは限りません。

規模は小さくても、質を追求している企業こそが業績を伸ばし、評価される時代になります。中途半端な規模を持った企業は淘汰される一方、小さくても強みを持った企業が生き残っていくのです。

そこで私たちは、次の3つの要素を持った企業に注目しています。第一に”人”。社員をやる気にさせ、結果的に人の強みを生かせる企業。前述した、多様な人財を本業のなかで活躍させている企業もこれに含まれます。

第二は”共生”。農林水産業や地域雇用に積極的で、地上資源を活かす等、循環型社会を築く礎になる企業です。

第三は”匠(たくみ)”。これは、いうなればオンリーワンの技術力やサービスを持つ企業です。

こうした3つの要素のいずれかを持った企業こそが、これから50年、100年と日本を支えていくことになります。そして、こうした100年企業を支えるのは、まさに人です。

以前、厳しい経営環境のなかでも売上を伸ばしている企業の共通点を研究したことがあります。そこで得られたひとつの解は、経営理念をしっかり持ち、人を育て、社員同士や地域などとの関係性を作る力を持った企業こそが、売上を伸ばしているという事実。大企業は職能の育成には力を入れますが、社員の人格形成にまでは踏み込みません。