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経済

日本市場を襲う超肉食系ファンド 倫理なき空売りを糾弾せよ

電子雑誌「政経電論」第18号掲載
2016年09月12日
読了時間: 05分30秒

超肉食系の空売りファンドがこぞって日本に上陸しつつある。日本の株式市場を攪乱させかねない際物ファンドに行政や金融関係者は眉をひそめ、狙い撃ちされかねない企業は戦々恐々となっている。

違法すれすれな空売りの手口

 「限りなく黒に近いグレーなディール(取引)だ。SEC(証券取引等監視員会)は風説の流布として摘発に動かないのか」

 大手証券幹部がこう指摘するのは、伊藤忠商事株について事前に"空売り"のポジションをつくったうえで、「(伊藤忠商事は)過年度決算で利益の水増しを行っている」とするレポートを公表し、株価が下落したところで買い戻しを行い、利益を得たとみられる米ファンド「グラウカス・リサーチ・グループ」のことだ。大手機関投資家幹部も「外資ファンドが自社に有利なポジショントークをマスコミに流し、市場が反応したところで売買し利益を得るケースはあるが、ここまであからさまなやり方は見たことがない。証券会社でもリサーチ部門と自己売買部門はファイヤー・ウォールで厳格に分けられている」と呆れる。

 グラウカスはコロンビアの石炭事業についてのレポートで、[1]2015年3月期決算で持ち分法投資の対象から外して、減損損失の計上を回避した。[2]2015年、タイのCPグループと共同で2割出資し、中国中信集団(CITIC)を持ち分法適用会社としたが、出資比率からみてCITICに重要な影響を及ぼせず妥当ではない。[3]台湾系食品大手の頂新グループを持ち分法投資会社から非支配株主持分に区分変更し、約600億円の再評価益を計上した――。という3点を不正な会計処理と指摘している。これに対し、伊藤忠商事は鉢村剛・最高財務責任者(CFO)が会見し、「会計処理はすべて適正」と反論した。

 大手機関投資家幹部は、「グラウカスは伊藤忠商事の痛いところを突いていることは確かだが、不正な会計処理とはいえず、伊藤忠商事の反論には頷ける」と語る。むしろ問題はレポートに市場が過剰反応し、グラウカスの思惑通りに伊藤忠商事の株価が10%も下落したことだろう。

 グラウカスは、米国、香港、インドなどの市場で同様のやり方で22社に空売りをしかけ、うち5社の経営者が証券詐欺罪などで起訴されている。日本についても約1000社の企業を選び、一社あたり500~600時間をかけて調査し、不正を暴くという。その第一号の案件が伊藤忠商事となったわけだが、日本取引所グループの清田瞭CEOも「(グラウカスの取引は)倫理的に若干、疑問がある」と指摘している。

空売りファンド処女地の日本

 グラウカスは、空売りファンドとしての規模は小さく、国際的な認知度も低いが、そのグラウカスに続き日本に上陸したのが、中国企業の空売りで世界的に名を上げた「シトロン・リサーチ」だ。血祭にあげられたのは、つくば市に拠点を置くベンチャー企業「サイバーダイン」(東証マザーズ上場)。筑波大学教授の山海嘉之氏によって設立されたサイボーグ型ロボットの世界では著名な企業だ。

 シトロン・リサーチの着眼点はシンプルだ。企業実態と株価の異常なギャップを捉え、投資家に売り推奨するレポートを無料で発信して、自らは空売りで儲ける。サイバーダインについても、8月15日に同社の株価は事業実態からみて過大評価されており、株価は大幅に調整されるべきだとレポートした。

 サイバーダインは、「当社の事業特性を理解せず、分析も非常に浅いものだ」と反論したが、1週間あまりでサイバーダインの株価は25%も急落、シトロン・リサーチはしてやったりとなった。

 アンドリュー レフト氏率いるシトロン リサーチが名を上げたのは2011年~2012年にかけて、中国企業の米国上場企業(ADR)の中に粉飾決算や架空のビジネスモデルがあると指摘したことに始まる。槍玉に挙げられた中国企業の中には株価が暴落し、危機に瀕した銘柄もある。その後、"シトロン・レポート"をきっかけに、しばらくの間、米国に上場する中国企業全般が疑心暗鬼の目で見られたほどだ。

 但し、シトロンに対しては、米国でも空売り推奨された企業やアナリストからは、「解釈が間違っている」、「事実無根」との批判も多く、「意図的にネガティブな情報を流布している」という見方も少なくない。大手通信社ではシトロンのことを「空売り事業者」とのタイトルを冠して記事化しているほどだ。

 グラウカス、シトロンとも、そうした米国での批判を避けて、空売りファンド処女地の日本でひと儲けしようということだろう。

SECや日本取引所グループなどは摘発に動くべき

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