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経済
[三橋貴明が説く 今さら聞けない経済学]

日銀"総括"の矛盾 デフレ脱却は可能か?

電子雑誌「政経電論」第19号掲載
2016年11月10日
読了時間: 05分00秒

2016年9月20・21日の金融政策決定会合において、日本銀行は、「目で見る金融緩和の『総括的な検証』と長短金利操作付き量的・質的金融緩和」というレポートを発表した。いわゆる"金融政策の総括的検証"である。今回は、多くの日本国民にとって何が何やら分からない日銀の"総括"について解説する。

三橋貴明プロフィール三橋貴明(みつはし たかあき) 経世論研究所 所長。
東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。外資系IT企業、NEC、日本IBMなどを経て2008年に中小企業診断士として独立した。2007年、インターネット上の公表データから韓国経済の実態を分析し、内容をまとめた『本当はヤバい! 韓国経済』(彩図社)がベストセラーとなる。その後も意欲的に新著を発表。単行本執筆と同時に、雑誌への連載・寄稿、各種メディアへの出演、全国各地での講演などに活躍している。

イールドカーブから見る金利マイナスの動き

 日本銀行は9月の金融政策決定会合において、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』の導入を決定した。この時点で、一般の日本国民にとっては意味不明であろう。超短期金利操作とは、イールドカーブのコントロールのことだ。そして、イールドカーブとは残存期間が異なる複数の債券における利回りの変化をグラフ化したものだ。通常、長期債券の金利は短期債券よりも高くなる。すなわち、債券金利は返済までの期間が長ければ長いほど、高くなるのが普通なのだ。

イールドカーブ

 グラフの通り、債券の金利は残存期間が長ければ長いほど高くなり、全体的な印象としては右肩上がりの曲線を描くことになる。これが、イールドカーブだ。15年1月、16年1月のイールドカーブは、残存期間5年程度の債権まで、金利がプラス化していた。それが、16年4月には残存期間10年の債権までもがマイナスの海に沈んだ。もちろん、2016年2月16日に導入された、日本銀行のマイナス金利政策(日銀当座預金の一部にマイナス金利をかける)の影響だ。

長短金利操作のための新型オペレーション

 2013年3月に元・財務官の黒田東彦氏が日本銀行の総裁に就任し、いわゆるリフレ派の岩田規久男教授らが提唱する「期待インフレ率理論」が採用された。日本銀行がインフレ目標を設定し、目標を達成するまで量的緩和を継続することで、期待インフレ率を高め、実質金利を引き下げ、消費・投資という需要を拡大するというのが、リフレ派理論の根幹である。

 現実の日本では、日本銀行が量的緩和を継続し、13年3月と比較すると、何と250兆円もの日本円(日銀当座預金)が発行されたにも関わらず、インフレ率は▲0.5%。リフレ派の経済政策という社会実験が失敗したことは、誰の目にも明らかである。
 
というわけで、日本銀行はインフレ目標を維持しつつ、短期金利を▲0.1%、長期金利(十年物国債金利)を0%程度で推移するように操作することを決定した。これが、日本銀行の新たな目標イールドカーブ・コントロールだ。

 ここで、矛盾が出てくる。日本銀行はイールドカーブをコントロールするという目標を掲げつつ、毎年純増で80兆円の国債を買い取り、日銀当座預金残高を増やす"量的緩和"は継続するという。これは、明らかに不整合だ。

 長期金利を0%で推移させるために、日本銀行が国債をいくら買い取ればいいのかは、事前には誰も確証を持てない。例えば、日本銀行が年純増で50兆円を買い取った時点で、長期金利が0%で維持された場合、当たり前だが量的緩和は縮小しなければならない。そうなると、毎年純増80兆円の量的緩和は達成不可能になる。

嵌らないオーバーシュート型コミットメント

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