写真/芹澤裕介 取材/唐仁原 俊博

社会

タレント・松尾貴史「納税してる分ぐらいは文句言わせてもらいたい」ある意味、無神経な人たち[1]

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政治的な面において、日本の芸能人やアーティストの多くは神経質で、発言をすることは珍しい。そんななか、松尾貴史氏は積極的に政治的発言をする数少ないタレントとして知られる。Twitterや新聞のコラムはユニークでなかなか辛辣。一方の編集長も、間違いを正すためならときには知人も批判する。

はて、自由に発言するのはそんなに大変なことだっただろうか? こういう世の中にあっては、ある意味”無神経”な2人が、公に発信することの意味・意義について意見を交わす対談。

松尾貴史 まつお たかし

1960年5月11日生まれ、兵庫県神戸市出身。大阪芸術大学芸術学部デザイン学科を卒業後、デビュー。テレビ・ラジオをはじめ、映画・舞台、イベント、エッセイ、イラストなど、幅広い分野で活躍。毎日新聞(日曜版)「松尾貴史のちょっと違和感」など、時事に鋭く切り込むコラムなども手がける。近著に『東京くねくね』(東京新聞出版局)など。

Twitter:@Kitsch_Matsuo

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株式会社損得舎 代表取締役社長/「政経電論」編集長

佐藤尊徳 さとう そんとく

1967年11月26日生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部卒。1991年、経済界入社。創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈の作り方を学びネットワークを広げる。雑誌「経済界」の編集長も務める。2013年、22年間勤めた経済界を退職し、株式会社損得舎を設立、電子雑誌「政経電論」を立ち上げ、現在に至る。著書に『やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の”信念の貫き方”』(双葉社)。

Twitter:@SonsonSugar

ブログ:https://seikeidenron.jp/blog/sontokublog/

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“難しい話”をするつもりは一切ない

尊徳 松尾さんからお話をうかがいたいと思ったのは、毎日新聞で連載されている「松尾貴史のちょっと違和感」というコラムを読んだのがきっかけです。

松尾 思いつきでいい加減なこと書いてるだけなんですが(笑)。

尊徳 いやいや、松尾さんの文章はロジカルですよ。それに、世の中に発言する人はいっぱいいますが、単なるかっこつけだったり、言いっ放しで、「この人は何を言ってるんだろう?」と感じることもあるけど、松尾さんは違う。

佐藤尊徳

松尾 僕は別に難しいことを言いたいわけではないんですよ。毎日新聞のコラムにしても、もっと日常的なことやサブカルチャー的なことを書こうという雰囲気で始まったんです。

例えばテレビでアナウンサーが「7時24分になりました」とか言うじゃないですか。「4ふん? 何だよ、4″ふん”って」みたいな。そんな些細なことにツッコむようなコラムにするつもりだった。

でも、政治家のような偉い人たちがより大きな違和を感じさせる機会をいっぱい目にするようになって、そっちが多くなってしまった。

若かった頃に比べると、今のほうがまだやわらかいことを言ってるかも。

尊徳 では、もともと社会的なことを特に取り上げるという意図は無かったんですか。

松尾 ええ。最初の担当者が異動して、何代か人が変わって、そうこうするうちに、今書いてるようなことがいつの間にかメインになってしまったという。

そもそも、僕の前には、テリー伊藤さんがコラムを書いていたのですが、そのときは「こんな収録をやりました。盛り上がりました。放送いついつなので見てください」という活動報告みたいな感じだったんですよ。僕も同じノリでいいのかなと思ったら「あんまり宣伝は……」と言われて(笑)。でも、そのぐらいの気持ちで始めていますから。

尊徳 そうやって連載を続けるうちに、世の中の「おかしいな」「嫌だな」というようなことを自分から探すようになったというわけでもないんですか。

松尾 そういうわけでもないんですよね。大体締切前には、「何書こうかなー」って悩んでますから。

尊徳 まあ、毎週毎週、そんなにいろいろ起きませんよね(笑)。

松尾 そうなんです(笑)。

尊徳 自然体なんですね。たまたま世の中に違和感があふれるようになっただけで。

松尾 僕は昔から、ちょっと小憎らしいようなことをしゃべる、みたいなものが芸風でした。若かった頃に比べると、今のほうがまだやわらかいことを言ってるかもしれません(笑)。

松尾貴史

激しい誹謗中傷は「痛いところを突かれた」から

尊徳 Twitterでも積極的に社会的・政治的な発言をされていますね。

松尾 そうですね。ただ、やっぱりそれも何か目的があって、意図的にやってる、というわけではないんですよ。

尊徳 自分の考えをより多くの人に知ってもらいたいというのは?

松尾 タレントだから、というわけではなく、どんな人であっても、そういう気持ちはあるんじゃないですか。僕は単に、「おぼしきこと言はぬは腹ふくるるわざ」(「思ったことを言わないと、腹が張ってくるように感じる」という『徒然草』の一節)という感覚で。

ただ、納税してますから、納税してる分ぐらいは文句言わせてもらいたい。社会が自分にとって快適な方向に変わってほしいという思いはありますね。

例えば、今、日本は原発を積極的に輸出しようとしています。売れて儲かるんだったらいいのかもしれないけど、何か事故があったときは日本からもお金を出すというような話が出た。そのとき僕が思ったのは「僕だって金を出してるんだから、勝手にそんな使い道決めないでよ」って。

尊徳 それを素直に発信しているんですね。だけど、そういう発言をすると、当然反発もありますよね。

松尾 Twitterでの反応には、最初のうちはへこむこともありましたね。でも、最近は気にならなくなりました。

尊徳 それは何かきっかけがあったんでしょうか。

松尾 自分の中で「うまいこと言ったな」と感じるつぶやきほど、誹謗中傷が飛んでくることに気づいたんです。「あ、これって、痛いとこ突かれたからなんだ」というのがわかってきた。

尊徳 なるほど。嫌なところを突かれたからこそ、反応も激しくなる。

松尾 そうです。しかも、一斉にですよ(笑)。それに似たようなコメントがずらっと並ぶ。いくつものアカウントから、まったく同じ文面のものが届いたりもします。要は誰かが「痛いところを突かれたから、一斉に攻撃を仕掛けるぞ」と号令を出してるんだなって。

松尾貴史

尊徳 それだけ松尾さんの感じたおかしさや違和感が正しかったんだ。それを世間に広めてほしくないと考える人がいるということですよね。

松尾 内容に対する反論なんてほとんどないですよ。「芸人風情が何を言ってるんだ」とか「反日が何を言う」って。

尊徳 ひどいですね。

松尾 僕からしたら、「僕のどこが反日なの」と。だって、日本のことを愛してますし、だからこそ心配して、憂いて、文句のひとつも言う。

「レイシズムはダメですよ」って書いたら”在日”だと言われるし、安倍首相に反対すると”反日”って言われる。いやいや、いつから安倍さんが国民統合の象徴になったんだって、本当に不思議でしょうがないですよ。

尊徳 ネット上での反応は基本、ネガティブですからね。

松尾 そういうことを書いてる人たちって、ほとんどが匿名で、顔写真無い人もいるし、名前っぽく書いてる人も偽名だったりします。

尊徳 僕は匿名の批判に対しては、「こいつ、顔もさらさないくせに!」と色をなして反応してしまう。いけないとは思っているんですが(笑)。周りの人は「気にしないほうがいいよ」と言ってくれるし、実際そうなんだろうけど、僕はそういう性格だから。

松尾 だけど、激しい反応をする人に限って、日の丸をアイコンに入れてる。僕が一番問題に感じるのはそこです。ものすごく汚い言葉で攻撃してくる人に掲げられて、日の丸がかわいそうですよ。日の丸の印象がこんなに悪くなることってないでしょ。

テレビ的な対立がより激化したネットの世界

松尾 僕の周りの同世代だったり、ちょっと先輩という年代の方には、ブログやTwitter、Facebook、LINE、そういったものを全然やらないという人が結構いるんです。そして、その人たち、すごく快適に生きてるんですよ(笑)。

僕は珍しいものや新しいものに早くから飛びついて、こんな面倒くさいことになっちゃったなと反省するけど、一度使い始めてしまうと、もうやめられないじゃないですか。ならばそこは、快適であると思えるように、自分のマインドをコントロールするしかないのかなと。

尊徳 そうそう、自分でコントロールしないと。トランプ大統領が象徴的だと思うけど、ネットって何でも二分するんですよ。そして、人の趣味嗜好に合わせて、表示する情報がアルゴリズムによって取捨選択される。

だから自分と同じ意見ばかり目にするようになるし、広告だって、一度調べたものがずっと表示されたりする。そのこと自体は悪いことではないのかもしれないけど、自分で意識しない限り、ますます自分の意見が強化される。結果、世の中が本当にバサッと二分される。

テレビは、ただただ意見をぶつけ合って終わり。

松尾 分けるというのは、テレビ的なところもありますね。田原総一朗さんが討論の司会をするときに「やるの? やらないの?」って聞くんですよ。それに対して「ですから、それは状況を見て……」と答えると、「そんなこと言ってるから、民進党はダメなんだ」ってバッサリ(笑)。

「はい、じゃあ、社民党は?」「これは条件付きの賛成で……」「そんな中途半端なこと言ってるからダメなんだ!」って。

尊徳 おっしゃるとおりですね(笑)。

松尾 「とにかくはっきりしろ」「白黒つけなさい」「賛成か反対か」って、それがテレビ的なんです。バラエティー番組でも、オカルト肯定派と否定派で分かれてタレントが意見を戦わせたりするじゃないですか。それがテレビを面白くしたということはありますね。

ただ、確かにわかりやすく盛り上がるけど、「否定派じゃなくて、懐疑派なんだけどな」って思っていても、テレビの理屈だと通用しない。それがネット環境になると、さらに拍車がかかる。

尊徳 ニュアンスが伝わりにくいですからね。より良い落としどころを探るというのはなおさら困難で、ただただ意見をぶつけ合って終わり。

松尾 ネットにも絶妙なアルゴリズムができて、質の高い情報が評価されるようになれば状況は変わるんでしょうけどね。例えその中に下品な言葉が入っていても、それは”志の高い下品”であって、全体的には質の高い情報だ、みたいな(笑)。そんな判断してくれるプログラムができたらいいのになと思います。

尊徳 志の高い下品ですか(笑)。

松尾 誹謗中傷の中には、言葉遣いだけは上品なものもあったりしますから、言葉だけで評価されると困ります。表面だけじゃない評価システムが出てこないと、この先、ネットではもっともっと地獄が広がるだけなんじゃないかな。

松尾貴史・佐藤尊徳

なぜ日本のタレントは自由に発言できないのか

尊徳 松尾さんは積極的に発言をするから、賛同も集めるけど、誹謗中傷も受けるでしょう? 反感を持たれると、タレントとしてはダメージなんじゃないですか。

松尾 具体的な悪影響は感じたことないですね。売れっ子が僕みたいな発言をしたら問題になるかもしれませんけど、僕、あんまり影響力無いので(笑)。

尊徳 しかし実際、日本ではタレントが社会的・政治的な発言をすることは珍しいことですよね。

松尾 欧米のタレントが社会的な発言を自然にできるのは、エージェントを雇っているからです。一方で、”芸能の人”はどこかに所属するのが日本の文化。芸者さんは置屋に所属していて、ひいきにしてくれる旦那衆がいる。芸能人もプロダクションに雇われている。だからその人たちに迷惑をかけるようなことはしてはいけないというような考え方が今でもあるんでしょう。

尊徳 確かに雇用関係のアリ・ナシは大きいでしょうね。自分の立場を明確にすると、敵を作ってしまうかもしれない。欧米であれば自分だけの問題で済むけど、日本ではプロダクションや周囲の人を巻き込んでしまう、と。

松尾 だから日本では、よっぽど立場が強いか、僕みたいに無神経じゃないと、そういう発言をしないということになっちゃってるんでしょうね。

尊徳 無神経(笑)。ただ、松尾さんはクイズ番組やバラエティーへの出演もあるけど、いわゆる情報バラエティーにコメンテーターとしても出演されますよね。最近、そういった番組は何かと話題になります。「偏向報道だ」と批判する視聴者がいたり、出演者に対して圧力があったと問題になったり。引き続き、そのあたりについて、詳しくお聞きしたいと思います。

【第2部】タレント・松尾貴史「危機感があるからこそ発信をやめない」ある意味、無神経な人たち[2]