2017年1月に発覚した文部科学省による天下りの斡旋(あっせん)問題。組織的であったことが大きくフィーチャーされているが、実は天下りにはいくつか種類があり、事の発端はどうやら民主党政権の決断にあるようだ。この問題を、役人のキャリアパスという視点で是正しようと動きだした平議員に、その方法を聞いた。
天下りにはセーフとアウトがある
府省庁を辞めた人物が、どこかの企業や関係団体に再就職するのが天下りです。今回の文科省による天下りの何が問題かというと、”役所ぐるみ”というところが一番の問題です。
2009年11月に閣議決定された定義では、「『府省庁によるあっせん』を受けない再就職は『天下り』ではない」「『府省庁によるあっせん』には、『国務大臣及び退職した公務員(OB)によるあっせんはふくまれない』」とされています。
府省庁、つまり役所による斡旋を禁じているので、今回の文科省はアウトです。では、政務三役(大臣、副大臣、政務官)による斡旋はどうかといいますと、厳密にはセーフです。それと、官僚OBによる斡旋もセーフになります。
この閣議決定は、実は民主党政権の時に決められたものです。民主党は当時、「天下り根絶だ!」とマニフェストを掲げて政権を取り、「天下り」に対しては自民党よりはるかに厳しい姿勢で臨む政党と国民からは思われていました。しかし、実態は違いました。「天下り」の解釈自体をグッと狭めてしまったのです。
例えば、2009年10月に、亀井静香金融・郵政改革担当大臣が、元大蔵事務次官の○○○○氏を日本郵政社長の座に斡旋するわけです。大臣自らというのがすごいですね。常識的に考えたらこれはアウトですよね? でも自分たちの政権がそういうことをやってしまったために、政務三役の斡旋はセーフという立てつけにしたのだと思います。
さらに、官僚OBの斡旋もセーフにしました。役所の一定のポストの人間が何代も続けて同じポストに天下りしたり、事務次官クラスが典型的な天下りポストに行っているという状況は、普通に考えたらアウトでしょう。でも、これも民主党政権の判断でセーフになりました。これらはすべて、民主党政権下で起きたことです。
つまり、天下りの定義を狭め、法律で定められた監視委員会の設置も放置した結果、天下りしやすい環境を作り出したのは、ほかでもない民主党政権と言えるのではないでしょうか。
監査委員会の重要性をわかっていなかった民主党政権
今回の事例は、「再就職等監視委員会」(以下、監視委員会)の調査で発覚しました。この監視委員会は、2007年の第一次安倍(晋三)内閣の時に法律を作りました。さらに、2008年の福田(康夫)内閣では、公務員の再就職を一元管理する「官民人材交流センター」を設置する「国家公務員制度改革基本法」を制定しています。
しかし、2009年に政権を取った民主党は、いろいろな理屈をつけて監視委員会を設置しませんでした。そして、監視委員会ではなく、大臣が各府省庁の天下りを監視することにしたのです。
これについて、私は2011年2月の予算委員会で、当時の中野寛成行革担当大臣に質問をしています。なぜ監視委員会を立ち上げないのか? 本当に各大臣がそこまで目が届くのかと。
2011年2月23日、予算委員会より。平議員(右)から中野寛成行革担当大臣(左)へ質疑。/©衆議院
当時の衆議院調査局が行った「再就職の調査」では、約4000人の役人が再就職をしていて、いずれの案件も「府省庁」「政務三役」「OB」の斡旋に該当する者はいないという回答が各府省庁から寄せられました。本当にそうでしょうか?
調べてみるとやはりそんなことなく、日本損害保険協会副会長で元内閣官房副長官補退官の○○○氏の情報提供(斡旋)によって、同ポジションに、元国税庁長官の○○○○氏が就いていました。いわゆる官僚OBに斡旋にあたります。つまり役所の回答が虚偽だったということになります。
民主党政権は監視委員会を立ち上げなかったので、各大臣が監視をすることになりますが、当然、このような疑わしい各案件について担当大臣はまるで把握していないことが明らかになったのです。
違法な天下りを無くす監視体制と刑事罰
文科省の問題に限らず、こういった天下りの現状を正すために、自民党行革本部(河野太郎本部長、平将明本部長代理、木原誠二事務局長)は直ちに改善策の政策提言をまとめ、菅義偉官房長官と山本幸三行革担当大臣に申し入れをしました。
まずは徹底的な調査。全府省庁の過去数年の管理職以上の再就職について、これには民間の目を入れてやります。
また、監視委員会の体制も強化します。やはり、ここが大事。監視委員は弁護士などが多いのですが、非常勤も多いため、一部を常勤化することが必要です。
その上で、違反した際の刑事罰の導入も検討します。民進党は、官僚OBによる斡旋はセーフとしましたが、省庁と一体となって組織的に斡旋するのは脱法行為に変わりはないため、規制対象を拡大することを提言しています。
菅官房長官への申し入れの様子。
左から、木原誠二事務局長、河野太郎本部長、山本幸三行革担当大臣、平将明本部長代理。
役人のセカンドキャリアは正しく生かす
一方で、2008年に設置した「官民人材交流センター」(以下、センター)が、ほとんど活用されていません。民主党はセンターを”天下り斡旋センター”だと批判し、「官僚はハローワークへ行け!」と主張していましたが、われわれはこのセンターを活用するべきと考えます。
天下りがダメだといっても、役人のセカンドキャリアをすべて否定するのもおかしい。ということで、センターで誰がとこに再就職したかをちゃんと監視しながら、官僚のセカンドキャリアも支援しようというものです。
例えば、中央省庁のOBでタイの大使館に駐在経験がある役人がいて、一方で、その役所の所管と直接関係のないビジネスを行う中小企業がタイに進出したいとなった場合、法律も、英語も、タイの事情もわかる官僚OBは欲しい人材ですよね?
天下りの何が問題かというと、再就職自体ではなく、再就職先の企業が役所との関係において、有利な扱いを受けたり、情報を得たり、予算を取ったりすることです。ポスト自体が既得権益化して、国益ではなく特定業界のために行政が左右されたり、政策の効果ではなく、人為的関係で予算が組まれたりすること。しかし、それが関係なければ、むしろ優秀な人材は有効活用すべきでしょう。
今回の文科省の不祥事は、まさにやってはいけない「天下り」の典型でした。正直、こんなに古典的な天下りをいまだにやっている府省庁があるとは思いませんでした。
自民党が政権復帰してから(民主党政権が設置しなかった)監視委員会を起動させたので、今回このビルドインした機能がしっかり働いたと思います。安倍政権は今後の調査結果を受け、監視強化、対象の拡大、罰則強化など、国民の理解の得られない「天下り」に対して厳しく対処していくべきです。
一方で、今回のわれわれの政策提言によって、役所の権限と再就職先の仕事を遮断して、官僚も公明正大に再就職できるようになればいいと思っています。今後、行革推進本部の提案を受けて、政府や与党において法改正等の議論が始まっていくものと思います。
天下り自体には同情すべき点がなくはない
今回問題になった文科省のような組織ぐるみの場合は言語道断だが、そもそも、超優秀な役人が天下らなければならないような、現在の風習を変えるべきで、天下り自体には、同情すべき点がなくはない。
というのも、中央省庁は事務次官(長官)がトップだが、出世レースに負けた人はほかにポストが無いので、辞めていくか関連団体などに出ていく。外交官などのポストがある外務省などはまだいいが、ほかの省庁では定年まで勤める人など皆無に近い。キャリア官僚が窓際族で適当な仕事をするなどありえないし。
中央省庁のキャリアを含むすべての官僚は、民間企業に行けばもらえるはずの高給を投げ打って、志高く国に就職する人も多い。というか、ほとんどがそういう人であると思っている。少なくとも、僕が接する役人はそうだ。
職務権限が及ぶような企業への就職は問題がないわけではないが、優秀な人材を欲しがる民間企業はたくさんある。定年まで残れない今の仕組みを変え、きちんと再就職先を斡旋できる「官民人材交流センター」を、官民ともにもっとうまく活用できるようにするべきだ。