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世界を読むチカラ~佐藤優が海外情勢を解説

平行線で御の字 訪米”ゴルフ外交”

2017.03.10

政治

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連日ニュースをにぎわせた安倍首相の”ゴルフ外交”。現職のアメリカ大統領と2日という長い時間を共にしてきたのだが、その結果、日本は何を得たのだろうか?

 作家・元外務省主任分析官

佐藤 優 さとう まさる

1960年生まれ。同志社大学神学部、同大学院修了後、85年外務省入省。モスクワの日本大使館、外務本省国際情報局に勤務したが2002年に逮捕。09年6月有罪が確定し、失職。その後、作家として活躍する。

「稚拙なプロパガンダ(宣伝)を外務省は行っている」(佐藤 優)

朝日新聞の難癖と露、欧州のホンネ

安倍晋三首相の訪米は実に興味深かった。最大の成果は、トランプ大統領と特別の信頼関係を構築し、それを可視化させるのに成功したことだ。端的には、”ゴルフ外交”にその成果が現れている。

首相とトランプ氏は(2月)11日、米フロリダ州・パームビーチにあるトランプ氏ゆかりのゴルフ場2カ所を「はしご」し、計約5時間のプレーをした。首相官邸幹部は「米大統領の時間をこんなに押さえられるだけでもすごい」と話し、今回のゴルフ外交は「日本の国益に資する」との主張だ。(2月12日「朝日新聞デジタル」)

確かに世界唯一の超大国である米国大統領の日程をこれだけ長時間、押さた事例は希有のことだ。しかし、その最大の理由は、トランプ大統領と側近が外交プロトコール(儀礼)に無知なので、不動産業のときの接待と同じ感覚で安倍首相の”おもてなし”をしたからだ。この関連で朝日新聞に掲載された孫崎享氏のコメントは難癖としか言えないひどいものだった。

ゴルフ外交には危うさも伴う。外交評論家で元外務省国際情報局長の孫崎享さんは「中東・アフリカ7カ国からの入国を一時禁じた大統領令で世界中から批判されている相手とともに、その問題に触れずに親しくゴルフをするのは嘲笑の的だ」と批判する。/さらに「プレー中は一時的に通訳らが同行できず、両首脳だけで話す場面も生まれかねない」とも指摘。安全保障や自動車貿易の分野で、トランプ氏は日本側に難しい対応を求めたこともあるだけに、「記録を残せないまま、安倍首相が2人だけの話で何らかの口約束をしていたとしたら危険だ。今後、その約束をもとに進んでしまうおそれがある」(2月13日「朝日新聞デジタル」)

安部首相は、中東、アフリカ7カ国からの入国を一時禁じた大統領令について「アメリカの内政問題だ」という立場を鮮明にしている。この立場を批判する国もあるが、ロシアやヨーロッパの大多数の国は、本音では自分たちもトランプ流の入国禁止措置を取りたいと思っている。トランプ大統領の政策にはさまざまな批判があるが、決して嘲笑されているわけではない。

それから通訳抜きの安倍、トランプ間の密約はありえない。密約交渉を行うには高度な英語力が必要だ。通訳を抜きにして安倍首相が交渉を行える客観的な条件がない。孫崎氏のコメントは、”安倍憎し、トランプ憎し”で凝り固まった常軌を逸した難癖だ。

トランプ大統領に過度の信頼は禁物

首相訪米の成果として首相官邸と外務省が強く打ち出しているのが、尖閣諸島をトランプ大統領が日米の防衛の適用範囲と認めたことだ。2月10日午後(日本時間11日未明)に発表された日米両首脳に共同声明にこう記されている。

 

沖縄県・尖閣諸島を巡り、米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用範囲だと両首脳が確認したとも盛り込んだ。>(2月11日「日本経済新聞」電子版)

尖閣諸島は日本の施政下にあるので、日米安保条約第5条の適用範囲になり、アメリカが日本と共同して防衛するというのは、当たり前のことだ。オバマ前大統領もこのことを認めていた。

首相官邸と外務省は、トランプ大統領が尖閣諸島を日米安保の適用範囲と再確認したことを大きな成果のように演出しているが、このこと自体にニュース性はない。当初から必ず確認できることが明白であった事柄を、あえて成果のように見せる稚拙なプロパガンダ(宣伝)を外務省は行っている。

ちなみにアメリカは、尖閣諸島が日中いずれの国の主権下にあるかについては、態度を明確にしていない。つまり、現時点で尖閣諸島を日本が実効支配しているという事実は認めるが、これら諸島が日本領であるということは認めていない。

アメリカは、中国が尖閣諸島に対する日本の実効支配を武力で覆すことは認めないという立場を明確にしている。しかし、中国が釣魚諸島(尖閣諸島に対する中国側の呼称)を自国領と主張することに対して、米国は異議を申し立てない。尖閣諸島に関して米国が日本の立場を全面的に支持しているわけではないという現実は、今回の”安倍・トランプ会談”によっても変化していないのである。

日中関係で、アメリカの姿勢がトランプ大統領の登場によって日本寄りになったとの見方には根拠がない。外交について定見のないトランプ大統領に過度の信頼を寄せると、日本の国益を毀損(きそん)するリスクがある。

アメリカの首脳と信頼関係を築くことにマイナスはない

 

今回の日米首脳会談を、評論家たちも「ゴルフなどして、親しくなり過ぎるのはどうかと思う」というコメントをしていたが、信頼関係を築くことになんのマイナスがあろうか。

僕も佐藤優氏と全く同意見で、難癖をつけているだけにしか聞こえない。中身に実りがあったかどうかは別にして、マイナスがあるという論点はずれている。 トランプ氏の政策には賛同しかねることもたくさんあるが、だからと言って形式的な話をすれば済むというものでもない。

確かに、北朝鮮の首脳と日本の首相がゴルフをしたら批判の的になるだろう。しかし、超大国であるアメリカの首脳と親しくなることが今の日本にとって、国益を損なうことになるとは到底思えない。

お互い国益をぶつけ合いながら、すり合わせをするのが外交。時には武力衝突になる場合もあるが、そうならないようにギリギリの交渉をするものだ。それに、選挙で選ばれた首脳がある程度の話をするのは当然のこと。だって、選挙民が選んでいるのだから。

政経電論せいけいでんろん

「政経電論」の編集部です。佐藤尊徳(そんとく)編集長の下、若い世代に向けて政治・経済・社会問題を発信しています。イノベーションや働き方改革、北欧型の社会保障、国防、原発、クジラ等に注目中。

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