経済

利用者の利便性を図らずして何が銀行だ![後編]

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前回は、法人口座が出来ないということで銀行の対応の酷さを書いた。野田聖子衆議院議員の所を訪ねたのは、決して政治で圧力を掛けようなどと思ったわけではない。そんなことはできるものでもないし、現場で起きている矛盾を訴えるためである。それと、自民党の総務会長室をみてみたい、という心もあって……(結構ミーハー)。

【前編】「利用者の利便性を図らずして何が銀行だ」

現場の声を政治に生かそう

「そんとくちゃん、今日はどうしたの?」と野田聖子自民党総務会長。「ちょっと聞いてよ。聖子先生。今日は陳情に来たの。……ということで、金融庁の指導が厳しすぎるんじゃないの? これでは新規事業の育成などできないと思う。政治は知っているの?」と私は延々と愚痴った。

「政治も現場の声を拾っていかないとわからないのよね。会社を作るのは大変ね」と慰められ、「とりあえず、愚痴ったからあとは信用金庫で作るよ。今日はありがとう」とすっきりしてしまった(単純)。

その二日後、野田氏から携帯に連絡が来た。

金融庁長官に聞いたら、金融庁の指導ではなく、ぞれぞれの銀行の判断らしいよ、何か不都合があれば、個別指導をするからって」

は? 金融庁長官? ……あら、そんなに偉い人までいってくれちゃったのね……(汗)

「だって、そんとくちゃんが困ってるんだから」と言われ、ウルウルしてしまう。ならば、ここは記者魂で世の中をいい方向に導かなくてはと正義感がメラメラわいてきた。金融庁の見解を聞きにいこう。ということで、後日、金融庁のある課長(役所の課長はかなり偉い)さんを紹介してもらい訪ねた。

不都合がこんなにいっぱいの銀行

大体、登記簿、定款、印鑑証明など法令で決められた書類を用意して銀行を訪ねたのに、口座開設に1ヵ月も審査にかかるとはどんな仕事ぶりだよ。しかも登記簿は法務省が認めた法人設立のための書類だ。銀行は法務省を信じていないということか? しかも、私の友人の会計事務所は1日で口座ができたと聞いていたから、更に腹が立つ。職業に貴賎はないとおばあちゃんに教えてもらわなかったか。

以前こんなこともあった。別の友人がやはり会社の設立を急いでいるときに、三菱東京UFJ銀行四谷支店に駆け込んだ。営業時間内に自分のお金2,000万円を下ろそうとしたら、「現金がありません」との対応だとか。1,000万円までならなんとかなるが、との対応らしい。もっと気の利いた断り文句がないのか。では、1,000万円を下ろしたい人が同時に二人来たら? 100万円の人が20人一気に来たら? この銀行取り付け騒ぎになるだろう。自分のお金を自由に下ろせないなんて何のための銀行だ?

また腹が立ってきた。不動産屋に振込をしなければならないので、現金を持って汗ビッショリで銀行窓口にたどり着いたら、10万円以上の振込を法人名義でするには登記簿が必要だと言われ、「オタクの銀行が口座を作らないからだろ」と行員に絡んだ。

資本金をピッタリ口座に収めなければならないので、全額下ろして端数を抜いて同じ口座に資本金と同額のお金を入れ直して手数料が500円もかかる。おいしい商売だ……。まずい、止まらないからこの辺にしておこう(このままではまた次号にまで続いてしまう)。

金融庁の見解は正しい

さて、金融庁では大変丁寧に説明をしてもらった。銀行の対応とは雲泥の差だ。金融庁の厳しい規制のせいだなどと憤っていてごめんなさい、と心の中で謝った。

「佐藤さん、銀行口座ができなかったのは、9月3日より後ですか?」と課長氏。「登記した(8月6日)次の日ですから、9月3日より前です。それが何か?」と私。横から、弁護士資格を持った部下の方が、「佐藤さんのような方から何件かそのような声が届いてきたので、金融庁は各金融機関にお達しを出しました。法令で定められた書類が揃っていれば、利用者の利便性を図るようにとのことです。それが9月3日です」と説明してくれた。(電子メディアはこういうときに便利だ。クリックしてすぐ見られる。うーん、自画自賛)

わが意を得たりだ。やはりみんな困っているのだ。確かに犯罪につながるようなものは認めてはいけない。しかし、厳しすぎればいいというものもない。

要は、目利きができなくなっているのだ。だから、書類至上主義で厳しくして「実態がないと口座が作れない」などと言うのだ。私の上司がよく言っていた。堀田庄三(元住友銀行頭取)氏は、バランスシートではなく、経営者その人にお金を貸したのだと。(ん? 私の見た目が信用されなかったということか!)融資をするときでも、バランスシートが黒字だったら良くて、赤字ならダメで、その中にある有望性や経営者の人柄など何も関係ないというのなら、機械が判断すればよい。どんな商売でも顧客のことを第一に考えなければなりたたない。

さて、もう一度口座を作りに行って”あげよう”。どんな対応をされるか楽しみだ。

銀行法とは銀行の業務の公共性にかんがみ、信用を維持し、預金者等の保護を確保するとともに金融の円滑を図るため、銀行の業務の健全かつ適切な運営を期し、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする法律。「日本大百科全書」(小学館刊)に書いてある。銀行はれっきとした公共のインフラ機関である。だからこそ、不良債権を抱え潰れそうになっても公的資金で支えられているのだ。