総合人材サービスを展開するパソナグループが今年4月から開始する「エルダーシャイン制度」。定年退職後も働く意欲のあるシニア人材を対象に、これまでのキャリアを生かしつつ、それぞれのライフスタイルに合わせた働き方ができるという、これまでにない新たな試みだ。若い人材ではなく、あえてシニア人材を登用するパソナグループの狙いは何か。新制度の背景とその先の展望に迫る。
第2の人生で新入社員に
「エルダーシャイン制度」は、生涯現役での活躍を目指すシニア人材を雇用する、パソナグループによる新たな社員登用制度だ。対象は定年退職を迎えた60歳以上の人で、フルタイムでの勤務のほか、週に数日や短時間の勤務など、ライフスタイルに合わせた働き方ができる。
雇用形態はパソナグループ各社の契約社員として、原則1年更新。募集職種は「地方創生サービス」、「専門エキスパート」、「ベンチャー(起業支援、起業志望)」の3つがある。
「地方創生サービス」は、地域活性コンサルタントやサービスクルーとなって、パソナグループが地方創生事業に取り組んでいる淡路島や京丹後、東北、岡山などでイベント企画や施設運営業務に従事。主にU/Iターンを望む人が対象となる。
「専門エキスパート」は、これまでのキャリアを通じて培った専門性に特化した業務に従事。内容は営業、財務経理、技術開発、人事、法務、広報、経営企画、知財、介護、保育、障がい者支援、IT、海外事業など多岐に渡る。
「ベンチャー(起業支援、起業志望)」は起業を目指すコース。独立起業に向けたプランの策定や事業・収支計画などについて専門コンサルタントの支援が受けられる。起業準備期間はパソナグループのさまざまなベンチャー事業に従事しながら実践的に学ぶことが可能。明確な事業プランを持っている人やこれから起業したい人が対象だ。また、起業準備や企業間もない企業を法務関連から支援するアドバイザリー&コンサルティングコースもある。
福利厚生の面では、シニア人材に合わせた内容が充実している。
例えば、複雑な年金手続き、確定申告や資産相続などの税金関係、加入保険の見直しなどのアドバイスを行う「ジュニアライフサポート窓口」や産業医による医療相談をはじめ、保健師・管理栄養士・スポーツトレーナーによる日常生活指導、ケアマネージャーによる仕事と介護の両立支援などを行う「ヘルスケアサポート」、地方で勤務する場合の「住宅支援制度」、宿泊施設や飲食店、介護・育児サービスといったさまざまなサービスを優待価格で利用できる福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」などが用意されている。
まずは1年間で80人程度を雇用予定だという。
事前問い合わせは1000件以上あり、2月と3月に東京と大阪で行われた募集説明会には延べ500人が参加、定年退職後の第2の人生のステージとしてシニア層たちの関心の高さを伺わせた。
制度を生んだ同窓会の声と少子高齢化問題
「エルダーシャイン制度」の発案はパソナグループ代表の南部靖之氏だ。南部氏は今年で67歳。きっかけは昨年、初めて参加したという同窓会だった。
「同窓会で定年退職した旧友と久しぶりに再会し、いろいろと話をするなかで、まだまだ社会に貢献したいという人が多かったんです。定年退職後も働く意欲が高い人が多いことを実感しました」(南部氏)
ほかにも、「少子高齢化によって逼迫する労働力」という社会問題も制度の確立を後押ししている。
国立社会保障・人口問題研究所 によると、15~64歳の生産年齢人口は2015年には7728万人だったが2040年には6000万人を割り込み、2065年には4529万人まで落ち込むという推計が出ている。政府も外国人労働者の受け入れ拡大や技術革新による生産性革命などの方針を打ち立てており、その中のひとつに「女性・高齢者の社会進出の応援と活用推進」もある。
つまり、これからは日本社会の持続的な発展を担うという意味でも生涯現役で働き続けることができる仕組みが求められているのだ。
定年退職後も働きたい理由と働く実感
南部氏が参加した同窓会での声を裏付けるように、パソナグループが行ったアンケートでも同様の声が集まった。
「パソナのサービスを利用していただいている50歳以上の方に『何歳まで働きたいか』というアンケートを取ってみたら約6割の方が『65歳以降も働き続けたい』という回答でした」(南部氏)
シニア層の実感として、定年退職後に働きたい理由とは何だろうか。
例えば、「エルダーシャイン制度」の説明会に参加したAさん(仮称)は“やりがい”だった。現在62歳で、58歳で早期退職する前はプリンターメーカーで営業を担当していたという。
「説明会では営業部門のほかに、障がい者雇用と企業のマッチングをするためのパイプ役になる仕事のお話も聞かせていただきました。障がい者雇用というのは、社会で取り組むべき課題でもあるので、働くなかで少しでも関与できて、それが社会貢献につながればうれしいですね」(Aさん)
「エルダーシャイン制度」以前からパソナグループで働いている白井忠昭さん(キャリア支援事業本部 東日本営業第4部 営業担当部長)は社会人になってからずっと営業畑だった。55歳のときにパソナグループに入社して以来13年間、営業の現場の第一線で活躍している。
「60歳で定年を迎え、今は再雇用制度でお世話になっています。私の持論として定年後の人生設計は過去のキャリアを生かしながら、輝けることが課題。今の仕事は、ワクワクするし生きる糧になっています。そういう意味では定年後も仕事はした方がいいと考えています。これからも健康に気を配りながら仕事や趣味で輝いていきたいです」(白井さん)
パソナグループによるアンケートでは、「65歳以降に働く一番の理由」について最も多い回答は「収入を得るため」45.3%だったが、次いで「社会とのつながりを得るため」23.3%や、「健康を維持するため」21.1%、「社会に貢献するため」4.7%などがあり、Aさんや白井さんのように収入以外でも働く意義を見出している人は少なくないことがわかる。
「エルダーシャイン制度」の今後の課題と展望
一方、シニア層に働く意欲がありモチベーションが高くとも、まだ課題はあると南部氏は語る。
「一番の問題は社会全体で雇用のミスマッチがあることです。例えばハローワークに行くとシニア層は高齢というだけでなかなか仕事が見つからない。経験やノウハウがあっても年齢で弾かれてしまう。次に定年退職で『人生が終わった』と思っている方がまだ多いということです」(南部氏)
課題解決には意識改革が必要だ。
「まずはシニア層には次のキャリアを、自信を持ってスタートできるように、入社前研修として身だしなみやファッション講座、IT・トレンド講座などを実施します。次に経験や知識を分類化して才能バンクのようなものを構築する。そうすることで各人に最適な仕事を割り振りやすくなります。
最初は社内で80名の仕事を作りますが、実績を積むことで人数を増やし、他の企業に制度のノウハウをコンサルティングすることもできるようになります。そうすれば広範囲で雇用も広げられ、社会制度の確立にもつながるでしょう。そこまで持っていかなければいけないと考えています。
その一方で、現場では若い人たちに対して、キャリアの中で培った経験や知識を生かしたメンター(助言者)になってくれたら若い人たちも育ちます」(南部氏)
「エルダーシャイン制度」の「シャイン」とはパソナグループの“社員”であると同時に、“それぞれが生き生きと生涯現役で輝いて欲しい(Shine)”という意味も込められている。
若さには無い経験と知識を強みとしたシニア層を一企業の制度の中だけでなく、これからの社会の中で輝かせることも社会全体の課題なのかもしれない。