国会議員が新人の頃に経験する”雑巾がけ”とは、いわゆる先輩議員の下働きのこと。一体どれほど大変なのか? 奈良県第4選挙区から出馬し、昨年衆議院議員になったばかりの田野瀬太道氏に、新人議員ならではの苦労をうかがった。
新人議員の超ハードな一週間
政治家は、一年365日休みなく活動しています。とくに私は新人ですから、議員になってからの1年と数ヵ月間、丸1日休んだ日はありません。基本的に東京と地元を往復する日々ですが、平日は朝8時から農林部会や国土交通部会などの「部会」に出席するところから一日が始まります。部会は以前と大きく変わり、所属メンバー以外も入れるようになったので、新人のうちは特に関心のある部会にたくさん顔を出すようにしています。
そこから衆議院の委員会や勉強会、火・木・金は衆議院の本会議の定例日があり、そのほかにも毎日さまざまな方と会っています。地元、奈良県は文化遺産が多い土地ですから、学芸員の方や博物館と古墳に関する打合せをすることも。
12月が近くなってくると、一日20件以上の予定が入る日もよくあります。日中の予定を乗り切ると夜はみっちり食事会。金曜日の夜、そのまま地元の奈良へ帰り、土日も休むことなく、朝・昼・晩・晩・晩と地元の方々との会合が待っています。
地元、奈良での大変なこと
週末の会合三昧を乗り切ると、月曜日は朝から奈良の県道に1時間半ほど立ち、通勤の方々に挨拶をします。新人ですし、きちんと地元に帰ってきています、とお顔をお見せするのも大切なことです。
地元で気をつけていることは、有権者の方々の視線です。経費削減で秘書が事務所の前で洗車していると、「水のムダ」だと苦情をいただいてしまったり、飲食店で食事をしていると「この間、あのメニューを頼んでたね」なんて言われることも。地方ではよくあることですが、東京にいるときとは大きく違いますね。
月曜日の朝、県道での挨拶が済んだら新幹線で上京。休みのないスケジュールで生活していますから、移動で一人になれるこの2時間はすごく大切です。本を読んだり、政策の方向性を練ったりと、とても有効に使っています。なにより東京と地元を往復するなかで、頭と気持ちの切り替えをするいいタイミングになっています。
先輩議員との関係性
議員というのは一国一城の主ですが、やはり階級制。先輩議員に厳しく指導されることも多々あります。しかし、最近はそういった風潮も薄れてきていて、以前なら新人が意見すると「そんなことは20年も前から議論されている。勉強してから出直してこい!」なんて叱られたものですが、今ではそれを諌める先輩議員も減っている気がします。意見しやすい環境になったと言えるのかもしれませんが、吟味せずにポピュリズムで発言するような若手議員が跋扈(ばっこ)してしまうのでは、という思いもあります。
ストレスを溜めないことが肝心
休みがなくて苦にならない?と聞かれることがありますが、私には息抜きの発想がありません。気に入らないことを言われても、腹の中でプラスに変えてしまうので、ストレスが溜まらないんです。議員の息子ならではの、特性かもしれません。
小学校時代から、学校の先生に、授業中に聞こえる父の選挙カーの「田野瀬、田野瀬」というアナウンスを、「黙らせてこい!」と言われてしまったこともあります。そういった正面からやってくるいろいろな衝撃を、体捌きでちょっと角度を変えながら、真正面から受けないようにしてきたのかもしれません(笑)。
新人議員・田野瀬太道のこれから
将来は、「教育」「外交」「防衛」の3ジャンルで大きな仕事ができる議員になりたいと思っています。これらは国が成り立つための重要な要素ですが、この3つのジャンルでは選挙で票が取れません。だから今はまだ勉強をしながら時機を待ち、3回生くらいになったら本格的にやっていきたいと考えています。
そしてもう一つ、私のライフワークとして掲げているのが、山と木について。「国土の均衡ある発展」のためには、日本の7割を占める山林をもっと整備し、衰退した林業を立て直していく必要があります。以前、林野庁予算は6,000億あったのが、現在は3,000億と半減し、山が放ったらかしになっています。過疎化も進み、少し雨が降れば土砂崩れが起きて、結局多額の復旧金がかかります。そうならないためにも平素から少しずつ手を入れて、豊かな国土づくりを目指していきたいです。
意外と知らない新人議員エピソード
【街頭演説】新人議員は県道に立つ
新人議員に欠かせないのが、街頭演説です。新人はまず、有権者に顔をお見せして、がんばっている姿を見てもらうことが大切です。東京では“駅立ち”をして、マイクを使って自分の政策を話したり、地元に帰れば1時間半ほど県道に立って車に乗っている方々へ挨拶します。田舎は車社会なので、駅立ちしてもほとんど人に会えないんですね。なにより、きちんと地元にも帰ってきていることを有権者に知ってもらうためですから苦労は惜しみません。街頭演説は新人議員にとってとても大切なことです。
【部会・委員会】新人議員は一石を投じる
新人議員が先輩議員に言われることは、議論のときにまず「一石を投じろ」ということ。委員会や部会など議論の場で真っ先に意見を言い、矢面に立つ役です。言いづらいことや相手にとって耳の痛い意見も多いので大変ですが、新人だからこそできることでもあります。
最終的には先輩議員たちが「まあまあ」と場を捌いて、上手に落としどころに持っていきます。議員は当選回数を重ねて5回生、6回生となれば、次第に角が研磨されて丸くなっていくものですから、まだ尖った部分のある僕ら新人議員がどんどん意見して、物事を動かすエネルギーになっていきたいと思っています。
【会合】新人議員は酌み交わす
夜は基本的に食事会(会合)です。多いときは一日に5、6件。週を平均すれば毎日3件の会合があります。無事、平日が終われば金曜日の夜には地元の奈良に帰郷し、今度は地元の方々との会合が土曜の“朝10時”からセッティングされています。土日は、朝・昼・晩・晩・晩とだいたい2時間ずつ、お酒を飲みながらの会合に参加。地元の方には「体が一番やで」と気遣われつつ、「俺の酒飲めへんのか」と言われたり(笑)。私は議員になる前に秘書をやっていましたので、議員の生活はだいたいわかっていたつもりですが、お酒の摂取量だけは想像を越えていましたね。
【怒涛の年末年始】新人議員は一日も休まない
議員というのは365日休まず活動しています。特に年末年始が忙しい。まず大晦日から元旦にかけて寝ずの神社まわりがあります。たき火をたいている奈良中の神社に「お疲れさまです」と挨拶してまわり、そのまま徹夜で宗教団体の「朝起き会」へ行きます。1時間半正座をしながらお話を聞いて、一年が始まるんです。日本全国の議員が元旦の朝日が昇る前から徹夜でそういったことをしていると思います。こういった活動は、有権者の方にはあまり知られていないかもしれませんね。