問題発言、金銭トラブル、不倫報道、暴力・暴行……。平成が終わり、令和になっても不祥事を起こす国会議員が後を絶たない。公僕として身を捧げておきながら、よくもまあこれだけ低次元な過ちを犯せるものだ。不祥事を起こした議員はその後、離党を経て再出馬したり、議員辞職したりとそれぞれが道を選択するのだが、その多くが進退を「有権者(選挙)に委ねる」とすることがある。最近では、「戦争」発言で党を除名され糾弾決議まで受けた丸山穂高議員が「議員の出処進退はその議員自身が判断すべきこと」「最終的には選挙での有権者のご判断によるべきもの」と反発、自ら辞める気はさらさら無いようだ。さて、仮に辞めてほしい議員がいる場合、果たして有権者は彼らを辞めさせることはできるのだろうか?
選挙が無い限り不祥事議員も国会に残り続ける
安倍晋三首相が6月19日の党首討論で解散の見送りを表明し、今夏の衆参ダブル選の可能性が消えた。となると気になるのが北方領土をめぐる「戦争」発言が問題視され、国会で「国会議員としての資格はないと断ぜざるを得ない」という旨の糾弾決議を受けた丸山穂高衆院議員。辞任を拒否し、雲隠れしているが、選挙が無ければ当面、国民の審判を受けることなく、議員で居続けられることとなる。
丸山氏は衆議院の沖縄及び北方領土に関する特別委員会のメンバーとして、北方領土のロシア人住民と日本人の元島民らが交流する“ビザなし交流”で5月11日に国後島を訪問。その夜、酒に酔って日本の訪問団団長と言い争いになり、「(島を取り戻すには)戦争しないとどうしようもなくないですか」などと詰め寄った。
さらには下品な発言を繰り返し、「女性のいる店で酒を飲ませろ」などと騒いで無理やり外出しようとしたという。野党は辞職勧告決議案を採択するよう求めたが、与党との協議を経て国会で初めて糾弾決議案を提出。6月6日の本会議で、全会一致で可決された。
この際、話題となったのが採決を棄権した自民党・小泉進次郎氏だ。小泉氏は棄権の理由について「個人の批判は自由だが、国会として批判するのは次元が違う」と説明。「丸山氏の発言で庇えるものは何も無いが、議員の出処進退は本人が判断すべきで、辞めなかった場合どうするのかを判断するのは選挙だ。それが有権者に与えられた民主主義の力だ」と語った。丸山氏が国会議員としてふさわしいかどうかを決めるのは有権者であり、次回の衆院選で判断されるべきだというわけだ。
与党・自民党の不祥事オン・パレード
では、過去に不祥事を起こした議員がその後、選挙で有権者からどのような判断を受けたか、振り返ってみよう。
2017年10月の前回衆院選で注目を集めたのは2012年に初当選した自民党“魔の2回生”たちだ。
武藤貴也氏は金銭トラブルなどを報じられ、2015年8月に離党。宮崎謙介氏は不倫報道を受け、2016年2月に議員辞職した。秘書への暴言や暴行の様子が報じられた豊田真由子氏は2017年8月に離党、女性問題を報道された中川俊直氏も同年8月に離党した。
このうち、武藤氏と中川氏は出馬を模索したが、自民党が対抗馬の擁立を決めたために立候補を断念。武藤氏はその後、滋賀県議選に挑戦したが、落選して政界引退を表明した。宮崎氏は立候補を見送ったが、同じ2回生で、妻である金子恵美衆院議員が自民党公認で立候補して落選。豊田真由子氏は無所属で立候補したが、自民党候補に大きく引き離されて落選した。
一方、同じ自民党でも金銭スキャンダルを報じられて2016年1月に経済再生担当大臣を辞任した甘利明氏は次点の2倍超の票を集めて12回目の当選。応援演説での問題発言やPKO日報隠ぺい問題の責任をとって2017年7月に防衛相を辞任した稲田朋美氏も大差で5回目の当選を決めた。“魔の2回生”の一員として繰り返し問題発言が指摘され、2017年5月に自民党東京都連副会長を辞任した大西英男氏も3回目の当選を決めている。
これらの事例を見ると、自民党の場合は「公認を受けたかどうか」が当落を分けた可能性がある。衆議院の場合は「小選挙区制」であり、有権者の多くは人物よりも政党に重きを置いて投票対象を決める傾向がある。仮に候補者が問題を起こした人物であっても、安倍政権を支持しているなら自民党候補に入れざるを得ない、というわけだ。
その点では丸山氏は問題発言により、所属する日本維新の会から除名されており、次回衆院選で維新は別の候補を立てる方針。その他の政党も受け入れることはないだろうから、仮に立候補したとしても厳しい戦いを余儀なくされる。現在、体調を理由に雲隠れしていることから、立候補を断念する可能性が高いだろう。
ほかに最近注目された不祥事議員といえば、繰り返し問題発言を指摘され、2019年4月に事実上、更迭された桜田義孝前五輪相。前回の2017年衆院選では10万票余りを獲得して当選、野党候補の比例復活も許さなかったが、次の選挙では有権者からどんな判断を示されるか。前回衆院選で比例中国ブロックの自民党比例単独候補として当選し、「LGBTは生産性がない」などとした寄稿が大きく批判された杉田水脈氏についても党がどのような判断をするか、注目される。
進退を決めるのは本人でも有権者でもなく政党?
野党で2017年の衆院選において注目を集めたのは山尾志桜里氏だろう。2017年の民進党代表選後、前原誠司新代表がいったん幹事長に内定したものの、既婚男性との不倫疑惑が浮上。幹事長への起用は取りやめとなり、離党届を提出した。
直後の衆院選に山尾氏は無所属で立候補。自民党の現職との一騎打ちとなり、約800票差の僅差で当選した。無所属で比例代表に重複立候補していなかったため、仮に1票でも少なければ落選するところだった。
同じ民主党系で不倫騒動があったものの選挙に勝ち続けているといえば細野豪志氏がいる。当選3回の若手だった2006年にテレビキャスターとの不倫現場の写真を週刊誌が掲載。党役職の辞任に追い込まれたが、逆に知名度を上げる結果となった。直近となった2009年の衆院選では民主党への追い風もあり、自民党候補に圧勝。逆に向かい風となった2012年に衆院選でも危なげなく当選した。ただ、その細野氏もその後2回の衆院選で得票数を減らしており、今年に入って無所属のまま自民党の二階派に入会した。選挙に強いと言えど、自民党の看板は魅力的に映るのかもしれない。
こうしてみると、勢いの無い政党はともかく、現在の自民党のように勢いのある政党に属している場合は「辞めなかった場合どうするのかを判断するのは選挙」ではなく「政党」ということになる。これは果たして小泉氏の言う「民主主義の力」なのだろうか。小選挙区制度の導入から25年、そろそろ見直す時期に来ているのかもしれない。
問題のある人を公認するような党だと思ったら、その党に投票しなければいい
残念ながら、議員を辞めさせることはできない。そして、落選させることもできない。
小選挙区において、相手候補を当選させれば、選挙区での落選をさせることはできるが、比例と重複立候補をしていれば、惜敗率によっては落としたと思った議員が当選してしまう。文中とは違う問題だが、この制度は即刻廃止するべきだ。本当に有権者には落選させる権利がない(特に衆議院)。相手候補と圧倒的な差が出れば、惜敗率で比例も落選させることができるが、それには有権者の総意が必要だ。
強い党に所属していればすべて当選できるという訳ではないが、党の公認さえもらってしまえば、その地方組織も資金も使うことができる。無所属で立候補するよりも圧倒的に優位なことは間違いない。
とはいえ、やはり民主主義社会なのだから、有権者がその意思を示せるのは選挙だ。民主党が政権を奪取したときは、自民党は衆議院で119人しか当選できなかった。当然スキャンダルを抱えるような議員は一掃された。
問題のある人を公認するような党だと思ったら、その党に投票しなければいいだけ。「一票の格差」など、現選挙制度に問題は山積しているが、有権者は意思表示のために投票は必ずしてもらいたいものだ。