昔は、銀行員になれば一生安泰といわれた。しかし、今はメガバンクも拠点の統廃合や大規模な人員削減が進み、出世の道は狭くなり転職者も増えているという。長引く低金利や異業種の参入で経営環境は厳しくなるなか、6月にみずほフィナンシャルグループはメガバンクで初めて兼業・副業の解禁を発表。社員の成長によって多様化する顧客のニーズに応えるのが狙いだが、本施策は人材の流出を止め、新たなビジネスを創出することはできるのか。
最も保守的な銀行が変わらざるを得ない時代
みずほフィナンシャルグループ(FG)は、メガバンクで初めて社員の兼業・副業を解禁する。FGの坂井辰史社長が各種メディアのインタビューに応える形で明らかにした。具体的な兼業・副業ルールを策定し、組合との交渉を経たうえで早ければ今年度後半にも解禁される見通しだ。
想定される兼業・副業ルールは、届出を出した社員に対して、通常業務に加えて、希望する企業で一定の時間働くことを認めるもので、スキルを生かして会社を設立して事業を行うことも認める。
みずほ関係者によると、「週のうち1~2日程度、企業に行って仕事をする。給与は両方から支払われるイメージではないか」という。その対象は、「まずフィンテックを意識したIT企業との間で行われるだろう」(同)と予想されている。坂井社長も「みずほのネットワークを社外にもつなげて、われわれがサポートしていく」と期待を寄せる。
最も保守的で、終身雇用を前提としてきた銀行が、進んで副業や兼業を認可するのは、もちろん政府の「働き方改革」を踏まえたものだが、同時に、このままでは優秀な人材を確保できず、衰退していく業界になりかねないという危機意識が働いている。
実際、これまで銀行は高学歴の優秀な人材の宝庫だったが、いまや就職人気はガタ落ち。加えて、「これから5年間くらいの間にバブル期に大量採用された社員が転出時期を迎えるが、はめ込み先となる関連会社の数が足りないという差し迫った問題もある」(メガバンク幹部)という。みずほFGの副業・兼業認可の背景には、そうした金融界全体が抱えた苦しい台所事情が垣間見える。
構造改革で巨額の減損処理
とりわけみずほFGは2019年3月期決算で6800億円もの減損処理を行い、連結純利益は965 億円まで低下した。減損の大半は固定資産の処理で、ソフトウェアやシステムが大部分を占める。
背景には、旧三行(富士、第一勧業、日本興業)統合以来の懸案であったシステムの統合が最終局面入りしていることがある。すでに中核のみずほ銀行のシステム統合は終了し、7月のみずほ信託銀行の統合作業を残すのみになっている。
だが、関連する年800億円規模の償却費がこれから最長10年にわたり収益を圧迫することは避けられず、競合する他2メガバンクとの収益格差はさらに拡大しかねなかった。その財務面のネックを減損で一掃し、新中期経営計画でV字回復させるのが経営陣の狙いだ。会見で坂井氏は「構造的課題を解決し、強みや底力を最大限発揮するため、今回の一括処理がベストな選択肢であると確信している」と語った。
“第2の人生設計を模索してください”というメッセージ
みずほFGは2026年度までに1万9000人の人員を削減する予定で、国内130カ店の店舗の統廃合も計画されている。それだけ支店長ポストは減少するわけだ。
みずほのみならず、大手銀行の社員は、50歳になるとすべての社員が退職後の生活設計を見据えた研修を受けさせられる。俗に「黄昏研修」と呼ばれるもので、「自身のスキルや資格を見つめ直し、退職後の人生設計を再確認する内容だが、そこで家族への感謝の手紙を書かされるときには皆、涙がこみ上げてくる」(メガバンクOB)という。
みずほFGにおける今回の兼業・副業の解禁は、そうした若くして転出させられる銀行員の悲哀の裏返しであり、“早くから第2の人生設計を模索してください”という経営側のメッセージとも受け止められる。銀行に就職すれば、生涯安泰という時代は終わったといっていい。当然、銀行に対する忠誠心が大きく低下することは避けられないだろう。