7月21日の投開票に向け、全国各地で舌戦が繰り広げられている参院選。最大の争点は「安倍政治」か「非安倍政治」かの選択だが、「一人区」などで共闘する野党も政策が完全に一致しているわけではない。参院選では選挙区のほかに比例代表もあるため、有権者はしっかりと政策を比較して自分の考えに最も近い政党を選ばなければならない。
»「安倍政治」か「非安倍政治」か【参議院選挙2019:政策比較】
与野党ともに年金・教育に大きな差はない
有権者にとって、最も関心の高い政策は「年金」――。産経新聞社とFNNが実施した世論調査で、重視する政策・争点を聞いたところ「年金など社会保障」が40.6%で最多だった。身近な話題だけにもともと注目度は高いが、今回は特に、選挙直前に「老後資金2000万円不足」問題がクローズアップされたため、なおさら有権者の関心が高まった。
自民、公明の与党、そして野党各党の政策を見比べると、年金などの社会保障については大きな差は見られない。政府・与党内では年金受給開始年齢の引き上げが論点として持ち上がっているが、自民党の選挙公約には「年金受給開始時期の選択肢の拡大」との文言にとどまる。自民党と連立を組む公明党の公約にも年金生活者への給付金を拡充するとあるだけ。老後資金の不足を具体的にどう賄うか、そもそも公的年金制度が今後も機能するのかといった根本的な問題には触れられていない。
野党の公約を見てもデフレ時に支給額を抑える「マクロ経済スライド」の廃止等、当たり障りのない文言が並ぶが、公的年金制度の根本的な問題を解決するような政策は見当たらない。日本維新の会は賦課方式から積み立て方式への移行を提言しているが、具体的な制度設計には触れていない。与野党ともに有権者に“痛み”を想起させる話は書きたくない、という本音が透ける。
主張の違いがわかりにくいのは教育分野も同じ。政府・与党は消費増税の増税分の一部を財源に幼児教育を無償化する方針で、自民党、公明党はさらに公約に高校や大学などの教育費負担軽減を盛り込んだ。一方、野党各党も軒並み教育予算の拡大や授業料、給食費などの無償化、児童手当の拡大などを謳っている。与野党ともに大盤振る舞い状態だが、問題は実現性。かつて民主党政権は公約に子ども手当の支給などさまざまな政策を盛り込んだが、財源を確保できずに多くの政策が途中で頓挫したり構想倒れとなった。消費増税は凍結するわ、教育予算を大盤振る舞いするわ、では財政が破綻してしまう。財源についてしっかり考えられているかどうかは投票先を見極める際に重要なポイントだ。
消費税増税で与野党対立、憲法改正は野党間でも温度差
逆に与野党ではっきり分かれたのが消費税についての対応。政府・与党は10月に消費税率を10%に引き上げる方針だが、比較的与党に近い日本維新の会も含めて、野党各党は増税の「凍結」や「中止」で一致した。
一方、憲法改正については自民党が「取り組みをさらに強化」とし、公明党も「憲法改正でしか解決できない課題が明らかになれば、必要な規定を付け加えることによって改正」と前向きな姿勢を示した。「改憲勢力」である維新の会も「各党に具体的改正項目の速やかな提案を促し、衆参両院の憲法審査会をリード」としたが、その他の野党は軒並み後ろ向き。ただ、「安倍9条改憲に反対し、断念に追い込む」とした共産党に対し、保守系の議員も所属する国民民主党は「未来志向の憲法を議論」と書くなど温度差はある。
選挙公約は政策の並び順にも注目
各政党の公約を見る際には、政策の並び順にも注目したい。自民党は最近の国政選挙で公約の最初に経済政策を掲げることが多かった。安倍政権の最大の成果が「アベノミクス」だと考えていたからだろう。しかし、今回の参院選で最初に出てくるのはサミットにおける安倍首相の姿と「世界の真ん中で、力強い日本外交」との文言。足元の景気に不透明感が漂っていることから、安倍政権の外交力をアピールする狙いに転換したとみられる。
一方の野党は、立憲民主党が最低賃金の引き上げなどで家計所得の引き上げを図ると訴え、国民民主党は児童手当の対象拡大と増額を主張。日本維新の会は結党時からの目玉政策である議員報酬の削減や行政改革を掲げ、共産党は消費増税の中止を最初に挙げた。選挙公約に記載された政策の順番を見れば、その政党が何を重視するかがわかる。
政党以外の諸派の中でも、特に山本太郎氏率いる「れいわ新選組」がネットを中心に注目を集めている。同団体は消費税の廃止や公的住宅の拡充、奨学金の「徳政令」など共産党や社民党よりリベラル性の高い政策を打ち立てている。比例代表の特定枠に障がいを持つ候補者を擁立したのも特徴だ。政策の実現性はともかく、際立った主張だけに一定の支持を集める可能性がある。
このほか、NHKの受信料支払いに反対する「NHKから国民を守る党」や「労働の解放をめざす労働者党」、「安楽死制度を考える会」、「オリーブの木」、「幸福実現党」といった諸団体も候補者を擁立している。