ANAが瞬間移動を発表 コミュニケーション型アバター「newme」来春ローンチ

ANAが瞬間移動を発表 コミュニケーション型アバター「newme」来春ローンチ

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2019年10月15日、先端技術を紹介する国内最大級の見本市「CEATEC2019」でANAホールディングス代表取締役社長・片野坂真哉氏は基調講演において、アバターをインフラとした新しい社会の創造と、コミュニケーション型アバター「newme(ニューミー)」を発表した。航空・運輸業を本業とするANAがなぜアバターに取り組むのか。ANAが思い描く超スマート社会「Society5.0」とは。

「瞬間移動」を発表します

片野坂社長は講演冒頭に「私たちANAホールディングスは今日この場で『瞬間移動』発表します」と発言。アバターを介して、世界中のあらゆる場所へ“瞬間移動”し、視覚、聴覚、触覚といった感覚を共有できるようになるという。

なぜANAがアバターの技術開発をしているのか。その背景には飛行機の利用率がある。

片野坂社長によると、世界の総人口約77億人に対して飛行機を利用しているのはわずか6%。94%は病気などの身体的理由や社会的ルール、経済的格差によって移動ができない状況に置かれている。

「そんな人たちを含めて、すべての人類が物理的、身体的制限を越えて移動し、つながり、支え合うことができる世界を叶えることが、飛行機を飛ばすことと同じぐらい重要なのです」(片野坂社長)

プロジェクトの始まりとなった世界的賞金レース「ANA AVATAR XPRIZE」は現在、賞金総額10億円をかけて、世界中から81カ国、820のチームがレースに参加している。

64カ国470チーム以上が参加表明 何でもできるアバターをつくるANA AVATAR XPRIZE

2018.12.11

アバターによってもたらされる未来

“瞬間移動”が実現できるようになると、どんな未来が実現するのだろうか。

「まず、意識をアバターにトランスポーテーションすることで、その場にいるのと同じような体験ができるようになります。2つ目はアバターによって経験やスキルをシェアできるようになります」(片野坂社長)

例えば、遠くにいるアバターが自分と全く同じ動きをし、触感も自分の手で触ったのと同じように感じることが出来るようになるという。さらに料理人や医師などが自分の技術を遠く離れた人間に伝えることも出来る。

アバターの機能の進化についても片野坂社長は語る。

「2025年までに介護士と同じ動きをするアバターが登場します。

2030年までにはレスキュー隊と同じことができるようになり、人間が近づけないような状況の災害地にアバターが出動して、救助や復旧に活躍できるようになるでしょう。

2040年までには脳からの直接の指示でアバターを動かすことができるようになります。頭で思うだけでリンゴをつかむことができるので、腕の不自由な方もアバターを通じて腕を使うことができます。

そして、2050年はアバターと自分の差が一切無くなります。つまり視覚、聴覚、触覚だけでなく嗅覚、味覚といった人間の感覚すべてがアバターを通じて感じられるようになり、全く同じ体験ができるようになります」

講演には女優の綾瀬はるかさんも登場。片野坂社長に教わりながら「newme」を実際に操作し、遠くにいるスタッフと会話した。また、片野坂社長自身も実際にウェアラブルアバターを装着。他者の身体を借りてコミュニケーションや作業ができるアバターで、装着者の背中から延びるロボットアームは2人羽織のよう。

アバターのインフラ化

アバターの進化を語る一方で、片野坂社長はこのような世界の実現にはアバターのインフラ化が必要だと訴えた。

「世界中のあらゆる場所に瞬間移動ができるような環境作り、社会実装は私たちだけではできません。自治体やあらゆる分野のデベロッパーの協力を得て『アバターがいる街づくり』を普及させたいと考えています」

今回発表されたアバター社会実装パートナーとしては東京都、大分県、沖縄県、香川県、石川県加賀市などの自治体をはじめ、大阪大学、理化学研究所などの大学・研究機関、三井不動産、森ビル、三菱地所、阪急阪神不動産などのデベロッパーのほか、三越伊勢丹、電通、携帯電話大手3社など多数の名前も挙がった。

さらにインフラ化の第1段階として発表されたのがアバター「newme(ニューミー)」だ。

誰もが安く、気軽にアバターを導入できることを想定し、「newme」は「足」となる車輪を土台とし、そこから延びるポールの先端にタブレット端末を備えた形状で見た目はシンプル。タブレット端末は「目」と「耳」の役割を担うだけでなく、遠隔から操作する人の表情も映し出し、画面を通して操作者の存在感を感じさせる。

片野坂社長の両側にいるのが「newme」。それぞれに、後ろにいる女性2人が“アバターイン”している状態。

「これはロボットではなく、ここに人格が生まれる。もうひとりの『新しい私』です」(片野坂社長)

まずは東京オリンピックの時期までに「newme」1000台の普及を目指すという。プラットフォームとなるアプリ「avatar-in(アバターイン)」は来年4月にローンチする予定だ。

「今はアバター社会の始まりでしかありません。インターネットが世界中に普及し、われわれの生活に入り込んでいるように、これからは“アバター社会”がやってきます。

経団連が掲げている『Society5.0』の実現に向けてアバターは必要不可欠です。アバターによって世界中が瞬時につながり、距離的、身体的、物理的な一切の制限を越えることで人々が理解し合い、技術や思いをシェアでき、より平等で平和、安全な社会を実現できます。

アバターによるデジタルからリアルへの働きかけ。さらに多様な人々の想像と創造によって社会のさまざまな重要課題を解決していきたいと考えています。

ANAが掲げる未来は私たちでは実現できません。アバターを支える技術、あるいは開発、こういったものはこれを社会実装していくためにはあらゆる分野の参画を期待しています」(片野坂社長)

Society5.0(ソサエテイ 5.0)

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。内閣府の第5期科学技術基本計画において「我が国が目指すべき未来社会の姿」として提唱された。狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に続く新たな社会像。