新型コロナショック 金融危機を阻止するには

追加の金融緩和を決定した日銀の黒田東彦総裁/写真:APアフロ

政治

新型コロナショック 金融危機を阻止するには

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新型コロナウィルスの蔓延による国内経済への影響が懸念されている。日経平均株価は一時、1万7000円台を割り込み、為替も1ドル=101円台まで円高が進行した。

 

日本経済への影響を懸念した政府は、矢継ぎ早に経済対策を発表。第1弾としてインバウンド急減の影響をもろに受ける観光業などの中小企業向けに5000億円の低利の金融貸付・保証枠を設けたのに続き、第2弾として中小企業を対象に実質無利子・無担保で融資する新制度を創設、総額1兆6000億円規模の金融支援にに乗り出すことを決めた。

 

さらに、首相は、4月に緊急経済対策をまとめる意向で、「一気呵成にこれまでにない発想で思いきった措置を講じる」と明言。具体的には、どのような政策が総動員されるのだろうか。

焦点は「減税」と「日銀の追加緩和策」

想定される経済対策は多岐にわたる。「(新型コロナの影響は)リーマン・ショック並みかそれ以上かもしれない」(西村康稔経済再生相)との認識にあることから、08年のリーマン・ショック直後の15兆円規模の国費投入を上回る可能性がある。すでに家計に向けての現金給付策も浮上しているが、やはり焦点となるのは「減税」と「日銀の追加緩和策」となろう。

「減税」では、新型コロナで業績が悪化した企業の固定資産税の減免等が検討されているが、市場ではより大胆な「消費税率の臨時的な引き下げもあり得る」(市場関係者)との見方が浮上している。消費税率を1%引き下げれば、2.4兆円程度の減税効果があることから、仮に5%まで引き下げれば12兆円の減税効果が生じる計算となる。「新型コロナウィルスの影響はほぼすべての業種に及んでいることから、財政出動による公共事業の上乗せといった措置よりも、広く、かつ直接的に利益がゆきわたる減税のほうが効果的だろう」(同)との指摘には説得性がある。

麻生太郎財務相は、消費税率の引き下げには慎重な姿勢で、与党内にも「消費税減税は元に戻すのが大変だ」と慎重な意見が大勢を占めるが、検討に値しよう。

一方、日銀も動いた。FRB(連邦準備理事会)が3月15日に緊急の追加利下げに踏み切り、政策金利をゼロ%にしたことを受け、日銀も18.19日の金融政策決定会合を前倒し、3年半ぶりに追加緩和に踏み切った。年間6兆円を目途に買い上げているETF(上場投資信託)を2倍の12兆円に増やすことをはじめ、REIT(不動産投資信託)の買い入れも2倍の年間1800億円に増額する。

さらに企業への直接的な資金繰り対策として社債やCP(コマーシャルペーパー)の購入も増額するなどの内容だが、市場は織り込み済みの施策が多くサプライズに乏しかった。日経平均株価は一時500円を超す下げとなった。市場では、「FRBが追加利下げに踏み切り、ゼロ金利措置を採ったことから、内外金利差の縮小から円高進行が懸念される。思い切ったマイナス金利の深掘りもあり得る」(市場関係者)との見方も浮上していただけに失望感は拭えない。

引き続き、市場ではマイナス金利の深掘りが俎上に上るが、ただ、この場合は、副作用として金融機関のさらなる収益圧迫要因となることから、金融機関への悪影響に目配りする必要が生じる。とくに収益低下が顕著な地方銀行など地域金融機関への配慮は不可欠となる。「地方金融機関は新型コロナによる地域経済への影響を回避するため、中小企業への資金繰り対策に汗を流している。その地域金融機関の首を絞めるマイナス金利の深掘りに踏み切ることは、相矛盾する政策とならないか」(地銀幹部)との声は根強い。

ゆうちょ減損処理の可能性も……

また、経済対策に時間的な猶予はないことも忘れてはならない。一連の金融支援策も3月の期末対策を念頭に置いたものだが、企業や銀行がいま最も神経を尖らせているのは3月末の株価水準だ。「このまま株価暴落基調で推移すると持ち株の減損が現実味を帯びかねない」(メガバンク幹部)と懸念されているためだ。

象徴的なのは日本郵政グループで、グループ傘下のゆうちょ銀行株の減損懸念が浮上しており、その額は2.9兆円にも上ると試算されている。新型コロナショックにともなう株価下落はあらゆるセクターに及んでいることから、減損リスクも大幅・広範に及びかねない。当面、株価に一喜一憂することは避けられない。

いずれにしても、株価や為替の乱高下は、新型コロナの影響がいつまで続き、どこまで拡大するのかに左右される。WHO(世界保健機関)は、「パンデミック」の発生を認め、世界的な蔓延は中国からアジア、欧米へと時間の経過とともに広がっている。収束までには時間を要することは避けられず、東京オリンピック・パラリンピックの開催も危ぶまれている。仮に東京五輪・パラ五輪が中止された場合の経済損失は30兆円を超えると試算されているが、実際の悪影響はそれを遙かに超えると予想される。

世界経済を揺さぶる新型コロナショック

こうした新型コロナショックに伴う損失は、最終的には金融機関のバランスシートに不良債権という「皺」となって集約することになろう。その額がどの程度に達するのかが最大の焦点と見られる。マグニチュードは国内経済にとどまらずグローバルな領域にまで広がる。新型コロナの震源地となった中国経済の落ち込みだけをとらえても、邦銀の中国向けの融資額は英国に次ぐ2番目の高水準だ。それらの債権がどこまで劣化するのか、金融庁や日銀は緊急調査に入っている。国内経済の悪化に伴う中小企業向け融資の不良債権化も懸念材料だ。

新型コロナによる世界経済の混乱は、これまでに経験したことのない形で世界経済を揺さぶっており、その処方箋も従来型の経済対策が効果を上げることができるのか予測不能である。実体経済の悪化は、いずれ金融問題に波及する。新型コロナショックが「金融危機」に発展する可能性も棄てきれない。