誰が勝っても同じ? 米大統領選の行方と日米関係

2020.3.12

政治

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誰が勝っても同じ? 米大統領選の行方と日米関係

スーパーチューズデーで躍進したバイデン氏/写真:ロイターアフロ

今年11月3日に行われるアメリカ大統領選挙。トランプ大統領が再選するか、民主党代表が勝利するか……。毎度予想が難しく、熾烈な争いを繰り広げるアメリカ大統領選は世界中の注目の的だ。

 

そんななか、3月3日に、トランプ大統領に挑む候補者選びの山場となるスーパーチューズデーを迎えた。軸になっているのはオバマ政権で副大統領を務めたバイデン氏と、富裕層への増税や国民皆保険制度を掲げ“異端の政治家”と呼ばれるサンダース氏。安倍晋三首相とトランプ大統領の関係を考えると日本にとってはトランプ氏が勝つことがいいという声もあるが、もし民主党候補が大統領になったとしたら、日米関係にどのような変化をもたらすのか、同じ民主党候補でもタイプの異なる2人について考えてみたい。

スーパーチューズデーで躍進したバイデン氏

3月3日のスーパーチューズデーの結果、これまでアイオワ州とニューハンプシャー州で敗戦し、その後の動向が不安視されていたバイデン氏が14州中10州で勝利し、一気に本命候補に名乗り出た。一部の専門家は、先月29日に行われたサウスカロライナ州での予備選で勝利したことがバネになったと指摘している。

また、バイデン氏の圧勝には、スーパーチューズデー直前に選挙戦からの撤退を表明した前サウスベンド市長のブティジェッジ氏が、バイデン氏の応援にまわったことも大きいだろう。ブティジェッジ氏は、国政経験はないものの、初戦のアイオワ州やニューハンプシャー州の予備選で躍進し、一気に注目を集めることとなったが、サウスカロライナ州の予備選で4位と伸び悩んだ。同じ中道派のブルームバーグ氏も、スーパーチューズデーで伸び悩んで撤退を表明し、バイデン氏を応援することを表明した。

一方、左派のサンダース氏は思うように票を伸ばすことができなかった。スーパーチューズデーの結果、獲得代議員数でサンダースは509人となったが、584人となったバイデン氏に抜かれる形となった。そして、スーパーチューズデー後、同じ左派のウォーレン氏も選挙戦から撤退することを表明したが、執筆時点で誰の応援にまわるかは明らかにしていない。今後、バイデン氏とサンダース氏の対立になることはほぼ間違いなさそうだ。

民主党内の亀裂はトランプに有利

さて、このような状況のなか、トランプ大統領は何を考えているだろうか。おそらく、トランプ氏はサンダース氏が本命候補になることを期待している。左派のサンダース氏では考え方が非現実的過ぎて、トランプ大統領には勝てないという懸念は民主党内部にもあり、トランプ大統領もそれを望んでいることは間違いない。

反対に、中道のバイデン氏が本命候補になれば、オバマ政権で副大統領を務めた実績もあり、正直なところ厄介な対決になるとトランプ大統領は感じているのではなかろうか。

いずれにせよ、今後民主党にとって最大の課題は、ズバリ一つになれるかである。正直なところ、多くの専門家はバイデン氏が本命になるだろうとみているし、“異端”といわれるサンダース氏で民主党が一つになれる確率は極めて低いだろう。バイデン氏を本命にするためいかにサンダースを説得できるかがカギと考える民主党員もいると思われる。

民主党候補を迎え撃つトランプ大統領はというと、サンダースvsバイデンの構図が秋まで続くことを期待している。一つになれないことはそれだけで民主党にとって不利であり、民主党内の亀裂はそのまま自らの首を締める結果になる恐れがあるからだ。11月が近づくにつれ、そういった懸念の声が民主党内からも多くなり、トランプ大統領はそこを突く形で民主党非難を強め、これまでの自らの実績を誇らしげにアピールしていくことは想像に難くない。昨今の米軍の完全撤退を含むタリバンとの和平合意、1月の米イラン危機、「イスラム国」バグダディ容疑者の殺害など、その是非は別として、トランプ大統領なりにアピールできる外交成果は多いのかもしれない。

日本の安全保障にはどう影響する?

一方、この大統領選挙の行方は、日本の安全保障にはどんな影響をもたらすのだろうか。

正直誰が勝利したとしても、日米同盟で大きな変化はないように思われる。トランプ大統領が勝利すれば、安倍トランプの現在の関係が続くだろうし、オバマ政権への回帰を目指しているといわれるバイデン氏が勝利すれば、安倍オバマ時代のような日米関係になることが予想される。仮に、サンダース氏が当選すると(最も可能性が低いが)、最も先が読みにくいのかもしれない。

前回の米大統領選の際、トランプ氏が大統領になったら日米同盟はどうなるか? という大きな懸念があった。しかし、そこは安倍政権の手腕が功を奏したともいえる。今後、前回の米大統領選ほど日米同盟を懸念する声は高まらないと思う。

“誰になっても同じ”はなぜか

では、トランプ大統領、バイデン氏、サンダース氏、それぞれの三者三様のビジョンを掲げているにも関わらず、誰が大統領になっても日米同盟に大きく変化がないのはなぜか。

それは、誰が勝利しようが、“日米同盟において日本に主体的役割を求める”というアメリカのスタンスに変化はないと思われるからだ。誰が大統領になったとしても、アメリカの人権・民主主義という価値を世界に普及させるというブッシュ政権のようなアメリカに回帰する考えは持っていない。

その理由は、筆者が考えるに2つある。まず、対テロ戦争の後遺症である。9.11以降の対テロ戦争は、アフガニスタンやイラクが主戦場となったが、結果として米国史上最長の戦争になり、最も多くの軍事費を費やし、最も多くの兵士が犠牲となる終わりの見えない戦争となった。実際、アルカイダやイスラム国などテロ組織の脅威は拡散し、今後もアメリカにとっては脅威となる。しかし、対テロ戦争はアメリカを政治経済的に疲弊させ、アメリカの介入する気力を失わせた。

もう一つは、大国化する中国の存在だ。筆者もよく安全保障の会議に参加し、アメリカの安全保障専門家と多く議論をするなかでよく聞くのは、“中国の海洋進出は大きな懸念だ、覇権的行動を推し進めている”などの声だが、“中国の大国化、影響力拡大は止められるものではない”という無意識の共通認識が色濃く漂う。アメリカで中国を警戒する動きが強いのは事実だが、“米中の力が均衡してきているという認識”は避けられないものとなっている。日本がある東アジアは、地理的にも中国にとっては最前線、米国にとってははるか太平洋の対岸である。米国では、対中で同盟国の日本の積極的役割を願う声は必然的に強くなっている。

“世界の警察”から撤退するアメリカ

この4年間のトランプ大統領の政策は、わかりやすく言えば、オバマ政権の否定だった。COP25(第25回気候変動枠組締約国会議)やイラン核合意など、オバマ政権時に締結した合意からことごとく離脱した。

両氏は性格も考え方も異にすることは間違いないだろうが、世界の警察官からの撤退、非介入主義という部分では同じ路線を歩み、両者の間には共通性も見られる。

オバマ前大統領は2013年9月、世界の警察官からの撤退を表明したが、トランプ大統領も2018年末のイラク訪問の際、アメリカは世界の警察官であり続けることはできないとの意思を示している。2017年の北朝鮮危機、今年1月のイラン危機のように緊張が高まる事態も考えにくいが、非介入主義のアメリカが続くことを我々日本人は意識しておくべきだろう。