アメリカ政府は2020年8月、通信網や携帯電話用アプリ、クラウドサービス、海底ケーブルなど通信関連の5分野で、中国企業を排除する「クリーンネットワーク」計画を提唱し、各国に協調を呼び掛けたが、日本政府は現時点で参加を見送る方針を米国側に伝えたという。新型コロナウイルスが米中緊張に拍車を掛けるなかでも、日本政府は安全保障と経済という天秤の狭間でバランスをとった外交を展開せざるを得ない現状がうかがえる。しかし、今日、米中のはざまで日本以上に難しい立場にあり、国際社会で孤立しているのは韓国だ。
“対中けん制”色を強めたクアッド会議
10月上旬、東京では日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4か国外相による安全保障会合「クアッド会議」が開催された。アメリカのポンペオ国務長官が冒頭から、「共産党の搾取、腐敗、威圧からパートナーを守らなくてはならない」と習政権を強く非難するなど、クアッド会議はこれまでになく“対中けん制網”としての色合いが濃くなっている。
安全保障上、韓国はアメリカの同盟国であり、これまで韓米同盟が北朝鮮を抑止する極地同盟として機能してきたことは間違いない。だが、地域の主要国が集るクアッド会議に韓国は参加していないどころか、今回ポンペオ国務長官はクアッド会議後に韓国を訪問する予定(トランプ大統領の新型コロナ感染が原因とも言われるが)を急遽キャンセルした。
そして、クアッド会議の様相はこれまでとは異なる。新型コロナウイルスの感染拡大に加え、香港国家安全維持法や中印国境での衝突なども影響し、オーストラリアとインドがこれまでになく反中包囲網で米国に接近するなか、クアッド会議は多国間安全保障協力の様相を呈している。最新の情報によると、インド国防省は10月19日、日本や米国が参加する今年の共同軍事訓練「マラバール」にオーストラリアが参加すると発表した。2017年にオーストラリアがマラバールへの参加を打診した際、中国を考慮してインドはそれを拒否した経緯がある。
また、日本の防衛省でも同日、日豪防衛相会談が開催され、自衛隊が豪軍の軍艦などを防護するいわゆる「武器等防護」の実施に向けて調整していく方針が表明された。実施されれば米国に次いで2カ国目となり、日豪は“準同盟”化しているとの見方もある。これら二つは大きな変化がであり、インドとオーストラリアが中国への懸念を強めている証であろう。
対中においてクアッドの結束が顕著になるなか、浮き彫りになる韓国の孤立。そもそも米韓関係はなぜこじれてしまったのか。
米韓関係悪化の背景、二つの事情
これまでのアメリカを中心とするハブ・アンド・スポーク型の安全保障体制では中国の海洋覇権は止められないとの声も上がるなか、アメリカにはクアッド会議を軸としてインド太平洋地域で多国間安全保障協力を制度化したい狙いがある。そうなると、同盟国である韓国にも一定の役割が求められるが、韓国は悪化する日韓関係を問題に挙げ、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄をちらつかせるなど、米国の強い不信感を買うことになった。
最近では10月14日、ペンタゴンで第52回米韓安保協議会が行われたが、両国は防衛費分担金問題などを巡って激しく衝突するだけでなく、共同声明からは、昨年とは異なり「在韓米軍の現水準を維持」という表現が取り除かれ、予定されていた両国国防トップの記者会見も中止される事態となった。
韓国がクアッド会議に積極姿勢を示さず、近年米韓関係が悪化する背景には二つの特有の事情がある。一つは韓国経済の対中依存だ。韓国の全国経済人連合会は9月上旬、コロナ禍において輸出と投資の両面で韓国の中国への依存度が高まり、韓国の輸出全体に占める中国向け比率が25.8%(2020年1月~7月)に及び、前年同期比で1.5ポイント上昇したと明らかにした。
そして、経済安全保障の重要性が増すなか、8月下旬には、中国の楊潔篪共産党政治局員が釜山で韓国の徐薫国家安保室長と会談し、新型コロナウイルスの問題が落ち着き次第、習近平国家主席の訪韓を調整することで一致した。さらに、香港国家安全維持法が6月に国連人権理事会で審議され、米国の同盟国である日本やオーストラリア、ニュージーランドが不支持に回るなか、韓国はその是非の判断を棄権した。
もう一つは、北朝鮮である。米朝関係改善がいっそうに進まないなか、仮に現状のままで韓国がクアッド会議へ積極的に関与すれば、中国だけでなく北朝鮮も難色を示すことは想像に難くなく、6月の南北連絡事務所爆破のような挑発的な行動を見せる可能性もある。一方、文在寅政権下では北への融和政策が維持されることから、同政権がクアッド会議と距離を置く姿勢を取ることは十分に想像できる。文在寅大統領としても、米韓同盟の重要性は分かっているはずだが、それによって南北融和が遠のくことは避けたいとの思惑が働いている。
方針変更がない限り韓国の孤立は止められない
11月3日のアメリカ大統領選では、バイデン候補が有利な状況である。このままいけばバイデン候補が勝利するが、韓国が現在のスタンスを維持するならば米韓関係の改善は見られないだろう。トランプ大統領もオバマ前政権の継承を宣言するバイデン候補も、同盟国の役割拡大では同じ考えであり、ポスト文在寅時代で“対北強硬、対米重視”の指導者が誕生しない限り、米韓関係の改善は期待できず、クアッドの枠組みに韓国が加わることは想像し難い。米中対立が激しくなり、クアッドの結束が顕著になる中、韓国は安全保障上、孤立化への道を歩み進んでいるともいえる。