「環境銘柄に投資すれば儲かる」というのが投資家の共通認識になっている。実際、ESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)に関連した環境銘柄の株価上昇は、インデックスを上回るパフォーマンスを上げている。金融緩和やコロナ禍に起因する財政出動で行き場を失った巨額なマネーが「環境」という格好のキーワードを得て株式市場に流入し、関連する株価を押し上げている格好だ。本当に環境に資するかどうか、実態のあるなしにかかわらず、期待が先行する一種の流行(バブル)的な要素を含んでいる部分もあるが、市場のトレンドとなっていることは確かだ。
ESG投資は収益の極大化に合致する
環境投資が活発化したのは2015年9月に国連のSDGs、さらに同年12月に地球温暖化防止の国際的な枠組みであるパリ協定が採択されたことが背景にある。異常気象や大災害が頻発していることもあり、環境問題への関心は年々、高まっている。
この流れに呼応するように環境投資も急増。国際金融協会(IIF)の調査では、2010年代前半に4000億~5000億ドルに過ぎなかったESG関連投資の残高は、2019年末に8600億ドル、2020年末には1兆3000億ドルまで膨張している。環境関連企業の株価が高騰するのは故なきことではない。
とくに年金基金など機関投資家の中からは「リターンをある程度犠牲にしてもESGに貢献したい」とする声が強まっている。機関投資家の受託者責任、いわゆるスチュワードシップ・コードが問われるなか、直接的な収益以上に、環境保全という社会的な利益を優先すべきではないかというわけだ。
だが、この意見には別の側面もある。つまりESGを重視した投資を行うことは一見するとリターンを犠牲にしているように見えるが、実は長期的な視座に立ってみれば収益の極大化を図る最適な運用行動に合致するという考え方だ。
実際、ここ数年の運用成果を見た場合、ESG投資は結果的に最適な投資スタイルであり、最高のパフォーマンスを上げているといえる。冒頭の「環境投資は儲かる」というフレーズは的を射ているわけだ。
組成が相次ぐ環境事業への融資
ESGをはじめとする環境投資はこれまで欧州が先行する形で進められてきたが、ここにきて日本も急速にキャッチアップしつつある。特に2020年10月に菅義偉首相が所信表明演説で2050年までに「カーボン・ニュートラル(温室効果ガスのネット排出ゼロ)」を宣言したことが大きい。
この菅首相発言を受け、経済産業省は12月に「グリーン成長戦略」を公表、「脱炭素社会」の実現に向けて民間部門の技術革新を支援する2兆円の基金を設けることを決めた。また、政府系金融機関や民間金融機関のファイナンスを通じた脱炭素事業へのテコ入れも進めている。
ESGに数値目標を設定して、それに合致した企業のESG事業について優遇金利で融資する「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」はその典型であろう。日本で初めてSLLを手掛けたのは三菱UFJ銀行で、2019年11月に日本郵船向けに組成した。その後、大手銀行で組成が相次ぎ、これまでに15件が成約している。また、2020年秋には地方銀行で初めて滋賀銀行が、汚染土壌などを処理する地元の山﨑砂利商店(大津市)向けに5億円を優遇金利で融資した。
さらに「環境預金(グリーン預金)」なるものも登場している。三井住友銀行は、まず2000億円をめどに企業や機関投資家から預金を募り、再生可能エネルギー発電など、二酸化炭素の排出削減につながる事業に的を絞った融資を行うという。いわゆるグリーン事業にひもづけされた目的型預金である。資本市場ではESGファンドやグリーンボンド(環境債)などは一般的になっているが、「環境預金」の登場は注目に値しよう。
こうした投融資を通じた環境支援は今後も増大していくことは間違いない。社会的な要請がそれを後押しするが、裏を返せば、「環境投資、脱炭素化はカネになる」という投資家や金融機関のしたたかな読みがあるといえそうだ。