総裁選・総選挙めぐり首相が迷走? 9月解散報道もすぐに否定

総裁選に向けて二階幹事長も交代するといわれる。 写真:Motoo Naka/アフロ

総裁選・総選挙めぐり首相が迷走? 9月解散報道もすぐに否定

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9月29日投開票としている自民党総裁選や秋までに行われる衆院総選挙をめぐり、菅義偉政権や自民党内の動きが活発化している。菅首相は自らの後見役だった二階俊博幹事長を党役員から交代させる方針を固めて永田町に衝撃が走ったかと思えば、8月31日には一部の全国紙が「9月中旬解散、総裁選先送り」と報道。翌朝には菅首相自ら否定するなど、永田町では慌ただしいスピードで政局が揺れ動いている。こうした動きの背景は? 菅首相の狙いとは?

次々と変わるシナリオ

「首相、9月中旬解散意向 党役員人事・内閣改造後 総裁選先送り」。毎日新聞は8月31日夜、電子版で衝撃的な「スクープ」を放った。

毎日新聞を含めた主要紙はいずれも8月31日の朝刊で、首相が9月上旬に党役員人事を行った上で総裁選に臨み、衆議院議員の任期満了か、それに近い日程での衆院選になるとの見立てを書いていた。首相もかねて「新型コロナウイルス対策を優先する」として解散に否定的な見解を示してきただけに、永田町では衝撃が走った。

毎日新聞の報道に引っ張られるかのように、新聞各社は9月1日付朝刊に「菅首相、9月中旬解散の選択肢を二階氏に伝達」(朝日新聞)、「『9月中旬解散』観測も」(日本経済新聞)との見出しを掲げたが、その観測はすぐにしぼむこととなる。菅首相が1日午前にきっぱり否定したからだ。

菅首相は記者団に「最優先は新型コロナウイルス対策だ。今のような厳しい状況では解散はできない」と断言。自民党総裁選についても「先送りは考えていない」と述べた。

衆院解散や総選挙をめぐって日々、さまざまな情報が飛び交っているのは「菅首相があらゆるシナリオを検討しているからだ」と首相に近いジャーナリストは語る。総裁選と衆院選を勝ち抜き、今秋以降も政権を維持していくための方策を日々練っているなかで、相談を受けた側近議員や政権幹部から情報の一部が漏れ、さまざまな記事につながっているのだという。首相は報道後の永田町や世論の反応も見ながら、戦略を練っているとみられる。

菅首相の生き残り戦略

例えば今回の「総裁選先送り」報道はさっそく党内の大きな反発を招いた。総裁選についてはすでに党選挙管理委員会が9月17日告示、同29日投開票の日程と決めたばかりで、それを覆すとなれば「自分の延命のことしか考えていない」と言われてもおかしくないからだ。総裁選への出馬を表明している岸田文雄前政調会長も8月31日のテレビ番組で「党のルールに従って日程も決まっている。ルール通り、しっかりやるべきだ」とけん制した。

二階幹事長の党役員交代も菅首相の生き残り戦略の一部だ。二階幹事長は昨年、安倍晋三前首相が辞任を表明した際、真っ先に官房長官だった菅氏の支持を表明した、いわば菅政権の生みの親。今回の総裁選や衆院選後も継投するとみられていたが、首相は8月30日に二階氏と首相官邸で会談した際に党役員人事を行う考えを提示。二階氏も辞任を受け入れる考えを示し、電撃的な幹事長交代が決定した。党役員人事は来週中にも行われる予定だ。

二階氏をめぐってはこれまでも強引な党運営などに若手議員などから批判があり、菅首相の後ろ盾となっている安倍前首相や麻生太郎副総理兼財務相との折り合いの悪さも指摘されてきた。菅首相は“党の顔”を、高齢でこわもての二階氏から国民受けの良い議員に挿げ替えることで支持率の上昇を狙うとともに、党内第4派閥の二階派を切ってでも実質的に安倍氏が率いる最大派閥の細田派、第2派閥の麻生派の支持を固める狙いがあるとみられる。

また、総裁選における最大のライバルになりそうな岸田氏に対する“争点つぶし”の側面もある。岸田氏は8月26日の出馬会見で「自民党を若返らせる」と表明し、総裁を除く党役員の人事を3年までにして若手を積極的に登用する考えを示した。安倍政権時代の2016年8月に幹事長へ就任し、在任5年超で歴代最長を更新し続けている二階氏を標的にした改革案だったが、二階氏を交代させることで総裁選の争点になりにくくなった。

自民党議員は菅首相をどう思っているのか?

ただ、菅首相が生き残りに向けてもがけばもがくほど、党内の求心力は低下する一方だ。二階氏の交代は「恩人を切り捨ててまで自分は生き残りたいのか」との批判があるし、総裁選先送り報道には「そこまでして首相の座にしがみつくのか」との声が漏れる。ある中堅議員は「地元を回っていると菅首相の悪口しか言われない」として、「首相がこのままでは選挙に勝てないことを自覚し、自ら身を引いてくれることが唯一の希望だ」と明かす。

菅首相は党内の主要派閥を抑えて総裁選を勝ち抜くつもりかもしれないが、各派閥も盤石ではない。選挙地盤の弱い若手議員などは自分の選挙のことを考えて派閥の方針に従わず、総裁選で首相に投じない可能性もある。自民党総裁選は無記名投票とするのが慣例。ふたを開けたら造反ばかりということもありうる。

日本経済新聞が8月27~29日に実施した世論調査で、「次の自民党総裁にふさわしい人」を聞いたところ、上位常連の河野太郎行政改革担当相(16%)、石破茂元幹事長(16%)に続き、立候補表明したばかりの岸田氏が13%で3位に入った。岸田氏は前回調査の4%からの急浮上で、11%だった菅首相を一気に追い抜いた。小数点以下の差で2位となった石破氏も当初の慎重姿勢から一転、総裁選に立候補する可能性を示唆している。

総裁選の告示まで約2週間。永田町の動きから目が離せない状況が続きそうだ。

さすがに国民も冷ややかな目で見ている

政権末期だ。菅首相が就任したときのブログに、就任後すぐに解散しなかった場合は1年の短命政権に終わる、と書いた。その通りの筋書きで進んでいる。

ここ最近の動きはなりふり構わずに、いかに自分が総裁の椅子にしがみつくかしかないように思える。総裁選前の衆議院解散報道(すぐさま否定はしたが)などもそうだが、付ける薬もなさそうだ。

対抗馬の岸田氏が、二階幹事長交代をにおわして人気が上がると、その週に役員人事をやると言い出す始末。解散間近で緊急事態の今、国会も開かずに役員人事をやるなど普通じゃない。それで政権浮揚を図ろうなどとは浅はかだ。

さすがにもう国民もコップの中(自民党内)の争いを冷ややかな目で見ている。確かに野党第一党の党首が枝野氏(失政続きの民主党時代の官房長官)なので、あちらの支持も上がらないだろうが、今の自民党は総選挙で相当痛い目を見ることを覚悟した方がいい。

※9/2 10:00更新