1999年から続くテレビ朝日の科学ミステリードラマ「科捜研の女」が、初めて映画になってスクリーンに登場する。科学を駆使して難事件を解決する骨組みはそのままに、主演・沢口靖子のアクションや、名建築を使ったこだわりの画づくり、主人公の榊マリコと彼女を取り巻く人々の素顔など、劇場版ならではの魅力がたっぷり。映画の見どころを紹介する。
『科捜研の女 -劇場版-』
劇場公開:9月3日(金)/配給:東映
出演:沢口靖子 内藤剛志 佐々木蔵之介 若村麻由美 風間トオル 金田明夫 斉藤暁 西田健 佐津川愛美 渡部秀 山本ひかる 石井一彰
脚本:櫻井武晴 音楽:川井憲次 監督:兼﨑涼介
ストーリー:京都府警科学捜査研究所、通称・科捜研の法医担当・榊マリコ(沢口靖子)は常に科学のことで頭がいっぱい。ナンパ目的の男性も近づけないほどだ。ある秋の夜、マリコの盟友で法医学教授の風丘早月(若村麻由美)は、同僚の石川教授(片岡礼子)が「助けて、殺される!」と叫んで転落死するところを目撃。マリコたちは事件性アリと判断して動き出す。生前、石川が東京まで会いに行った帝政大学の天才科学者・加賀野(佐々木蔵之介)が捜査線上に浮かぶが、尻尾をつかめないまま、世界各地で科学者転落事件が続発し……。
※「榊マリコ」の「榊」は「木」偏に「神」
テレビシリーズの魅力を濃縮した劇場版
「科捜研の女」は1999年に放送が始まり、2011年からは2クール化されたり、近年はドラマとして非常にまれな通年放送まで行われたりと勢いが増している。
人気を支えるのは第一に、科学を深く愛し、新たな技術や見識の獲得に余念がない主人公・榊マリコの爽やかなキャラクター。仕事一途なマリコと土門刑事(内藤剛志)の男女コンビは、恋愛ではくくれない信頼関係を築いており、「ドモマリ」呼びが広まるなど、コンビ人気も年々高まっている。
また、法医、化学、文書解析、凶器鑑定、映像解析など、メンバーそれぞれが異なる強みを持ち寄り、上司部下の区別なく意見を出し合いながら仕事を進める科捜研チームのあり方も、20年前よりも今いっそう支持されているのではないだろうか。
そして何より、難事件×科学捜査、難事件×社会問題という切り口を持った充実の各回ストーリーが、幅広いファンを満足させてきた。
今回の劇場版は、ドラマシリーズのメインライターの一人、櫻井武晴が筆を執り、これらの魅力がさらに増幅されるような脚本を書き下ろした。「相棒」シリーズやアニメ「名探偵コナン」の劇場版などを手掛けてきた櫻井が「『科捜研の女 -劇場版-』は完全に満足がいくものになっていて、これまでに書いた映画で初めて、一観客として楽しんで見ることができました」と自信をのぞかせている。
事件はかなり複雑だが、観客の理解を助けるセリフや、沢口をはじめとする俳優陣の明瞭なセリフ回し、制作陣による効果的な文字情報の使い方などのおかげで、難しく感じずにストーリーに没入できる。シリーズのファンはもちろん、初見のサスペンス好きや映画好きも楽しめる内容だ。
元夫や科捜研の元メンバーなど、歴代キャラクターが集結
本作について、櫻井はまた、シリーズのファンへ贈る「『お祭り映画』を書いたつもり」と語っている。最近は登場していなかった歴代キャラクターが次々と登場し活躍するのは、まさに“お祭り”のような華やかさ、楽しさだ。
例えば、マリコの元夫である倉橋拓也(渡辺いっけい)は、連ドラ第3シーズン以来の登場。警察庁の刑事指導連絡室長として、土門の捜査手法の是非を明らかにする立場だが、マリコとのシーンではちょっと笑える一幕も用意されている。
マリコの父・伊知郎(小野武彦)は、科捜研の鑑定を精査する立場で登場する。いわば父と娘が敵味方に分かれたような構図になるが、科学に身を捧げてきた親子の心には通じるものがあり、榊家なりのファミリードラマがある。
かつてマリコにプロポーズして即断られた風変わりな解剖医の佐沢真(野村宏伸)も、にぎやかに再登場を果たす。劇場で観ると騒々しさもひとしおだが、けたたましいだけでは終わらないので期待してほしい。
以前は科捜研の研究員だった相馬涼(長田成哉)や吉崎泰乃(奥田恵梨華)もマリコたちに協力する。相馬はカナダの研究所で働いており、科捜研の物理担当・呂太(渡部秀)とオンライン飲み会を楽しむシーンも描かれる。英語のセリフや、背景に映るログハウスなど、カナダを強調した演出が面白い。秦乃と涌田亜美(山本ひかる)の新旧映像データ担当は、新しいツールに揃って目を輝かせる姿がキュート。
もちろん、現レギュラーメンバーも活躍する。序盤に、メンバーの自宅や家族、家族に見せる顔などが“おさらい”的に描かれるシーンがあるのが、いかにも劇場版らしくて幕開けからワクワクさせられる。
これだけの登場人物が次から次へと出てきて、どう収拾がつくかといえば、扇の要を担っているのが主人公の榊マリコだ。後半へいくにしたがってマリコが周囲の人間を片っぱしから振り回し、それに対して各キャラがそれぞれのやり方でツッコミを入れ……入れながらもマリコに手を貸すところに、えもいわれぬグルーヴ感が生まれる。冷静になって振り返ると、ところであの人は何しに出てきたんだっけ?と、ふと疑問に思うキャラが一人二人いる気もするが、少なくとも鑑賞中は映画に気持ち良く身を委ねられる。
映像がドラマチック、安藤忠雄建築でのロケも効果的
ストーリーはいつもの科捜研らしさを大切にしつつ、映像は映画らしさを極めた。監督は、2009年から連ドラの演出陣に加わった兼﨑涼介。鮮烈な映像センスに定評のある演出家だ。
兼﨑監督は、映像も物語も「これまで以上に大胆でドラマチック」なものを目指すと述べていたが、映画を観ると特にその画づくりのドラマチックさに感嘆する。第一の転落死事件の犠牲者は、イチョウの落ち葉で黄色く染まった地面に横たわり、第二の犠牲者は京都・先斗町で色とりどりの番傘の真ん中に転落する。この番傘のカットまでの映画序章は、テンポの良さを含め、非常に洗練されている。
“シリーズ史上最強の敵”となる加賀野を擁する帝政大学は、ロケ地に日本を代表する建築家・安藤忠雄の手になる綾部工業団地・交流プラザ(京都府綾部市)と大阪府立狭山池博物館(大阪府大阪狭山市)が選ばれた。どちらも直線で大胆に空間を切り取る美しい建物で、コンクリート打ち放しのひやりとした質感が印象的だ。これを背景に、黒の衣装に身を包む加賀野や、彼に協力する奇妙な双子(演:駒井蓮、水島麻理奈)が登場すると、禍々しさが際立って、とても見栄えがする。
加賀野がダイエット菌の研究を行う実験室は、ステージの上に透明なドームを設置したもの。加賀野の不気味さや底知れなさを強調する妖しい造りになっている。ドーム内でやり合う加賀野と土門、加賀野とマリコのシーンは息詰まるような緊張感がたまらない。
内藤剛志はこの実験室での佐々木蔵之介との共演について、「セットが舞台風だったので、舞台俳優でもある彼の芝居を特等席で見ているような感じでした」と語る。沢口も「佐々木さんはお芝居にスイッチが入るとすごい迫力で、気圧されそうになり心を強く持って臨みました」と畏敬の念を口にした。
もちろん、科捜研らしく、京都の風景も映画の随所にちりばめられている。先斗町のほかに、マリコと土門が前・刑事部長の佐久間(田中健)と再会する錦市場や、紅葉が美しい東福寺、大覚寺などが目を引く。
沢口靖子が4メートル宙吊りアクション
沢口靖子が挑戦した大規模なアクションシーンも見どころ。どんなシーンなのかは明かせないので、ここでは撮影模様を紹介したい。
沢口はスタントマンの手本を見た後、ワイヤーを装着すると、いつもと変わらない落ち着いた様子で丁寧に動きを確認。最初は飛ぶタイミングや体のバランスの取り方に苦戦したものの、何度か繰り返すと、監督からの細かい注文に応えられるまでになった。
さらには4メートルほどの高さまで吊り上げられるアクションは「生まれて初めての体験」だったにもかかわらず、怖れることなく何度も演技を。たくさんの要素が絡むシーンのため、なかなかOKが出ないなか、最後まで集中力を途切れさせずに演技を続けた。
完成したシーンは、沢口やスタントマンら現場の努力の甲斐あって、圧巻。美しく壮観なアクションシーンを、ぜひ劇場の大スクリーンで観てほしい。
Cちゃん
めっちゃ詳しく、書いてあって分かりやすい。
2022.9.7 19:34