デジタルシフトにコロナ禍が重なり、ここ数年で企業採用でもオンライン面接(web面接)が盛んになりましたが、本来受かるだろうと思われる学生が落ち、そうではない学生が合格・内定するという逆転現象が起きています。何が変わったのでしょうか?
対面よりオンラインが得意な学生
私は、就職・公務員受験の予備校の講師をしており、20年以上面接対策も担当しています。生徒の性格や能力を把握し、また、企業・官庁や自治体の採用傾向も知った上で面接対策を行っているため、大体この学生は大丈夫だろう、この学生は危ないなという予想が、対面面接では、ほぼ外れない状態でした。しかし、オンライン面接が導入されて以来、その予想が覆される事態が生じています。
学生の合否を基に検証した結果、オンライン面接では通常の対面面接の要素に加えて、面接時の環境要因が大きくかかわってきていることがわかりました。
対面では面接する側もされる側も居る場所は同じで、環境について何も考える必要はありませんでした。しかし、オンライン面接ではそれぞれが居る物理的な場所が異なるため、これらの影響が合否に大きく影響しているようです。
例えば、通信環境が貧弱なためアプリが使えない、通信が途切れるといったことをはじめ、画面がフリーズし面接自体が成立しなかったり、逆光で顔が見えなかったり、顔がドアップで映っていたり、背景に雑然とした部屋が映っていたり、上からのぞき込むように面接をしていたり、視線が合わなかったり、宅配便のチャイムが鳴ったり、猫が侵入してきたり……さまざまな環境要因事例がありました。
今ではオンライン面接のための注意事項として約50項目のチェック項目を挙げ学生に指導しています。
面接対策もオンライン面接を想定してやるわけですが、多くの学生が評価を下げるなかで、日ごろの印象より大きく印象を改善し対面より評価が格段に上がる学生がいました。以下、評価ポイントの例です。
- 他の学生より通信環境・機材が整っている
- 他の学生より通信アプリの操作に慣れている
- 光、画角、場所(背景)などが整備・配慮されている
- オンラインで相手に自分がどのように見えているかイメージできている
- 日常よりややオーバーな表情をする
- 日常より端的で強弱をつけた受け答えをする
彼に聞いたところ、彼は日ごろから動画をアップし、動画の作成のノウハウを持っていたほか先述の環境要因に対する対策は自然とできている上、熱心に他の動画コンテンツも日々研究しているとのことでした。
普段は少し消極的なイメージのある学生ですが、オンライン面接では “オンラインモード”になるらしく、普段はおとなしいお笑い芸人さんがステージに立ったときのように(?)、大きく印象が変わります。面接の評価もA~D段階で評価すると、彼の対面での評価はCですが、オンラインでの面接はAです。
オンライン面接は「従」から「主」へ
官庁、自治体、企業の人事担当者らの話を聞くと、オンライン面接のメリットとしては、場所や時間の制約が少なく、多くの人材と会うことができる。コスト削減ができる。面接の機会や回数を増加することができる、などの意見がありました。
逆にデメリットを挙げると、コミュニケーションが取りづらい、(お互いの)熱意が伝わりづらい、などの意見があります。総じて、オンライン面接を対面面接の補足的なものととらえているケースが多いと感じます。
一方、業種・業態により違いはありますが、今の世の中で求められる人物像は「Webに強い人物」というのは間違いありません。従来の企業の多くが採用基準の最重要項目として挙げた対人コミュニケーション能力も、オンラインを通じたコミュニケーション能力に変化してくると考えられます。
実際に、コロナをきっかけとしてDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進み、Society 5.0を迎える社会にあって、企業が生き残るためには、Webを前提に物事を考え、対応できる人材をどれだけ揃えられるかが大きなカギになります。
つまり、企業を発展させるためにはWebを通じて自分をアピールできる人材を揃える必要があります。そして、その資質を見出すための手法として、オンライン面接が現在の「従」から「主」に変わるのはそう先ではないでしょう。今後の成長を考える組織は、オンライン面接を含むWeb採用をより積極的に発展させた形で行うべきだと私は考えます。