10月31日の衆院選投開票に向け、与野党の舌戦が熱を帯びている。ただ、与野党ともに候補者の口から出るのは「分配」ばかり。各党の公約を見ても「給付」「支援」「減税」などバラマキともとれる政策のオンパレードで、その裏付けとなる財源にはほとんど触れていない。コロナ禍で家計や経済への支援は必要にせよ、その先、傷んだ経済、財政をどう立て直していくかにも政治は真剣に向き合わなければならない。
新型コロナを“後ろ盾”にいつも以上のバラマキ合戦
「雇用調整助成金により、雇用と暮らしを守る。非正規雇用者・女性・子育て世帯・学生をはじめ、コロナでお困りの皆様への経済的支援を行う」(自民党)
「個人の年収1000万円程度まで実質免除となる時限的な所得税減税と、低所得者への年額12万円の給付」(立憲民主党)
「0歳~高校3年生まですべての子どもたちに『未来応援給付』(一人あたり一律10万円相当の支援)を届ける」(公明党)
各党の公約を見ると、大盤振る舞いの政策が並ぶ。ただでさえ政権交代をかけた衆院選は有権者に耳障りのいい政策を並べがちだが、今回は新型コロナウイルスという“後ろ盾”を得て、いつも以上にバラマキ合戦の様相を呈している。
確かにコロナ禍で事業の継続や生活がままならないという人に、支援の手を差し伸べることは必要だろう。しかし、新型コロナの急拡大で生活や働き方ががらりと変わった2020年とは異なり、今や「withコロナ」も定着し、ワクチン普及の効果か新規感染者数もぐっと減った。雇用調整助成金のように業種を構わず一律に企業を支援したり、一律に現金を配ったりするのが急務とは考えにくい。立憲民主が所得税を免除するという個人の年収1000万円も平均年収(436万円)の2倍以上。そんな人まで税金をタダにする必要があるのだろうか。
与野党ともに財政再建案は策無しも同然
もちろん、日本の財政が裕福だったら問題ないだろう。しかし、この国の借金の残高は今年の3月末時点で1216兆円。GDP(国内総生産)の2倍を超え、その比率は第2次世界大戦中をも上回る。高齢化で社会保障費が年々増加しているのに加え、新型コロナを受けた財政出動により一気に借金が100兆円増えて過去最高を更新した。
そんな状況で、バラマキの財源はどうするのか。各党の公約を見る限り、真剣に向き合っているとは言い難い。自民党は「大胆な危機管理投資」と「成長投資」で経済成長を図るというが、危機管理投資というのは自民党が得意な公共工事のこと。成長投資とは「日本に強みのある技術分野」への投資としているが、これまでも同じことを言い続けてきた結果、半導体や家電など多くの分野で他国に追い抜かれていった。今までの政策の延長で欧米やアジア諸国に比べて見劣りする経済成長率が今後、急回復するとは到底思えない。経済成長をバラマキの財源としてあてにすることはできないだろう。
対する野党も無責任だ。立憲民主や国民民主党は給付金などに加え、消費税率の5%への時限的な引き下げを盛り込んでいるが、約20兆円にものぼる巨額の税金をどう穴埋めするというのか。大企業や富裕層への課税強化を主張しているが、到底賄いきれるものではない。本気で政権交代を果たそうという気があるのか疑われても仕方ない。もし、政権交代を実現すれば「子ども手当」などを掲げて政権交代を果たし、大混乱に陥った民主党の二の舞になりかねない。
何でもかんでも国債発行では芸がない
バラマキ政策をめぐっては、国の財布を司る財務省の事務方トップ、現役の次官が公然と批判したことも話題となった。10月発売の月刊誌に寄稿し、新型コロナの経済対策をめぐる政策論争を「バラマキ合戦」と批判した上で「このままでは国家財政は破綻する」と断じたのだ。
現役官僚が公然と政治を批判するのは異例中の異例。日本の財政が本当に破綻するかなど賛否はあるが、自らのクビを覚悟してまで公言したということは、それだけ本気で危機感を抱いているということだろう。
確かに新型コロナの流行以降、財政再建に関する議論は全くというほど聞かれなくなった。自民党は前回の2017年衆院選で公約に「基礎的財政収支の黒字化」と明記していたが、今回選挙ではその文言を削った。政府は国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2025年に黒字化する目標を定めているが、9月の総裁選で岸田首相は「必要であれば先延ばしも考えなければならない。目標ありきではない」と指摘。自民党の高市早苗政調会長は「一時的に凍結に近い状況が出てくる」と語っている。
新型コロナという異常事態の発生で2025年の目標達成は難しくなったが、あくまでも一時的なことで、いずれは財政再建に向き合わなければならない時がくる。高市政調会長は日本国債について「自国通貨建てだからデフォルト(債務不履行)は起こらない」というが、だからといっていくらでも借金を積み重ねられるわけではない。社会保障費が今後も膨らんでいく中なか、どのように財政を立て直していくかは政治の未来への責任だ。